(2008/12/13、於:エコとしま)
【学習会後半の座談会】
前田: 牧山さんから現地の状況、大和田先生から長野原の財政状況についてお話しいただきました。大和田先生は面白くないとご謙遜していらっしゃるけれど、ダムを含めたデカい公共事業がくることで上流域と下流域が分断されるということが全国的に続いているわけです。
近視眼的にみれば地元が潤うこともあるけれど、中長期的に見れば地元が疲弊するので、上流にとっても下流にとってもダムはなんらいいことをもたらさないということが実証されれば、もうこれからそういうものを受け入れる中間マージンもなくなるわけです。
もっといえば、ダムというでかい食糧を食えば、人間でいえば生活習慣病どころか死の病に至る、病気になって、ものすごく非人情になる。なおかつ見栄をはって余計なことをする。こういう状況になることを具体的にお示しいただいたのだと思います。
ではそのあたりを受けてお二方に質問をしながら、クロストークしていただきたいと思うんですが、まずは牧山さんから言い残したことがあったと、それをお話しいただいて、その上で大和田先生からご指摘いただいた点で「なるほど、その通りだ」という点と「いや、それは現場感覚からすれば少し違うぞ」というようなことがあればお示しいただくことから始めたいと思います。
牧山: 私がここに来るにあたって地元の人たちと話し合って、これは言っとかなくちゃならないっていうのがあったんですけれど、一番大事なことをお話しておきたいと思います。
八ッ場を訪れた方はたくさんいらっしゃると思いますが、実際、建設途中でどこもかしこも荒れ果てているんです。みんな早い生活再建を望んでいるのは間違いないことで、ただ、今の状況ですと、万が一ダムが中止になれば補償もなくなる、と考えるんです。それは当たり前のことで、現段階ではそれが正しい見方かなという気がするんです。なんでもダムが止まればいいかというと、私もそういう考えではありません。その後の生活再建がきちっと補償されることが一番大切だと思うんです。
ですから、ダムはできてほしくないし、ダムが止まった後の生活再建のための法案を速やかに国会で通して生活再建に移れるようにお願いしたいということです。
計画が始まって50年経つんですが、ほとんどの人が人生のほとんどの時間をこのダムに翻弄されてきて現在に至っているわけです。水没地区を歩くと新しい移転した墓地に新しい墓石があるわけですけれど、この人たちは結局、さんざん苦しめられた挙句、補償金を手にすることも使うこともなく亡くなられた方たちです。
もしここで3年、5年それ以上生活再建が遅れることになりますと、既に高齢化していますから、1~2年でも遅れたら「もうここにはいられない」と判断する人がいるということ、それから経済状況が良くないですから、遅れれば遅れるほど再建は軌道にのる日が遠くなってしまうことをみんな心配しています。ぜひこういうことを地元の人が心配しなくてもいいように、みなさんに理解とご協力をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。
前田: そのためにもこの学習会はあるんだと思います。国交省が主たる敵だと思われていますが、実は本当の敵は時間かもしれないですね。時間の経ってしまったとき、牧山さんが指摘されたとおり5年後3年後どうなるか。時間という敵にどうやって勝っていくか考えるためにもあらゆる事例を調べたいと思っています。牧山さん、さきほどの大和田さんのご指摘に対して疑問などあればご指摘いただけますか。
牧山: 大和田先生とは実は6年ほど前からお世話になっている間柄で、徳島の自治体学校というところに行って第十堰を一緒に見に行かせてもらったんです。その中でいろいろ話をしていたら多摩の自治研の理事長をされているということで、私も多摩にいたものですから、そんなことから、いずれ私の町にも来ていただいて財政分析の手法、あるいは町の将来について教えを乞いたいと思っていたところなんです。
今日話を聞いて、操出金の問題、それと異常な基金の積み立てというのはその通りです。1年に一回財政の公表というんで町がまとめたものを一般町民にわかるように形になっているんですけれども、それによると19年度末で基金が35億円くらいあるんです。
そのうちの半分、約14億8千万円がとりあえず何にでも使える財政調整基金で、これも類似団体の中ではきわめて突出して高いものになっていると思うんです。その貯金に対して借入金が結構ありまして36億円くらいあります。
