八ッ場ダム予定地住民が移転したダム湖予定地周辺の代替地に大量に使用された有害な鉄鋼スラグについて、毎日新聞社会面に「膨張」の問題を取り上げる記事が掲載されました。
◆2015年10月25日 毎日新聞東京朝刊
「鉄鋼スラグ:膨張、住宅傾斜 盛り土、雨水吸い 群馬」
http://mainichi.jp/shimen/news/20151025ddm041040109000c.html
大手鉄鋼メーカー「大同特殊鋼」(名古屋市)の渋川工場(群馬県渋川市)から排出された有害物質を含む鉄鋼スラグを巡り、新たな問題が浮上した。群馬県の宅地の盛り土に使われたスラグが雨水などで膨張し、家が傾く被害が起きている。
国が同県長野原町で建設を進める八ッ場(やんば)ダムの住民移転代替地にもスラグは無許可で使われており、専門家は「スラグの宅地利用は危険が伴う」と警鐘を鳴らしている。【杉本修作、尾崎修二】
スラグを宅地に利用したのは、同県榛東(しんとう)村山子田の建設会社社長(56)の木造2階建て住宅で、先代の父親(故人)が30年前に新築した。社長によると、父親の友人で渋川工場に勤める男性の紹介で、敷地を高くする盛り土材としてスラグを譲り受けた。約2000平方メートルの土地に3?5メートルほど盛ったという。
ところが10年ほど過ぎると外壁にひびが入り、戸口の建て付けが悪くなり始めた。さらに床が数カ所で数センチ隆起し、基礎のコンクリートにも大きな亀裂が生じ、母屋とコンクリート製縁側の間には十数センチの隙間(すきま)ができた。隆起やひび割れは今も進行しているという。
鉄鋼スラグのうち、特殊鋼の精製で排出されるものは「製鋼スラグ」と呼ばれ、これは水と反応して膨張する性質がある。道路で利用するスラグには日本工業規格(JIS)で膨張率に基準(1・5%以下)が設けられ、JIS策定委員を務めた長岡技術科学大の丸山暉彦名誉教授(道路工学)によると、スラグに機械で蒸気を掛けるなど膨張を抑える処置をしなければ、最大で10%以上膨張することがある。社長宅を視察した丸山氏は、スラグが原因とみて間違いないとしている。
毎日新聞は社長宅のスラグを採取して国指定の専門機関に鑑定を依頼。環境基準の7倍を超える有害物質「フッ素」が検出された。また、東京農工大の渡辺泉准教授(環境毒性学)の研究チームが別途採取した周辺土壌からは微量の発がん性物質「六価クロム」も検出された。渡辺氏は「六価クロムは自然界になく、スラグによる土壌汚染が起きている」と指摘した。
渋川工場のスラグは八ッ場ダムの住民移転代替地などに無許可で使われ、国土交通省の調査で有害性も確認された。スラグが見つかった代替地の近くには既に住宅が建っているが、国交省は「民有地」を理由に宅地の調査をほとんどしておらず、宅地の真下に使われている可能性もある。
丸山氏は「JISで認められたスラグはそもそも宅地での利用を想定してなく、使うのはリスクを伴う。宅地で使われた可能性があるなら、国は異常の有無を継続的に監視すべきだ」と指摘。国交省関東地方整備局は「移転代替地の今後の調査について住民の要望や宅地の状況などを考慮して判断したい」としている。
大同特殊鋼総務部は「(社長宅の)スラグが当社製のものかは確認できていない。要望を詳しく聞いた上で対応を検討したい」とコメントした。
渋川工場のスラグを巡っては、建設資材の取引を装った廃棄物処理法違反容疑で群馬県警が先月、強制捜査に乗り出している。