八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川辺川ダムの代替案は?

 国の川辺川ダム計画(熊本県)は、2009年に発足した民主党が「中止」を打ち出し、その後、事業が止まっています。その後、「中止」が覆り、本体工事に突き進んだ八ッ場ダムと明暗を分けた形となり、水没予定地を抱える五木村ではダムを前提としない地域振興が図られてきました。
 
 八ッ場ダム事業では民主党政権発足後、ダム予定地住民がダム中止政策に反発したことがマスコミで取り上げられ、政策を変更することのマイナスがクローズアップされました。川辺川ダムにおいても、予定地住民や地元自治体はダム中止に反発しましたが、殆ど取り上げられませんでした。

 二つのダム計画の違いは、受益者とされる自治体と流域住民の姿勢の違いにあるといえます。八ッ場ダムでは首都圏の利根川流域一都五県が受益者とされていますが、都県民の殆どは自分たちが八ッ場ダムの関係者とは認識しておらず、ダム事業の可否を問われることもなく、各都県と国との行政同士のやりとりでダム事業が進められています。一方、川辺川ダムの受益者は熊本県一県のみであり、県民にとって川辺川は身近な存在です。熊本県の前知事、潮谷義子知事が主導した川辺川ダムの住民討論集会は、多くの県民に川辺川ダムの不要性、マイナスの大きさを知る機会を提供することとなりました。2008年の県知事選では、自民党が推した現職の蒲島知事でさえダム中止を表明せざるをえないほど県内世論がダム反対に傾いていました。関係都県がダム推進で一致し、都県民のほとんどが無関心な八ッ場ダムと比較すると、川辺川ダムの中止ははるかにハードルが低かったといえます。

 しかし、川辺川ダムは法的にはいまだに生き続けています。川辺川ダム事業を中止するためには基本計画の廃止が必要なのですが、国交省九州地方整備局は巨大公共事業である川辺川ダム事業の中止を受け入れず、状況が変われば復活させる可能性があります。

 国交省九州地方整備局は川辺川ダムを中止するためには川辺川ダムに代わる治水対策が必要であるとして、昨年から対策案を検討する場として「球磨川治水対策協議会」を開催してきました。さる1月19日、国交省九州地方整備局は川辺川ダムに代わる治水対策案を検討する四度目の協議会を開催しました。
 この協議会の配布資料が九州地方整備局八代河川国道事務所のホームページに掲載されました。
 http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/damuyora/index.html

 このうち資料5を見ると、治水対策案について次のように書いてあり、川辺川ダムに代わる治水対策案にはなっていません。
 http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/site_files/file/activity/kaisaisiryo/20160119shiryou5.pdf

 遊水地  
 人吉地点で目標とする調節量約1,300m3/sに対し、約600~700m3/s(約5割)の調節が可能であるが、目標に対する効果量が不足するため、他の対策との組み合わせが必要となる。

 ダム再開発
 人吉地点で目標とする調節量約1,300m3/sに対し、最大で約200m3/s(約2割)の調節が可能であるが、目標に対する効果量が不足するため、他の対策との組み合わせが必要となる。

 放水路
 全量、一部を調節した場合も本川上流部や放流部の下流の河道において、他の対策との組み合わせが必要となる。

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 この検討の前提になっているのは、目標流量5300㎥/秒(昭和57年7月洪水)と人吉地点の河道流下能力4000㎥/秒です。代替案を考える前に、これらの数字を見直す必要があるのですが、国交省九州地方整備局はこの問題に触れようとしません。

 関連記事を転載します。

◆2016年1月20日 熊本日日新聞
 http://kumanichi.com/feature/kawabegawa/kiji/20160120001.xhtml
ー国、放水路案など提示 人吉市中心部を迂回 球磨川治水ー

 川辺川ダムに代わる球磨川の治水対策を検討する国、県、流域12市町村の「球磨川治水対策協議会」の第4回会合が19日、人吉市であり、国土交通省が川辺川の出水を地下トンネルで下流に流す「放水路」案を示した。
 国交省は放水路について、(1)五木村頭地~八代市坂本町(長さ約15キロ)(2)五木村頭地~八代市萩原町(同21キロ)(3)相良村の球磨川の合流点~球磨村渡(同11キロ)、の3ルートを提示。いずれも、浸水リスクが大きい人吉市中心部などを迂回[うかい]して川辺川の出水を下流に流せる上、補償用地の面積は取水部と放流部の各約1ヘクタールで、家屋移転なども生じない
とした。
 説明に対し、人吉市や相良村の副首長らからは「放水路案は現時点で最も可能性があるのではないか」との声が上がった。一方、球磨村と八代市からは中・下流域の水位上昇やコスト面を懸念する意見が出た。
 同日は、球磨川上流の市房ダム(水上村)の再開発案と遊水地整備案も示された。今後は検討対象の九つの対策のうち残り3案の説明を聞いた上で、事業費や複数を組み合わせた案の検討に入る。
(河北英之、小山真史)

