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国道封鎖と八ッ場ダム本体工事の準備

 八ッ場ダム本体工事予定地周辺の国道145号線が昨日11月18日正午、封鎖されました。
 車両通行止めの区間は、上湯原橋から吾妻渓谷入口近くの渓谷パーキング周辺までとなり、吾妻渓谷の全区間が含まれます。このうち、上湯原橋からダム本体工事予定地までの区間は廃線手続きがとられました。また、ダム予定地下流から吾妻渓谷入口の渓谷パーキング付近までも昨日より車両通行止めとなりました。
 
 国道封鎖に対して、八ッ場あしたの会と八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会は昨日、太田国交相と大沢群馬県知事に抗議声明を提出しました。抗議声明の全文を以下に転載しています。
 ダム予定地の国道封鎖に対する抗議声明

 また、ダム事業によってかけがえのない自然が破壊されることへの抗議の意思表示として、封鎖前の18日午前中、吾妻川の上流から下流に沿って、「美しい渓谷を壊さないで!」と書いた横断幕を掲げて国道を歩きました。同じ長野原町内の浅間山麓では、すでに雪が降り始めていますが、吾妻川沿いのダム予定地は小春日和の陽気でした。(写真下=吾妻渓谷の入り口、八ッ場大橋にて)

抗議行動(八ッ場大橋)shuku

抗議行動(栄橋) 国土交通省は水没予定地住民に対して、廃線後の国道は、1月下旬ごろまでに本体工事で土砂を運ぶための25トンダンプトラックが通行できるよう、ただちに道路拡幅などの整備工事を始めると説明しています。
 ダム予定地はどうせ水没するからと、観光資源としての価値がほとんど認められず、草津・嬬恋方面への通過地点としてしか認識されていませんが、群馬県有数の景勝地であり、歴史文化の豊かな土地です(写真右上=川原湯岩脈付近の国道にて)

 写真下は、吾妻川の左岸より突き出たように横たわっている天然記念物・川原湯岩脈の臥龍岩。封鎖された国道や栄橋から、迫力のある柱状節理の岩脈を間近に見ることができました。崖沿いに廃線となった国道が縫うように走っているのが、白いガードレールのラインでわかります。
 岩脈は吾妻川の左岸側にあることから、かつては左岸側の大字名「林」や小字名「久森(くもり)」の岩脈と呼ばれていましたが、川原湯温泉の観光資源として活用したいという群馬県の考えを久森の地権者が受け入れ、「川原湯岩脈」として天然記念物に指定されたといいます。
 ★文化遺産オンライン「川原湯岩脈」→ http://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=160798
 
岩脈と吾妻川 (2)shuku

 川原湯岩脈の下流側にある久森の洞門。林地区久森の水没予定地にあった長野原第一小学校に下流の川原湯、川原畑地区の児童が通う通学路でした。洞門の山側には、久森峠を越えた古道がありました。かつて地元では、この道を旧道と呼び、18日に廃線となった国道は新道と呼ばれました。
 久森隧道上流から (2)shuku

 久森隧道を通り抜けると、川原畑地区に入ります。林の陰から、黒い岩がくじらのように吾妻川に伸びているあたりの崖の上には、かつてドライブインがありました。(10/12撮影)
 くじら岩shuku

 川原湯温泉駅前の記念撮影shuku 閉鎖された川原湯温泉駅の旧駅舎前にて。駅舎の窓はベニヤ板で塞がれ、バスとタクシーの案内標識も片づけられていました。
 有害な鉄鋼スラグの撤去を求める地元の方も写真撮影に加わりました。
 
 国道封鎖区間の下流端は、八ッ場ダム本体工事予定地を過ぎた、長野原町と東吾妻町の町境の手前の沢の入り口付近でした。沢の奥は砂防工事によって幾重にも遮られており、沢の入り口の上には廃線になった吾妻線の小さな鉄橋が架かっていました。
 先日、この鉄橋の上で猿が交尾しているのを見たばかりです。
 線路と谷止めshuku

 ここで連絡を受けてやってきた国交省八ッ場ダム工事事務所と群馬県道路管理課の担当者に国交大臣と群馬県知事への抗議声明を読み上げ、手渡しました。
キャプチャ

 今も水没予定地に住み暮らしている住民が生活道路として使用している国道を封鎖することについて、国交省は本体工事を進めるためとしていますが、数少ない住民の通行が本体工事を遅らせるわけがなく、水没予定地住民らは国と群馬県の説明に納得していません。抗議声明提出時の国交省の担当者(写真左)の説明も、従来の説明の繰り返しで、説得力のないものでした。

 この地点より下流の吾妻渓谷の入り口付近までは、18日より車両通行止め、12月1日より徒歩通行も不可となります。この区間は来春には再び通行可能となるとされますが、不透明な点が多いため、抗議声明を受け取った担当者に問い質したところ、次のような説明がありました。
 
 ●この地点から上流の上湯原橋までの区間は、国交省がダム本体工事のために使わせていただくが、ここより下流区間の措置については、国交省は関与していない。
 ●群馬県による通行止めの措置は今後、吾妻渓谷を観光客に見ていただくために、道路、駐車場などを整備する工事を行うためである。
 ●吾妻渓谷の上流側が廃線となることによって、下流からこの地点まで進入して来た車両は、廃線区間の手前、かつて熊の茶屋があった町境付近でUターンしなければならないが、今のままでは対応できない。

 吾妻渓谷の町境のにぎわい 問題とされる町境付近は、国道の両側に駐車スペースがあり、小型バス程度であればユータンできますが、両側の駐車スペースに車が停まっている場合は、大型バスがUターンするのは無理です。(写真右)
 山側も谷側も切り立った崖で、スペースを拡げるのはかなり難しそうですが、群馬県の担当者は、将来的に東吾妻町が対岸に橋を架ける可能性もあると、吾妻渓谷の観光が引き続き行われることを強調しました。
 八ッ場ダムの本体準備工事が始まるまで、吾妻渓谷は国道から山中の遊歩道へ周る周遊コースが整備されていました。今年3月に水没予定地の滝見橋と山中の遊歩道が閉鎖されたことにより、渓谷を周遊することができなくなりました。
 吾妻渓谷の下流区間も急峻な地形が続いており、これまでは吾妻線を走らせるJR吾妻線が安全運行の為に点検作業を実施してきました。吾妻線が廃線になった今、国道を管理する群馬県の姿勢が問われます。

 八ッ場ダム予定地付近の国道脇の桜の木の下に、馬頭観世音の文字塔があります(写真下)。大正6(1917)年、当時の運送同業組合が建立したものです。当時の運送の主力は馬と馬車でした。若山牧水が吾妻渓谷を馬車で通りかかり、その景観に魅了されたのは文字塔建立の翌年のことです。
馬頭観音の文字塔shuku

 文字塔の背後には、9月に運行が終了した吾妻線の線路があります。背後の山は、八ッ場ダムの本体工事によって掘削されることになっており、線路わきの金網も外されていました。
 金網が外されたshuku

 本体工事の予定地区間だけ、線路も外されていました。14日の産経新聞が、線路の撤去作業が始まり、「事実上の本体工事に着手した」と報じたのは、撤去作業が本体工事の予算で実施されているからでしょうか。

 前方に見える松の木の頂にある岩峰が吾妻渓谷十勝の一つ、小蓬莱です。八ッ場ダムのコンクリートの壁は、小蓬莱の手前に建設される予定で、小蓬莱の頂より30メートル以上高くなるそうです。
 線路と小蓬莱shuku

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