八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム基金事業で、川原湯の代替地に地域振興施設

 長野原町が東京の跡見女子大と連携して、ダム予定地の地域振興策を進めるとのニュースが群馬版の各紙に掲載されています。
打越代替地の最終のり面? 八ッ場ダム事業では、水没住民の移転代替地として、ダム湖予定地のまわりの山々を切り、谷を埋め立てた大規模造成地がつくられました。しかし、住民の多くは代替地での生活再建に展望を見いだせず、地区から転出したため、水没地区の人口は激減。八ッ場ダムの生活再建事業では「地域振興」が課題とされています。
(写真右=川原湯地区の打越代替地。代替地の手前には本体工事の掘削土砂が積み上げられ、その手前にはダム本体の骨材を貯蔵する骨材ビンが並んでいる。)

 水没五地区の中で、特に問題となっているのが「川原湯地区」の観光業です。かつて、地域経済の核であった川原湯温泉街には、旅館、飲食店、みやげ屋などが軒を連ね、活気を呈していましたが、現在、広大な代替地で営業している宿泊施設は5軒、常時営業している飲食店1軒、土産屋1軒です。
 川原湯温泉の観光客年間入込数は、2003年まで20万人を上回っていましたが、最近の宿泊者数は年間6000人台に減少しています。2015年に隣接する吾妻渓谷でダム本体工事が始まると、代替地には工事業者のプレハブ宿舎が並び、大型の工事車両が砂塵を巻き上げて行きかうようになりました。
 国交省が主催するダム本体工事見学会には多くの参加者があり、工事現場周辺は賑わっていますが、地元にとって重要なのは、ダム完成後の展望です。

温泉街のメインロード? ダム予定地域が長年のダム反対闘争に疲弊し、長野原町が正式に八ッ場ダム計画を受け入れたのは1992年です。この時、群馬県は将来の生活に不安を抱く水没住民に対して、八ッ場ダム三事業の一つ、「利根川・荒川水源地域対策基金」の「基金事業」により、「群馬県水源地域振興公社」(仮称)を設立し、水没五地区の地域振興施設を運営し、雇用を確保することを約束しました。
 「基金」は八ッ場ダム事業に参画する利根川流域都県が支出することになっており、群馬県が窓口となっています。1992年当時、「基金事業」の総額は249億円、その後、追加計上するとされました。
(写真右=打越代替地の温泉街になる筈だった道路は、電柱の地中化などの景観配慮がされているが、左手にゼネコンのプレハブ宿舎、右手に老人福祉施設。)

 ところが、2007年、群馬県は長野原町に対して、関係都県からの減額要求を理由に、基金事業の総額を249億円から178億円に3割減らす変更案を示し、施設の維持管理費は基金では負担できないと説明、公社設置は白紙となりました。
 それまで川原湯地区では、旅館の若い旦那衆を中心に、コンサルのサポートも得て、図面の上で代替地での「まちづくりプラン」を進め、代替地へ移転したJR川原湯温泉駅周辺には千人収容の観光会館、クアハウス、サイクルセンターなどが立ち並ぶ予定でしたが、維持管理費が地元負担となったことで、まちづくりプランは行き詰まりました。

川原湯温泉駅脇の砂利道 基金事業では、水没五地区の各地区で地域振興施設をつくることになっています。それまで農業地帯であった林地区では、ダム事業による国道の付け替えによって交通が便利になり、2013年に「道の駅」を開業。川原湯地区が対岸の賑わいから取り残されている状況です。
(写真右=代替地の川原湯温泉駅。駅周辺には基金事業による大規模施設が立ち並ぶ計画だったが、道路も未舗装。)

 以下の新聞報道によれば、跡見女子大との連携プロジェクトは、長野原町が中心となり、国交省八ッ場ダム工事事務所も関わっているようです。地域振興の主体は地元住民ですが、地元では冷めた見方もあるようです。川原湯温泉の再建計画には、これまで多くのコンサルや建築家、大学関係者が関わってきましたが、ダム行政主導のプロジェクトはダム事業に不安や不満を持つ住民への”目くらまし”という側面が強く、失敗を繰り返してきたからです。

