先月、群馬県の地元紙の一面に利根川水系の治水対策についての記事が掲載されました。紙面記事より以下に紹介します。
◆2024年11月27日
ー気温上昇備え治水対策 本県関係3流域協がプロジェクト 40年、雨量1.1倍想定 河道掘削や居住誘導ー
群馬県内を流れる利根川など一級水系の流域自治体や関係機関でつくる三つの流域治水協議会=ズーム=は、気候変動を踏まえた治水対策の全体像「流域治水プロジェクト」をそれぞれまとめた。2040年ごろに気温が2度上昇して雨量が1.1倍に増え、従来想定の2~20倍の浸水被害が出ると想定。被害を最小限にするため、堤防や河道掘削といったハード整備と並行し、流域自治体は立地適正化計画などで水害リスクを考慮したまちづくりを進める。
河道掘削や居住誘導
国は流域の全ての関係者が協働で水害を軽減させる「流域治水」を打ち出し、全国の水系ごとに協議会を設置した。群馬県関係は「利根川上流」「烏川・神流川」「渡良瀬川」の3協議会。各河川の管理事務所が事務局となり、「流域治水プロジェクト2.0」を今春策定した。
利根川上流協は北毛から県央、東毛の23市町村を含む関東5県51市町村が参加。雨量1.1倍で洪水が起きると、浸水被害は従来想定の3倍の約120万世帯に達し、邑楽郡に加え、群馬、埼玉、栃木の3県境エリアなどで被害が増大すると予測する。
高崎、藤岡など10市町村と埼玉県の2町が参加する烏川・神流川協は、浸水被害は2倍の約1万500世帯になると試算。現状では高崎、藤岡両市を中心とした浸水エリアが埼玉県側で広がると見ている。
被害想定の増加幅が最も大きい渡良瀬川流域では、追加対策をしないと、浸水被害が20倍の7600世帯に達すると試算する。桐生、太田など7市町と栃木県4市が協議会を構成。30年間で従来の河川整備計画の2倍の22.4㌔の堤防を整備し、35倍の262万3千立方㍍の河道掘削を進める。
こうした対策工事は長期にわたるため、既存のダムや調節池の活用に加え、最新機器の活用やソフト対策を加速させる。利根川上流協は河川での巡視・点検の情報把握を無人航空機で行い、人工知能(AI)による画像分析で異常を判断するなど省力化を検討する。
烏川・神流川協は内水氾濫対策として下水道計画を見直し、排水ポンプ、雨水幹線の整備を掲げる。
いずれの協議会も各自治体が立地適正化計画を作り、水害リスクの低い地域への居住地の誘導を目指す。小中学校での防災教育の推進、自主防災組織の活動支援にも取り組む。
渡良瀬川河川事務所の塚原千明副所長は「例えば、大雨時に過程で水の使用を控えることも被害防止に役立つ。住民を含むあらゆる関係者が協働で取り組む必要がある」と指摘する。(三神和晃)
—転載終わり—
記事によれば、河川行政は地球温暖化による洪水の増加を踏まえて、従来の河川整備計画を上回る河川改修工事を進めるとのことです。
河川整備計画とは、1997年の河川法改正によって河川管理者が策定を義務づけられたもので、今後20~30年後の河川整備の目標が書かれています。
利根川水系の本流の河川整備計画(利根川・江戸川河川整備計画)は、河川管理者である国土交通省関東地方整備局が2013年に策定しました。この計画は八ッ場ダム計画の上位計画にあたります。河川整備計画に八ッ場ダム計画が書き込まれたことによって、八ッ場ダム計画はこの時点でようやく正式に法的に位置づけられました。
八ッ場ダムに関しては流域住民に反対意見が多く、利根川・江戸川河川整備計画の策定にあたり、ダム計画の位置づけの実を目的とした国交省の策定作業に大きな批判がありましたが、国は反対意見を封じるように早急に計画を発表しました。
利根川水系の支流では、渡良瀬川や鬼怒川など河川管理者が国である支流では国が、烏川や神流川など県が管理している支流では県が河川整備計画を策定してきました。河川整備計画の策定を義務づけた改正河川法では、河川管理者が地元自治体や流域住民の意見を聴いて計画を策定することになっていますが、策定過程での意見聴取は形式的で、流域の自治体や住民が具体的に治水の在り方について考えたり、河川管理者(国や県)と意見を交わす機会はほとんどありません。
今回は国が新たに導入した「流域治水」の概念に基づいて、河川整備計画をはるかに上回る対策を実施するとのことです。河川行政の改革を目指して導入された河川整備計画の形骸化が一層明らかになってきたと言えそうですが、「流域治水」が本来の治水対策に取り組むのかどうか、いまだ不透明です。利根川水系では現在、八ッ場ダムに続き、南摩ダム事業(思川開発計画)に巨額の治水予算が投じられています。