◆2016年1月20日 人吉新聞
http://www.hitoyoshi-press.com/local/index.php?intkey=12565
ー「“放水路”に期待の声も」  国交省が3案を説明  ダムによらない治水  球磨川治水対策協議会

 川辺川ダムに代わる球磨川水系の治水対策を国や県、流域12市町村で検討する「球磨川治水対策協議会」の第4回会合は19日、人吉市カルチャーパレス会議室で開かれ、国土交通省が検討対象の洪水対策9項目のうち遊水地と球磨川上流にある市房ダム再開発、放水路の3項目について協議し、放水路案には期待する声も出され
た。
 同協議会は昨年2月、球磨川水系の治水対策を検討してきた「ダムによらない治水を検討する場」で積み上げてきた対策を実施し、戦後最大の被害をもたらした昭和40年7月洪水と同規模の洪水を安全に流下させる治水安全度を確保するため、新設ダムを除く対策を検討することにした。
 これまでの会議で、引堤と河道掘削等、堤防強化、遊水地、市房ダム再開発、流域の保全・流域における対策、放水路、宅地の嵩上げ等、輪中堤の9つの具体策を検討対象とし、11月の第3回会合で引堤と河道掘削等、堤防強化の3項目案の概要と課題を協議している。
 第4回会合は午後2時から始まり、国交省や県職員、12市町村の副市町村長、総務課長らが出席。はじめに、今回協議する3項目案の概要の説明があった。

 「遊水地案は組み合わせ必要」
 遊水地案は、球磨川上流や川辺川など約1300㌶が対象で、農地等の利用を保全したまま洪水時のみ貯蓄する「地役権補償方式」と、現地盤を掘り下げ、より多くの調節容量を確保できる「用地買収(掘り込み)方式」を検討。平地部のほとんどを遊水地としても目標に対する効果量が小さいため、他の対策を検討した上で組み合わせが必要になるとした。
 多良木町の副町長からは「現実的にこの取り組みができるのか。利益を被るのは下流域ということで理解が得られるのか危惧している。上流域は基盤整備もできて優良農地でもある。国は十分な補償費の支払いができるのか」といった疑問の声も出された。

 「ダム再開発案」に住民の理解は?
 また、市房ダム本体を約20㍍嵩上げするなどのダム再開発案は、目標とする調節量に不足するため、河道の対策など他の案との組み合わせが必要と説明。
 あさぎり町の副町長は「農業振興と合わせて利水の買い上げが地域に及ぼす影響をどう考えているのか」。多良木町の副町長は「利水用の水を買い上げるということは当初から考えられないことだ」。水上村の総務課長は「ダム建設時に200世帯以上が万感の思いで水没により移転された。当時の対応に今でも不満を感じている人もいる。村の振興を嵩上げによって元に戻すということは住民の理解を得られない。不安を助長するだけだ」などと不安視する声が相次いだ。

 五木~八代など3ルート
 川辺川の出水を地下トンネルで下流の球磨川に流す放水路案について、国交省は五木村頭地~八代市坂本町(延長約15㌔)、五木村頭地~八代市萩原町(同21㌔)、相良村の球磨川合流地点下流~球磨村渡(同11㌔)の3ルートを提示し、いずれも人吉市街部を迂回して下流域に流せる上、目標とする洪水調節量も達成できるとした。
 これに対し、相良村の総務課長は「放水路案については以前から話し合っていた。住民からも意見を聞いてきている。洪水の調節機能としては効果的ではないか。一番可能な方策ではないか。ぜひ実現できれば」。人吉市の副市長は「放水路案は、今の時点では一番可能性があるのではないかと感じた」と評価する声も。
 一方、八代市の副市長は「上流の水をトンネルで持ってくると、早い時間に既存の水位が上がることも考えられる。ばく大な費用がかかり、市民の理解が得られるのか」。球磨村の副村長は「放水路案によって下流がどういう状態になるのか示してほしい」と懸念する声を上げた。
 同協議会では、次回会合で9項目の残る項目について協議したあと、パブリックコメントを実施。その後、対策案の総合的な評価を行う。