 川原湯地区の地域振興施設が具体化しないことは、これまで群馬県議会でもたびたび取り上げられてきました。生活再建事業は群馬県が責任を負ってきた経緯がありますが、報道を見る限り、今回の企画には群馬県は関わっていないようです。

 関連記事を転載します。

◆2017年7月6日 上毛新聞 (ネット記事は紙面記事の冒頭部分)
 http://www.jomo-news.co.jp/ns/4214992750991924/news.html
ー自然楽しむ拠点に 八ツ場代替地 女子大と観光振興もー

 八ツ場ダム建設に伴う活性化策で、群馬県長野原町が快適な空間でアウトドア気分を満喫できる「グランピング」や、屋内でスポーツを楽しめる施設をダム代替地に計画していることが5日、分かった。

 町は相互協力包括協定を結ぶ跡見学園女子大(東京都)の学生と、住民が連携する観光振興プロジェクトも発表。2019年度のダム完成を見据えた地域振興策が加速している。

 グランピングはグラマラス(魅力的な)とキャンピングを組み合わせた造語で、豪華で快適なサービスを受けながら、自然との触れ合いを楽しむ趣旨。町は川原湯地区のJR吾妻線川原湯温泉駅の近くに施設を予定する。19年度までの完成を目指し、地元から出資を募って母体となる会社を立ち上げ、運営することを構想している。施設近くに川原湯温泉観光協会の観光案内所も置く。

 屋内スポーツ施設を計画しているのは横壁地区。国道145号沿いに、屋内でグラウンドゴルフやテニスができる施設とする。草津町や嬬恋村などを含め、周辺の温泉地に滞在する学生や社会人の取り込みを狙う。

 共にダム建設に伴う生活再建事業として、下流都県でつくる基金を活用して建設する。同趣旨の代替地の地域振興施設としては林地区の「道の駅八ッ場ふるさと館」などがある。

 跡見女子大とのプロジェクトは、ダムを観光の目玉と位置付け、住民と学生が8月以降、共同で街の魅力を高める商品を開発したり、観光客の行動を分析する研究を実施する。「町に新しい芽を出そうプロジェクト」として、地質学的な見どころが多い自然公園として認定されている町内の浅間山北麓ジオパークも合わせ、若い女性の力を観光振興に取り入れてアピールする。

 学生は観光現場をガイドする「コンシェルジュ」にも取り組む計画。萩原睦男町長は「町の活性化のために女子大生に種をまいてもらう。息の長い取り組みとしたい」と話している。

◆2017年7月6日 産経新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170706-00000045-san-l10
ー長野原町、跡見女子大・八ツ場ダムと連携し宿泊実習ー

■女子大生の視線で観光戦略
 長野原町は、跡見学園女子大(東京都文京区)と国交省八ツ場ダム工事事務所と連携し、観光立町として目指すべき未来像などを考える「長野原町に新しい芽を出そうプロジェクト」を始める。過疎化が進む中、交流人口の拡大や地域活性化の道を探るのが狙いだが、観光資源をどう生かすか、女子大生の視点を取り込みながら地元関係者は知恵を絞る。

 プロジェクトは、昨年4月、長野原町と町内に研修センターを持つ同女子大が相互協力包括協定を締結したのがきっかけとなった。

 町は、昨年認定の浅間山北麓ジオパーク、吾妻峡、川原湯温泉など観光資源に富むが、町には「65年間の歴史に翻弄された八ツ場ダム」がついて回り、川原湯温泉についても「ダムにいじめられた温泉のイメージ」(関係者)という。

