八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

有害スラグ問題ー群馬県と県議会の対応

 2013年に(株)大同特殊鋼渋川工場による有害鉄鋼スラグの不法投棄が明らかになって以来2年あまり、今年9月7日、ようやく群馬県は大同特殊鋼とその子会社「大同エコメット」、スラグを取引していた建設会社「佐藤建設工業」の三社を廃棄物処理法違反容疑で県警に刑事告発し、11日には県警が強制捜査に乗り出しました。
 有害スラグは八ッ場ダムの関連工事でも大量に使用されてきたことが明らかになっており、スラグ問題はダム事業に大きな影を落としています。

09年11月15日 県庁s 群馬県の公式サイトに9月11日の記者発表資料がアップされています。
https://www.pref.gunma.jp/houdou/e1700084.html
 「大同特殊鋼(株)渋川工場から排出された鉄鋼スラグに関する廃棄物処理法に基づく調査結果について(廃棄物・リサイクル課)

 上記より一部転載します。(写真右=利根川べりに立つ群馬県庁)

2 調査結果
(1) 大同特殊鋼(株)渋川工場は、工場が操業を開始した昭和12年頃から、副産物である鉄鋼スラグを土地造成材等として再利用してきたとみられるが、当時の関係資料が存在せず解明は困難である。
 なお、廃棄物処理法の施行は、昭和46年9月である。

(2)平成13年にふっ素の土壌環境基準が設定され、平成15年にふっ素の溶出量及び含有量に係る指定基準を設定した土壌汚染対策法が施行された。
 これにより、路盤材など土壌と接する方法で鉄鋼スラグを使用する場合、周辺土壌や地下水を汚染しないよう、土壌環境基準等と同等の基準を満たすことが求められ、鉄鋼業界では、ふっ化物(蛍石)を使用しない操業への移行や、鉄鋼スラグに含まれる有害物質の検査を行い、環境安全性を確認して路盤材等に再生利用する方法がとられてきた。
 しかし、大同特殊鋼(株)渋川工場は、その後もふっ化物(蛍石)の添加を止めることなく、また、鉄鋼スラグの大半がふっ素の土壌環境基準等を超過していることを承知したうえで出荷を続け、当該スラグが使用された施工箇所の一部で基準を超える土壌汚染を生じさせた。  (中略)

(7)ふっ素の土壌環境基準等が設定されて以降、大同特殊鋼(株)渋川工場から製鋼過程の副産物として排出された鉄鋼スラグは、土壌と接する方法で使用した場合、ふっ素による土壌汚染の可能性があり、また、平成14年4月から平成26年1月までの間、関係者の間で逆有償取引等が行われていたことなどから、当該スラグは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無及び占有者の意思等を総合的に勘案し、廃棄物と認定される。 (以下略)

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 群馬県議会では9月18日の本会議で臂泰雄議員(自民)と伊藤祐司議員(共産)がスラグ問題を取り上げました。以下のページでインターネット録画を見ることができます。
 http://www.gunma-pref.stream.jfit.co.jp/?tpl=gikai_result&gikai_day_id=253&category_id=3&inquiry_id=3282

 伊藤議員は有毒スラグが渋川市の一般廃棄物最終処分場「エコ小野上処分場」の建設現場に投棄されていた問題を新たに取り上げました。翌19日の毎日新聞とこの問題についての分析が市民オンブズマン群馬のブログに掲載されています。
 http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1734.html#readmore

