国土交通省は1月24日、八ッ場ダム事業の土地収用に向けた事業説明会をダム予定地を抱える長野原町で行いました。
(右写真=説明会が開催された長野原町の体育館「若人の館」)
国土交通省は八ッ場ダムの事業用地の9割以上を取得済みですが、地区の共有地や水没予定地の地権者の土地など、まだ買収できていない土地があります。
土地収用法では、公共の目的のために定められた手続きによって、私有財産を取得することが認められています。同法では、手続き開始前に説明会を開催することが義務付けられています。24日の説明会は、この法律に則って行われたものです。(下図=国交省八ッ場ダム工事事務所 事業説明会の記者発表資料より)
公共事業を進める国は、最終手段として土地を強制的に取得することができますが、強制収用は世論の反発を招きがちです。ムダな公共事業との批判が強い事業であれば、なおさらです。このため、事業者は、強制収用に至る前に、陰に陽に地権者に圧力をかけ、任意交渉による土地取得をめざすことになります。
以下の図は、24日の説明会のスライドです。上記のフローより少し詳しくなっており、「和解」などの文字がありますが、説明会では手続きについての具体的な説明はありませんでした。
群馬県の公式ホームページによれば、八ッ場ダム事業用地456ヘクタールのうち、昨年10月1日時点で取得しているのは423ヘクタール(約93%)です。国土交通省の公表している取得率は昨年12月末時点で約92%です。
● 国土交通省関東地方整備局 記者発表 (平成27年 1月14日)
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000615374.pdf
● 群馬県ホームページ 「八ッ場ダム事業の進捗状況」
http://www.pref.gunma.jp/06/h5210024.html
町営体育館を利用した会場には、600席もの椅子が並べられていました。
実際、すでに転出した住民も含め、土地収用の関係者は約300人いるそうですが、説明会の参加者は約60名と報道にある通りで、そのうち地権者はわずか20名ほどでした。この説明会について、水没予定地区では、国交省がが形式的なものであることを事前に住民に知らせていたということです。すでに転出したり、代替地に移転した住民には関心の薄い説明会であることも影響したのでしょう。
国土交通省にとっても、参加者は少ない方が好都合だったはずです。この説明会は、世論の批判をかわし、合法的に手続きを行うことを示すための儀式にすぎません。本来であれば、最も参加しなければならない立場の国交省の八ッ場ダム工事事務所長も不参加なら、長野原町長も不参加。当事者である水没五地区対策委員会の役員らも、各地区の区長も不参加でした。有力者はみんなで国交省の意向に従って、示し合わせて参加しなかったのでしょうか。
国土交通省関係者は約50人、参加者とあまり変わらないほどの人数が会場の前の方に並んで座りました。 参加者と職員との間には、体育館の端から端まで、腰の高さほどもある山吹色のマットが敷き詰められ、マットには、「この中にはプロジェクターが入っていますので、触らないで下さい」と書いた貼り紙がありました。マットはまるで、参加者と国交省の職員を隔てる壁のようです。。
正面に掲げられた一枚目のスライドには、説明会の円滑な進行を妨げる行為を慎むよう、細かい禁止事項が並んでいました。
地元で噂されていた通り、説明内容は空疎でした。
八ッ場ダムの諸元、八ッ場ダムの建設目的など、どのスライドも国土交通省のホームページや説明資料に載っている映像が使い回しされていました。
左のスライドは、ダムサイト予定地を600メートル上流に移動させたことで、吾妻渓谷の四分の三が水没を免れることになったことをアピールしたものです。
プロパガンダもどきのスライドによる説明は約1時間続きました。
こちらは、国の天然記念物・川原湯岩脈についてのスライドです。ダムに沈める川原湯岩脈を記録保存し、ダム完成後は、ダム湖のどのあたりに沈んでいるのかを掲示板で表示するという説明がありました。
無味乾燥なスライド映写が終わった後、30分ほどの質疑がありました。
質疑の内容は、以下のページにまとめてあります。
https://yamba-net.org/wp/?p=10464
関連記事を転載します。
◆2015年1月24日 共同通信 (東京新聞、琉球新報、佐賀新聞社会面などに掲載)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-237815-storytopic-1.html
ー八ツ場ダムで土地収用手続き 説明会、住民から不満の声ー
群馬県長野原町の八ツ場ダムをめぐり国土交通省は24日、強制収用を可能とする土地収用法に基づいた事業認定を申請するため、地元で地権者や住民ら約60人に対し事業の説明会を開いた。土地収用法の手続き着手に、住民からは不満の声が上がった。
国交省は「地権者との協議による任意取得が最善と考えるが、相続で地権者が不明な土地がある」と説明。質疑で「強制収用されると補償はどうなるのか」「説明会が突然過ぎる」との声が相次ぎ、「誠意を持って対応する」と繰り返した。
国交省は昨年末までに、事業に必要な土地の約92%を取得済みだが所在不明の地権者が多数いる共有地が残っている。
◆2015年1月24日 毎日新聞夕刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150124dde041010019000c.html
