これまでも積極的にダム問題を取り上げてきた東京新聞特報部が中止ダムの再開を大きく取り上げました。
◆2026年8月17日 東京新聞こちら特報部
https://www.tokyo-np.co.jp/article/509013
ー「治水にほぼ無関係」なダムでも?…群馬で再び動き出す建設計画 かつて中止の「倉渕ダム」ー
長年の反対運動の末に完成した八ッ場(やんば)ダムのある群馬県で、建設「中止」から一転、再開へと動き出した別のダム計画がある。豪雨は頻発するが、河川の上流で降らなければダムは役に立たない。説明が不十分なまま進む計画に、地元の住民らは反発を強めている。(関口克己)
◆2003年に計画凍結、2015年に正式に中止
この計画は高崎市倉渕町(旧倉渕村)の倉渕ダム。群馬、長野両県境にある鼻曲山を源流とする烏川(からすがわ)上流部での建設が想定される。
洪水調節と高崎市の水道水確保を目的に、かつて群馬県が計画した倉渕ダム。1990年に建設に着手し、用地買収や付け替え道路工事を終えたものの、2003年に当時の小寺弘之知事が財政悪化と水需要減少を理由に計画凍結を決断。2015年に正式に中止された。
旧民主党政権時など「脱ダム」が叫ばれた時期もあったが、近年は各地でダム建設が進む。2020年に群馬県長野原町に八ッ場ダムが完成。同年の熊本豪雨で球磨川(くまがわ)が氾濫し多くの犠牲者が出ると、熊本県は白紙撤回していた川辺川ダムの建設を容認した。国土交通省は2027年度の本体着工を目指す。
◆高崎市議会 説明省略で「倉渕ダム再開を」可決
国交省は2024年、利根川水系でも将来の河川整備基本方針を変更。群馬県伊勢崎市の治水基準点(八斗島=やったじま)の洪水時に想定する最大流量「基本高水」を、毎秒2万2000立方メートルから同2万6000立方メートルに引き上げた。具体的な整備計画では、八ッ場など上流ダムによる洪水調節流量を毎秒3000立方メートルから同4900立方メートルに増やした。
国交省は中止ダム予定地の活用も打ち出し、2026年度予算で倉渕の現地調査などに約2億円を計上。同じ群馬県で水資源機構が計画を中止した戸倉ダムとともに調査に着手した。
高崎市議会は昨年12月、治水機能増強のためとして倉渕ダム再開を求める意見書を自民党系や公明党会派の賛成で可決したが、議会での趣旨説明や委員会付託を省略。4月に一部報道で伝えられた「再開」の動きは、地元住民の多くにとって寝耳に水だった。烏川流域の自然観察を続けるNPO法人「アグレコ」の楢原幹基(ならはらつねき)さんは「市民には何も情報が伝えられないまま計画が進んでいる」と憤る。
◆河川工学者が指摘する「破格におかしい」政府の想定
7月中旬、高崎市で倉渕ダムを考える集会が開かれると、地元住民ら約200人が参加した。基調講演した新潟大の大熊孝名誉教授は「亡霊のように現れたいいかげんな計画を、河川工学者として認めるわけにはいかない」と語った。
大熊氏が批判するのは利根川治水を巡る国交省のデータだ。将来的な河川整備基本方針では、八斗島での基本高水毎秒2万6000立方メートルのうち、上流ダム群で同8300立方メートルを抑制する。国交省は前提条件となる降雨量が異なるとするが、具体的な整備計画上の現行7ダムの抑制効果は毎秒約2200立方メートルしかない。
倉渕ダムを建設しても、国交省が示す効果ですら毎秒50〜120立方メートル。大熊氏は、八斗島の基本高水のデータそのものが「破格におかしい」と過大な数値だと主張しつつ、倉渕ダムを「利根川治水にほとんど無関係だ」と切り捨てた。
ダムはどんな規模でも、環境に与えるダメージは大きい。烏川源流域には、環境省が絶滅の危険性が高いとするクマタカが繁殖するなど豊かな自然が残る。
市民団体「烏川源流の会」の栗原直樹さんは「ダムができれば、貴重な生態系が変わってしまう」。前出の楢原さんも「烏川はダムなしの前提で築堤や護岸工事を行い、安全度は増しているはずだ」と倉渕ダムは不要と訴える。