● 臂議員の質問への県(青木勝 環境森林部長)の答弁の要旨
 (株)大同特殊鋼渋川工場から平成14年~平成26年の期間に排出された鉄鋼スラグを廃棄物として認定した。この期間に排出された鉄鋼スラグの総量は29万4,330万トンであり、確認された工事は公共工事で225ヶ所である。
 環境影響については、工事実施主体が、使用したスラグ再生路盤材の品質規格証明書によって、同証明書がない場合については施工現場におけるスラグ再生路盤材や土壌の検査によって確認している。土壌汚染が確認された場合には、県が直接、周辺地下水の調査を実施し、これまでの調査の結果では、すべての使用箇所で地下水への影響は認められていない。ただちに撤去等が必要な状況ではないが、今後とも環境への影響を監視していく。
 また、フッ素の含有量が基準を超えるスラグが敷き砂利などとして地表に露出している場所が225ヶ所のうち47ヶ所ある。これについては土地の管理者が立ち入り禁止の措置を講じているが、今後はそれぞれの箇所ごとのスラグの性状、使用の状況に応じて、土地の管理者と協議をしながら、スラグの経口摂取-直接口から入る危険性に対して適切な防止策をとっていきたい。
 今後とも鉄鋼スラグの使用箇所の解明を進めていく。具体的には、公共工事については各市町村に要請した。民間工事については、大同特殊鋼に調査をし、県に報告するよう指示した。新たに使用が確認された場所については、これまで同様、県が調査を行って、その結果を速やかに公表してまいりたい。
 また、これまでに確認された225ヶ所に加え、新たに判明した箇所もすべて含めて、県が箇所のリスト化を進め、今後も地下水を常時監視し、環境への監視を行っていく。
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 一般に有害スラグは、公共工事での使用そのものが禁止されていますが、群馬県では有害スラグが天然砕石と混合して使用され、混合した状態で環境基準値を超えるかどうかの判断がなされてきました。従って、スラグ単体で環境基準値を超えているかどうかを判断すれば、基準を超える個所ははるかに多くなります。
 また、地表から見えない盛り土材などに含まれているスラグについては、スラグ使用業者への聞き取り調査や品質規格証明書によってスラグ使用場所を調査することになっているが、スラグを使用した業者がどこにスラグを使用したか、きちんと把握していないという問題も指摘されており、調査から漏れているスラグ使用箇所が相当数あると考えられます。

駅前スラグ3 (3) 9月30日には、産経土木委員会で角倉邦良議員(リベラル)が八ッ場ダム関連工事におけるスラグ問題について質疑を行いました。質疑の要旨は以下の通りです。(写真右=錆が浮いている鉄鋼スラグ)

角倉委員:群馬県内で国交省と県が調査したところ、県内93ヶ所で環境基準を越えるスラグがみつかり、54ヶ所で周辺土壌に汚染が広がっていることが判明したと報道されている。
 八ッ場ダム予定地住民の移転代替地において、スラグの調査を国交省が行ったということだが、どのくらいの数の調査を行って、実際にどれだけスラグがあったのか?

福渡隆 特定ダム対策課長:国に確認したところ、八ッ場ダム事業のうち19工事で購入が確認、そのうち代替地では、基準を超えたものが3工事4ヶ所、基準内のものが3工事5ヶ所であったと聞いている。

角倉委員:撤去の状況はどうなっているのか?

特ダム課長:国からは、3工事4ヶ所のうち、2工事3ヶ所のスラグの撤去が終わっていると聞いている。その他のところについても、基準値を超えているものは今年度内に撤去すると聞いている。

角倉委員:是非とも、年内に終わらせるよう、県から国に要望してもらいたい。
 撤去費用はどこが出しているのか?

特ダム課長:国に確認したところ、国交省八ッ場ダム工事事務所で発注した工事のうち、有害物質の含有量が基準値を超えている8工事13か所については、大同特殊鋼の負担において撤去する方針と聞いている。

