八ッ場ダムの本体工事については、一年前から本年10月着工との報道が繰り返されてきました。
その発端は昨年、八ッ場ダムの工期を2015年度から2019年度に延長する際、群馬県議会で配布された資料の中にあった工期延長後の八ッ場ダム事業の工程表でした。
以下のページに工程表と当時の新聞記事を載せています。
https://yamba-net.org/wp/?p=5728
しかし、その後、昨年12月24日に行われた太田国交大臣の記者会見で八ッ場ダムの本体工事について尋ねられた太田大臣は、「具体的な着工時期については今検討させているところでありまして、現時点では未定という状況です」と述べ、工程表通りに工事が進むとは限らないことを示唆しました。(以下参照)
https://yamba-net.org/wp/?p=6673
実際、10月に入った今も、ダム事業者である国交省関東地方整備局からは、本体着工時期についての公式発表がなく、10月8日の群馬県知事による定例会見でも着工時期は明らかにされませんでした。
工程表を見ると、本体準備工事の一環として進められている仮締切工事は、昨年10月に始まり、今年6月に完了することになっていますが、実際に工事が本格的に始まったのは今年3月下旬からで、工事の完了は今月末の予定です。
吾妻川の本体予定地の直上流に高さ29メートルの小ダムを建設する仮締切工事は、入札不調や梅雨の増水によって遅れてきました。仮締切工事の遅れは本体着工時期に影響すると考えられますが、マスコミ報道の多くは行政に対して腰が引けており、事業が滞っていることは取り上げません。
群馬県、長野原町ともに、早期の八ッ場ダム完成、早期本体着工を国交省関東地方整備局に要望しており、新聞記事では、本体工事に着手すれば安心できるというダム予定地域住民の声が紹介されています。こうした声が出てくるのも、八ッ場ダム事業が遅れに遅れてきたからです。
けれども、本体着工によって本当に住民は安心できるのでしょうか。
八ッ場ダム事業は工期延長と事業費増額を繰り返してきたことから、ダム事業者の国交省関東地方整備局は共同事業者である下流都県から、これ以上の計画変更は受け入れがたいと言われています。
このため、本体工事は当初の計画より工期が500日以上短縮され、工事費も200億円圧縮されました。このような体勢で果たして安全性を確保できるのでしょうか。
名勝・吾妻渓谷にある八ッ場ダムの本体工事予定地は、熱水変質帯、地すべり地など、複雑な地質が入り組んでいるところです。”早かろう 安かろう 悪かろう”では、取り返しのつかないことになります。
◆2014年10月9日 上毛新聞一面
ー八ッ場ダム「着工に合わせ式典を」 国交省に大沢知事 火山防災対策も検討ー
間もなく着工となる八ッ場ダム(長野原町)の本体工事について、大沢正明知事は8日の定例会見で「あれだけ大きな問題になって工事がずれた。けじめという形で着工式をして、完成を一日でも早めてほしい」と述べ、着工に合わせた式典の開催を国土交通省に求めていることを明らかにした。
国交省は8月に業者と本体工事契約を締結し、契約上の工期はすでに始まっている。今月1日に八ッ場大橋が開通し、JR吾妻線の新ルート運行に移行していることから、大沢知事は「地域住民にこれ以上の不安を抱かせることがないようにするのが県の務め」と強調した。 (以下略)
—転載終わり—
上記の記事は、以下の記者会見における質疑内容を踏まえたものです。
群馬県知事定例記者会見要旨(10月8日)
http://www.pref.gunma.jp/chiji/z9000114.html
○八ッ場ダムについて
(記者)今月1日に(JR)吾妻線が新ルートになったり、八ッ場大橋が開通したりというようなことがあったのですが、八ッ場ダムの着工の見通しというかその辺りはいかがでしょう。