長野原町は交付税措置とか、どっかからの収入をあてにして事業をやっているのが多いので、考えられないような収入がドカッとあってということはしばらく続くと思うんです。ですからもう何年か経たないと、実際どこまで持ちこたえられるのかが見えないと思うんです。
一つにはダムの成り行きが大きく影響すると思います。一般的に国有資産(ダム)ができると国有資産交付金というんですか、固定資産税に代わるものが結構な金額入ってくるんだと、だいたい町関係者はそれをかなり期待しているんですが。本来そういう収入は固有の収入とみなされて、確か交付税の算定のときには基準財政収入額に入れられるんですよね。
そうすると、ダムができても、財政的メリットはそんなにないんじゃないかと考えているんですが、その辺のところはどうなのか、大和田先生に教えていただければと思います。
大和田: 私もまさかダム問題で財政をやるとは思わなかったんです。ただ、ダムの問題が全国にあるわりには、意外に地方財政のサイドからダム問題の論議を展開している事例はあまりないんです。国策によったものはこれまでいっぱいあって、みんなだめになったんですね。
たとえば一番典型の夕張は、簡単に言えば国のエネルギー政策が石炭から石油に変わった。これが集中的に行われたのが昭和35年。一つずつ全部閉山に追い込まれるごとに、ダム問題と同じですが、産炭法(産炭地域臨時措置法)で、炭鉱がつぶれたことで地方交付税を与えて新しい産業転換をはかっていく。
最後は1990年か92年、三菱がつぶれた。それから産炭法に基づいて、産業転換をはかるためにずっと夕張に3億円払っていた。そのうち小泉さんが「これは無駄遣い」、今はもうお金だけやる時代じゃないと、まず3億円を切ります。そして三位一体ということで、人口がどんどん減りますから、計算上いくら地方交付税投資をしても阻止しきれない。これも大体3億円を投入して、もう夕張自身が決定的なハンディを負っていくわけです。
こうした国策でやったものは、いくらうまい話でも必ず後で打ち切りがあるんです。ですからダムなどいわゆる直轄事業は、国の目的を果たしちゃうともう関心がもたれない。
長野原のダム問題をやることを通して何を考えているかというと、過去のダムを造ったところが結局どうであったのかを財政から見てみたい。そうしないと、長野原に対してももっと適切なアドヴァイスをできないんじゃないかというのが一つであります。
それと、ダム計画とか電源開発とか途中でやめたために産業転換がうまくいった町、これは私も知っているけれど、あるんです。今、日本でもっとも輝かしい、小さくても輝くといわれているのがたとえば宮崎県の綾町というところです。
実は今から30年以上前に、電源開発をして、綾北川という川の水を失うんです。さらに国は木を伐採しろとか、いろんな攻撃をかけるんです。それをやめちゃうんです。要するに本来の地域の自然にふさわしい樹林をきちんと残すと。最後は電源開発も認めて、水量は非常に少なくなったけれども、それを早い段階でやめて転換して、今では合併しなくても・・・農協も合併しない、そして有機農業条例を日本で最初につくって見事に自立した、まさに内発的発展というか地域循環型の日本のモデルだと思うんです・・・。
そういう、途中で方向転換したところは知っているんですけれども、本当に農山村が自立していけるんだということが財政的にも実証できる、もう少し、どういう角度で見ながらどういう姿が自立できるのかということを私なりにも見つめてみたいなということと、お話を聞いて、もう少し地域のリアルな状況をつかみたいということと、折れ線グラフや棒グラフのところにもう少し事例をたくさん矢印でつけて、一つ一つ洗ってみたいなと思います。不十分な点は今後に期待していただきたいと思います。
そういうことで、もう国の都合でくるような交付金の類は淡い幻想で、保障は一つもないということだと思います。国は交付金のようなものをやれる状況にないんです。真剣に考えると国の財政が大変で、日本の状況に合わない財政運営をしているのは事実です。
前田: 綾町の町長さんがまだ農協の理事長をやっていらしたときに私も綾町に行きました。大和田先生のおっしゃるとおりだと思います。あそこはし尿処理も大型のものではなくて、それを堆肥に変えて畑に戻すことをやっていました。
牧山さん、実際に本来の長野原の身の丈にあっていない大型の処理をするようになってきたんですか? 実はそういうものを、牧山さんを責めているわけじゃなくて、地方議会はチェックするという機能があるわけですよね、その辺りはいかがだったんですか?