角倉委員:代替地における有害スラグの投棄場所は本当にそれだけなのか?
写真 現地では写真にあるように、川原畑や川原湯の代替地、新駅の近くなどいろいろな所に鉄鋼スラグが露出している。代替地は分譲されれば個人の資産になっていく。有害スラグが一体どういう形で代替地で使われてきたのか。宅地内や盛り土の中に深く埋められている場合もあるのではないかと心配している住民もたくさんいる。(注1)
 国交省が何か所か調べたという報告を課長からいただいたが、実際問題、スラグはあちこちに転がっている状態。こういうものについて、地元の住民から撤去の要望があれば、撤去していただけるという理解で宜しいんですね?
注1 八ッ場ダム事業では、住民の移転代替地は沢を数十メートルも埋め立てた盛り土造成地であり、ところによっては40メートルもの高盛り土となっている。有害スラグが盛り土内に投棄された可能性が指摘されているが、盛り土内部のスラグの調査はなされていない。

特ダム課長:国の方から、鉄鋼スラグが使用されている個所として、大同特殊鋼渋川工場の聞き取り調査や工事箇所の目視、フェノールフタレイン溶液の吹き付けなどによって確認して、場所を特定していると聞いている。住民の方々からそうした要望があった時にどうするかということについては国交省にまだ聞いていないので、今回はお答えできない。

角倉委員:今回撤去しているのは基準値を超えているところだが、そこに住んでいる人々にとっては、基準値以下であったとしても自分の庭にスラグが散乱していれば心配だという人が多いと思う。県はダム予定地住民の生活再建を第一と考えているわけだから、基準値以下であっても住民から撤去の要請があった場合は、国にしっかり要請してもらいたい。

特ダム課長:住民から撤去要請の声が上がっていることが確認できた場合は、適切に対応してまいりたい。

角倉委員:個人については要望があればということだが、代替地でまだ分譲していない土地については、国交省の責任で分譲するわけだから、表面だけでなく、ある程度掘って本当にスラグがあるのかないのか、しっかり調べて安全を確認した上で分譲するのでなければ詐欺ということになる。まだ売買が成立していないところについては、表面だけでなく、中まできちんと踏み込んで調査をしていただきたい。

特ダム課長:この質問も事前にいただいていなかったので、国に確認していないが、ご意見があったことは国に伝えたい。

角倉委員:国の回答をできるだけ早く確認していただきたい。
 今朝の毎日新聞「記者の目」に「鉄鋼スラグ問題」についての記事(注2)が載っている。厳しい意見であることは課長も部長もお読みになっていることと思う。大同の内部文書には「県議も使う」などと書かれ、有害スラグを取引していた建設会社は県OBの天下りも受け入れていた、などと書かれている。こういう批判に対して、もしそうではないということであれば、公明正大にやっているんだと群馬県として明らかにして、しっかりと反論していかなければいけないと思う。部長のご所見を伺いたい。
注2 毎日新聞「記者の目― 鉄鋼スラグ 有害物質問題」は次のページに転載しています。
https://yamba-net.org/wp/?p=12402

倉嶋敬明 県土整備部長:建設業界、環境対策、リサイクル、住民にとってもプラスになることを希望して、スラグの再利用に取り組んできたが、その中で色々な問題が出てきたことについては、我々の調査が不足だったところがあるかもしれない。まずはきちんと調査をして、きちんと処理するのが先決と考えて対応している。

角倉委員:スラグ問題に関しては、住民の環境、健康への心配に対して、県土整備部として、県としてきちんとやっていくということを、今の答弁で確認させていただいたと受け止める。毎日新聞が書いている疑念を払拭するよう、対応していただきたい。

—終わり—

 全水没予定地の川原畑地区代替地には、有害スラグが使用されたことが確認され、立ち入り禁止になっている場所がある。左手を国道145号が走っている。(2015年9月27日撮影)
川原畑スラグ投棄場所s

 川原湯温泉駅のそばには、駅が開設される前、有害スラグを使用した佐藤建設工業の資材置き場があった。周辺には、今も鉄鋼スラグが転がっている。(9月27日撮影)
川原湯温泉駅と鉄鋼スラグs

夏でもほとんど草が生えない場所があり、有害スラグが地中に埋まっているのではないかと心配されている。(2015年10月11日撮影)
新駅の脇s