 国などの支援で、ダムで水没する地域の生活再建をしてきたが、篠原靖同大准教授(観光地域振興分野)は、「これからは、地元が自立して町を作り上げねばならない」と話す。

 プロジェクトでは、ダム完成後も継続的に観光客を呼び込むため、地元旅館の若手後継者らと地域創生を学ぶ同大観光コミュニティ学部の約35人が協力する。

 具体的には、(1)川原湯温泉のブランド化(2)ダムとジオパークの連携策(3)酒蔵ツーリズムを生かす方法(4)道の駅での商品開発(5)町役場でのインターンシップ-の5点。チームごとに、温泉のリピーター増や、道の駅「八ツ場ふるさと館」のオリジナル商品の開発、ダムとジオパークをつなぐ観光戦略などを練る。

 8月下旬から9月にかけて女子大生が現地で泊まり込んで実習し、秋頃に研究成果を発表し、フォローアップ研修などを経て実践に移していく考えだ。

 萩原睦男町長は5日県庁を訪れ、「これからの地方を救うのは若手のマンパワー。タッグを組んで未来像を考え、今からさまざまな種をまいていきたい」と話した。篠原准教授は「長野原町は、自分たちのブランドを自分たちで考えていく場面にさしかかっている。ダム完成後の2年半後、すばらしい八ツ場、長野原になるよう応援したい」と語る。16日にはキックオフイベントとして女子大生が来県。午後2時からは同町山村開発センターで、萩原町長や篠原准教授による講演などが行われる。

◆2017年7月5日 毎日新聞群馬版
 https://mainichi.jp/articles/20170706/k00/00m/040/107000c
ー群馬・長野原町 女子大生の視点で地域活性へー

 群馬県長野原町は5日、跡見学園女子大学(東京都)と連携し、16日から地域活性プロジェクトを始めると発表した。女子大生の視点から、浅間山や吾妻峡などの貴重な観光資源を生かす試みだ。

 同大の研修所が町内にあることから昨春、両者が協定を締結。観光業を学ぶ学生たちを中心に調査を進めてきた。今後、町内の酒蔵めぐりや川原湯温泉のブランド化、建設中の八ッ場ダムの見学ツアーなどを計画している。

 山あいの町は学生にとっては「生きた教材」。萩原睦男町長は「学生たちはまさに『観光天使』。天使の力で町全体を元気づけたい」と期待を寄せる。【鈴木敦子】

◆2017年7月11日 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLZO18682920Q7A710C1L60000/
ー群馬・長野原町、地域振興で跡見女子大と協力 ー

 群馬県長野原町は八ツ場ダム建設に伴う地域振興で跡見学園女子大学(東京・文京)と協力する。8月から学生が町を訪問し、現地の若者と町内温泉のブランド化に向けた共同研究や、八ツ場ダムの観光プランの考案などを目的とした宿泊研修を実施する。人口減少が続く中、産官学連携で観光振興に取り組む。

 「長野原町に新しい芽を出そうプロジェクト」を始める。跡見女子大の観光コミュニティ学部の学生約35人が参加し、8~9月にかけて3~9泊の研修を実施する。

 研修には5つのテーマを設け、学生はいずれかを選んで参加する。川原湯温泉のリピーター拡大に向けた研究のほか、地酒のブランド化に向けた施策を研究する。八ツ場ダムの観光ガイド体験などを通じ、観光プランを考案する研修も予定する。各グループの研究成果は10月に発表する。

 長野原町では4月、国土交通省八ツ場ダム工事事務所が個人・団体向けの見学プラン「やんばツアーズ」を始めた。20代女性が中心の「やんばコンシェルジュ」が建設現場を案内する。ダムでは4月の1カ月間の観光客数が前年同月の4倍に増えた。萩原睦男町長は「女子大生のアイデアを生かし、八ツ場という名前をブランドとして発信したい」と話した。

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★長野原町長が群馬県庁記者クラブで会見した様子が長野原町のフェイスブック(7/5付け)に掲載されています。

★国交省関東地方整備局八ッ場ダム工事事務所によれば、高崎商業高校もダム予定地の振興に関わっています。
http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/yanba00101.html
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