ー群馬・八ッ場ダム:建設用地、収用手続きへ 「代わる場所ない」 故郷思い残り続けー
本体工事が始まった群馬県長野原町の八ッ場(やんば)ダムの建設工事を巡り、国土交通省は24日午後、建設用地を確保するための事業説明会を町内で開く。すでに用地の92%を取得しており、残る8%については任意収用に応じない場合、土地収用法を適用して強制収用に向けた手続きに入る。多くの住民は移転したが、とどまり続けている住民もおり、ふるさと喪失にやりきれない思いを募らせている。
「他の住民も苦渋の思いで移転したことは分かっている。故郷より良い所を見つけてくれればいつでも移る覚悟。でも、そんな場所はないんだよ」。水没予定の川原畑地区に今も住む無職、高山彰さん(61)はこう漏らした。
高山さんは同地区で生まれ育った。かつての川原湯温泉街を一望でき、夜には旅館の明かりが見え、宿泊客の歓声が聞こえてくるこの土地が好きだった。
ダム建設計画が持ち上がったのは1952年。高山さんは当時、「どうしようもない」と思い、反対の声を上げなかった。しかし、民主党政権が誕生して「建設中止」の動きが広がると、故郷への思いを抑えきれなくなった。「故郷が水の底に沈むのは耐えられない」と反対の声を上げ始めた。当時中学生だった娘から「余計なことを言わないで」と泣きながら頼まれたこともあるが、もう止められなかった。
移転対象の470世帯のうち、十数世帯は今なお代替地への移転が完了していない。国交省はまず、未収用のほとんどを占める所有者の所在が分からない土地について、強制収用手続きに入る。今も住む人たちの土地については、任意での取得を目指す。高山さんは「変わり果てた故郷を見るたびに胸が痛い。生活がどうなるか不安を感じる」と話した。【角田直哉】
◆2015年1月25日 毎日新聞群馬版
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20150125ddlk10010128000c.html
ー八ッ場ダム建設:国交省が説明会 強制収用へ手続き開始 空席目立つ /群馬ー
本体工事が始まった長野原町の八ッ場(やんば)ダム建設を巡り、国土交通省は24日、同町与喜屋の「若人の館」で事業説明会を開いた。
国交省はまだ取得していない土地について、土地収用法に基づく用地取得に着手。同法は事前説明会の開催を義務づけており、強制収用に向けた手続きが始まった。
国交省が約300人に説明会開催を通知したのに対し、出席者は町民ら約60人にとどまり、会場には空席が目立った。【角田直哉】
国交省によると、国は八ッ場ダム建設予定地のうち、約92%の用地を取得済み。
しかし、残りの土地は地権者が所在不明のケースも多く、土地収用法の適用に向けた手続きを始めた。地権者が分かっている土地については、あくまで国と地権者の合意による任意取得を目指すという。今後、同法に基づく事業認定の申請を国に行う。
24日の説明会では、国交省側が一連の手続きの流れやダム事業の概要を説明。地元住民らからは「強制収用に向けた具体的な手続きをいつ始めるのか」との質問が相次いだ。
しかし、国交省の担当者は「適切な時期に事業認定申請を行いたい。未買収地は任意取得が基本で、今後も丁寧に協議を進める」と述べるにとどめた。
地元ではすでに移転した住民も多く、土地収用への関心は高くない。説明会を開いても参加者が限られるとの懸念はあった。
元長野原町議長で、現在も川原湯地区の水没予定地に住む冨沢吉太郎さん(74)は「本当に知りたいことは何も教えてもらえず、回答にも誠意を感じられなかった。既成事実を作るためだけの説明会のように感じた」と話した。
◆2015年1月25日 上毛新聞一面より(ネット記事は紙面記事の冒頭部分)
http://www.jomo-news.co.jp/ns/8814221109569340/news.html
ー八ツ場ダム建設 土地収用で説明会 一部住民不満の声も ー
八ツ場ダム(長野原町)建設事業に伴い、国土交通省八ツ場ダム工事事務所は24日、強制収用を可能とする土地収用法に基づく事業認定を申請するための説明会を同町内で開いた。地元の地権者や住民ら約60人が出席したが、一部から不満の声が上がった。
国は昨年12月末時点で予定地の約92%を取得したが、所在不明の地権者が多数いる共有地が残っているなど現時点で予定地全ての任意取得は困難な状況になっている。同法に基づく事業認定を視野に、要y地取得を加速させる狙いがある。担当者はダム事業の概要や目的などに合わせて、土地収用法の手続きを説明した。
質疑では出席者の一部から「事業認定の時期はいつか」「強制収用されると補償はどうなるのか」「説明会が突然だ」などの声があった。国は「地権者との話し合いが最良と考えている。任意取得に向けて丁寧に協議することが基本で、事業認定の時期は未定」などと説明した。
予定地の移転対象470世帯のうち、昨年12月末時点で移転が完了しているのは456世帯。説明会に出席した70代の男性は「まだ移転できずにいる。強制(での移転)は一番最後の手段。話し合いを重視してほしい」と話した。
八ッ場ダムは21日から建設地で基礎掘削が始まり、本体工事が本格化した。2016年6月からコンクリート打設工事が始まり、18年5月には堤体が姿を現す予定。総事業費は約4600億円。基本計画でダム事業の完成は20年3月とされるが、作業の進み具合で前倒しされる可能性もある。