(知事)1日に八ッ場大橋が開通になり、JR吾妻線が付け替えになったわけでありまして、八ッ場ダムの周辺整備が着々と完成に近づいておりまして、生活再建事業もいよいよ大詰めにきている感じもしています。8月に工事が契約になっているわけでして、一日も早く本体工事の着工式をしていただいて、完成を一日でも早めていただいて、地域の方々がこれ以上の不安を持つことなく、通常の生活ができるようにしていくことが県としての務めだと思っています。できるだけ早く着工していただけるように強く要請していきたいと思います。
(記者)それは国交省にですか。
(知事)はい。
(記者)八ッ場の本体工事で着工式のようなものを想定して、具体的に進めているということですか。
(知事)国交省が考えることでありますが、あれだけ大きな問題となって、工事が4年ずれたわけです。しっかりとけじめという形で着工式をしていただければと思っています。
◆2014年10月9日 朝日新聞群馬版
http://digital.asahi.com/articles/ASGB84HC3GB8UHNB00B.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASGB84HC3GB8UHNB00B
八ツ場ダムの本体工事はいつ始まるのか。県や地元の長野原町がやきもきしている。国土交通省は今秋に着工する見通しを示してきたが、まだ工事のスケジュールが示されていないからだ。周辺の関連工事は着々と進んでいるのだが――。
「早く着工して、完成を急いでほしい」。大沢正明知事は8日の定例記者会見で、こう語った。
8月7日の一般競争入札で、本体工事は清水建設と鉄建建設、IHIインフラシステムの共同企業体(JV)が落札した。金額では並んだJVがあったが、ダムの基礎掘削から本体のコンクリート打ち込みまで最短で984日と、想定よりも514日も短縮する計画内容が評価された。同20日に契約を結び、工期は翌21日から始まっている。
すでに水没予定5地区の住民には、工事内容の説明はあったという。ただ、どの工事をいつ実施するのかといった工程や、400人とも言われる作業員の宿舎や工事事務所をどこに造るのかを、国交省は「JVから計画書が届いていない」として示していない。住民らが「本当に秋に着工できるのか?」と首をかしげているのもこのためだ。
一方、ダム周辺の関連工事は着々と進んでいる。今月1日には八ツ場大橋が開通し、JR吾妻線の切り替えも終わった。
問題となるのは、本体工事の前段で必要となる準備工事の進み具合だ。国交省関東地方整備局の説明では、当初の計画より3カ月ほど遅れてはいるものの、本体工事の前にダム本体の上流で吾妻川をせき止める「仮締め切り」は、今月末までに完了する見込みだという。
工事用道路の整備も進んでおり、「8月21日以降、本体工事は事実上、始まっている」(町幹部)という見方もできる。
もっとも、工事が目に見える形で進むのはしばらく先になりそうだ。まず予定地周辺の樹木を伐採し、川床を20~30メートル掘り下げる基礎掘削をする。その後、定礎式を経てコンクリートを流し込む運びだ。国交省は今のところ、昨年、4回目の基本計画の変更で掲げた2019年度には完成する見込みだとしている。
ただ、国から「本体着工」のタイミングが具体的に示されない状況に、地元は気をもむ。これまでダムの完成予定時期が何度も延期され、翻弄(ほんろう)されてきた苦い経験があるからだ。
大沢知事や長野原町の萩原睦男町長は、早く本体着工の式典を開いてほしいと国交省に求めている。住民の希望というだけではない。萩原氏は「これまで下流都県にも多大な心配をかけ、生活再建事業でもお世話になっている。各知事や国会議員も招き、けじめをつけるべきだ」と話す。
同町の道の駅「八ツ場ふるさと館」の篠原茂社長は「お客さんから『もう本体工事は始まったの?』と聞かれる。『もうすぐでしょう』と答えているが、早く区切りをつけて、安心して生活できるようにしてほしい」と話す。
国交省は「式典をやるかやらないか、地元などの意向を踏まえ、検討したい」としている。(上田雅文、井上怜、土屋弘)