八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

「パタゴニア日本支社長、辻井氏、ダム反対を支援、経営者走る」

 石木ダム反対運動を支援しているパタゴニア日本支社長・辻井隆行さんの活動が今朝の紙面で大きく取り上げられています。
 パタゴニアの環境助成金は、全国各地の環境運動を支援しており、当会も支援を受けています。

◆2016年1月9日 朝日新聞
 http://digital.asahi.com/articles/DA3S12147794.html?rm=149
ー(逆風満帆)パタゴニア日本支社長・辻井隆行:上 「ダム反対」を支援、経営者走るー

 長崎県川棚町の川原(こうばる)地区。稲刈りを終えた田んぼが広がるのどかな光景だが、「ダム建設絶対反対」「さよなら…ダム」といった看板が目を引く。

 「元気にしていましたか」。昨年11月下旬、アウトドア衣料メーカー「パタゴニア」日本支社長の辻井隆行(47)は地元の女性らと気さくにあいさつを交わした。この年8回目の訪問だった。

 同地区では、長崎県などが総事業費285億円で「石木ダム」の建設計画を進めている。パタゴニア日本支社は昨春から、住民らの反対運動の支援に乗り出した。意見広告を全国紙など計700万部以上に出し、隣接する佐世保市でラッピングバスを走らせた。ネットを介し、反対集会に使う公民館改修費として150万円の寄付を集める活動も支えた。

 一企業が、行政にたてつくように、ダム反対運動に「首を突っ込む」。日本社会では異例のことかもしれない。

 辻井は社員のすすめで昨年1月、初めて川原に足を運んだ。一目見て「日本の原風景のようだ」とひかれた。ダム工事では多額の補償金を積んで住民の同意を得ることが多いが、ここでは建設用地の強制収用手続きが進むことにも危機感を持った。「このダムに関心を持ってもらうことで、全国の他の公共工事を再評価する機運も高められる」と考えた。

 パタゴニアは創業時から環境主義を掲げる世界的企業だ。1985年から売り上げの1%を環境団体に寄付。全てのコットン製品をオーガニックに切り替えている。日本支社にとり、石木ダムはこれまでになく深く関与している環境活動だ。

 しかし住民らは当初、身構えた。「企業は利益を追求するはず。得にもならないのに、なぜ」と。

 4月、辻井は反対地権者を代表する男性(68)らと東京の日本外国特派員協会で記者会見を開く。問題を広く知ってもらおうと考えたからだが、最初は男性に出席を断られた。周囲の助けを借りて説得し、何とか会見を乗り切ったが、男性とはほとんど言葉も交わせなかった。ふだんは企業の社会貢献を唱える著名な経営コンサルタントに助言を求めに出かけても、「こんな工事、日本中にゴロゴロある話だ」とにべもなくあしらわれた。

 辻井の熱量が、突破口を開く。反対運動のメンバー松本愛美(41)は、9月、地区の公民館で語った辻井の言葉を鮮明に記憶する。「社長生命をかけてやりたい。これを頑張らないと次にいけない」

 ■ビジネスで環境問題解決

 企業経営者にして環境活動家。辻井は、パタゴニアの企業理念でもある「ビジネスを使って環境問題を解決すること」を目指し、2009年に支社長に就任した。しかし、その実現は容易ではない。

 元々、パタゴニアの活動や理念は日本社会に溶け込んでいるとは言いがたい。辻井が経営幹部向けセミナーで自社の取り組みを紹介しても、「アウトドア向けの中小企業だからできる」と手厳しい反応が返ってくる。「うさん臭い」「環境保護キャンペーンを商売に使うのはやめて」といった批判は耳に届き、過去には、反捕鯨団体を支持する姿勢がネットで取りざたされたこともあった。

 支社長としての歩みも、最初からつまずく。日本支社は00年以降、売上高を毎年5~9%伸ばしていたが、辻井が初めて指揮をとった10年会計年度で前年度比マイナスとしてしまう。社員との対話が不十分なまま自主性に任せ、失敗した。

 翌年から、売上高目標を設定する意味を繰り返し説明。反発する一部の販売員や経営幹部と話し合った。12年度から10%増近い売り上げを記録。最近は毎年、直営店網を1店舗ずつ拡大し、22店態勢になった。環境問題を深く考える期間が長くなるにつれて、自ら動きたいという欲求は高まったが、ぐっとこらえた。そして昨年。石木ダム問題に数千万円を出費することがやっと可能になった。

 外資系企業らしく、突然首を切られる可能性とは、今も隣り合わせだ。

 パタゴニア創業者のイボン・シュイナード(77)は、石木ダムの活動について「政治的な行動を起こすことは、この惑星を救う行動になるので評価される」としつつ、「本当のバリュー(価値)を理解していないと思う」「いまだに古典的な日本の会社」と日本支社に課すハードルは高い。一例が女性管理職の少なさ。米本社は55%を占めるが、日本支社は2割弱。繰り返し改善を求められている。

 奮闘する辻井。だが若い頃は環境意識が高いわけでなく、その情熱は違う分野に向いていた。=敬称略(高野真吾)

     *

 つじい・たかゆき 1968年東京生まれ。パタゴニアのアルバイトなどを経て、09年から現職。シーカヤック、スキー、サーフィンなどに親しむ。

—上記の記事の続きは、以下の新聞社のサイトに掲載されています。

◆2016年1月16日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/DA3S12158118.html
ー(逆風満帆)パタゴニア日本支社長・辻井隆行:下 夢破れた都会っ子、海にこぎ出すー