牧山: 下水関係は、町の職員も皆、合併浄化槽でやった方が安いとわかっているんです。ただ、普通ダムができるときには水特法(水源地域対策特別措置法)の全町指定はほとんどないと思うんですが、長野原町は全町指定で下流都県のお金も入って整備される計画になっています。すべて管路で結んで集中処理をする計画で始まってしまったので、途中ではなかなか変更ができないと今もそれが続いているんです。それらをあわせると、140億円くらいかけることになると思うんです。
結局つくるときは長野原の負担はほとんどありませんけれども、これを維持していくときに大和田先生が言われたように操出金は増えていくことになると思います。操出金がどうしてこんなに増えてきているのかというのをもう一つ申しますと、ごみの焼却場、これは、草津町さんは入っていないんですけれども西吾妻の三町村、六合村と嬬恋村と長野原町でやっていまして、これをつくったときの経費負担の50%が長野原町です。
それから特別養護老人ホーム、70床ばかりの施設ですが、その経費負担も50%です。それから西吾妻福祉病院は四町村でやっていますけれども、これをつくったときも本来50%の負担だったんですが、六合村さんの5%を肩代わりして実質55%負担しています。
もう一つ、ごみの最終処分場が町の中にありまして、これは三町村、六合村さんと嬬恋村さんと長野原町でやっているんですが、ここも長野原町が半分負担しています。最終処分場では、昭和58年に立てた試算でその後23年ぐらいはもつということですから、まだ20年近くはなんとか使える処分場です。ここがいっぱいになったら次は六合村さんか嬬恋村さんでやってくれよという約束にはなってるんですけれども。
前田: 普通なら3分の1になるものを、ダムがあるし国からお金も入っているから、長野原さん、あんたたちでやって、という話だったんですか?
牧山: その辺の経緯はよくわからないんですけれど、病院なんかは大体、隣の東吾妻町の原町日赤病院でも所在町村が半分出すのが暗黙のうちに決まっているような話で、多分、どこもそのくらい負担しているらしいんですけれども。
前田: もう一つ、そういう話が来たときに議会ではどうだったんでしょうか。
牧山: 私が議員になったのは10年前ですけれど、それから関わったのは西吾妻福祉病院だけで、それ以外はそれ以前の建設なんです。西吾妻福祉病院の場合も、基金(水源地域対策基金)があるので議会もわりとのんびりしていて、先行きどうなるかをあまり心配してなかったと思う。
それよりもむしろ「これができて雇用が増えて住民の健康が守れるなら、町が2億円くらい出したっていいじゃねぇか」っていう、簡単な考えで始めたっていうのもあったと思います。
前田: 大和田先生からご指摘のあった数字から言うと、これだけお金あるにもかかわらず、いわゆる民生費、医療福祉のお金がかなりひどいということですが、実際、どうですか? 具体的な事例があったらお示しいただきたいのですが。
牧山: 実際に不満がないわけじゃないんです。ただ、西吾妻は全体的にあまり変わらないと思うんです。最近ようやくうちの町も、普通のバスじゃ通院できない人を対象に、福祉バス・タクシーを始めたんですけれども、控除の制限をきつくしたせいか、利用者があまりいないんです。
もっと利用させるためにはどうすればいいかって町長から相談があったんで、やっぱり少し基準を緩めて、たとえば息子が勤めていて会社を休めないと送迎できない人も対象にすればと言ったのですが、結局、65歳以上の一人暮らしか、70歳以上の二人で生活されている方が対象です。当初申し込んだ人は85人くらいで登録制になっていまして、前日役場に予約すると次の日に自宅玄関から病院まで送迎してくれるんですけれども、まだ使いなれてないこともあって利用がいまいち上がらないってところです。ただ利用された方からは「よくやってもらった、ありがたい」っていう声はありますので、これからもっと需要が出てくると思うんです。
もう一つ、老人福祉の生活保護という問題は、町だけではどうにもならない問題で広域の事務になってますんで、「なんでこんなに厳しいんだ」と私たちも思うんですけれども、認定基準がきつくてなかなか対象になるべき人がならない実態があると思います。
前田: 長野原だけじゃないということですね。大和田先生にお伺いをしたいのですが、長野原はダムが来たことでかなり不健康な状態になっていることがわかりました。この不健康さがいわゆるメタボでダムがなければ治るのか、それともこれは癌にまでなっているのか、その辺は研究者として位置づけしづらいところでしょうけれど、症状はどのくらい悪いんでしょうか?