さる11月4日、大阪府が本体工事を進めている安威川ダムに焦点を当てたシンポジウム「川は誰のものか。河川法改正20 年。河川行政はかわったか」が地元の茨木市で開催されました。水源開発問題全国連絡会と地元の市民団体による共催でした。
安威川ダムは大阪の市街地に建設される治水を主目的とするダムで、総貯水容量は1800万㎥、水没戸数49戸 移転戸数69戸と、補助金で建設される都道府県営ダム(通称:補助ダム)の中では、かなり大きなダムです。
他のダムと同様に、工期の延長と事業費の増額が繰り返されてきており、工期は当初計画の2008年度完成が2023年度まで延期され、事業費は当初の836億円から1536億円へと、約2倍になりました。
安威川ダムの治水問題で最も重要なことは、100年に1回の降雨による洪水への対応で安威川ダムが必要とされているものの、実際には1/100の降雨があると、安威川ダムがあっても、安威川・神崎川流域の大半のところが氾濫してしまうことです。安威川ダム下流の安威川・神崎川流域の大半は低地部であって、内水氾濫域です。
(安威川は下流の神崎川につながっていて、一連の川ですので、安威川・神崎川と呼ぶことにします。)
内水氾濫域は降った雨がはけ切れずに溢れる地域で、川からの越水による氾濫ではないので、安威川ダムで川の水位を下げても氾濫を防ぐことができません。そのことは裁判で被告の大阪府も認めました。内水氾濫域については河川整備計画では1/10(10年に一度)の雨量に対応するために整備を進めることになっていますので、1/100の雨が降れば、安威川ダムがあっても確実に氾濫します。また、安威川・神崎川の支川の多くは、1/10の雨量に対応するために整備を進めることになっており、整備が完了しても1/100の雨が降れば、やはり氾濫します。
したがって、安威川ダムが完成しても、1/100の雨が降れば、安威川・神崎川流域の大半で氾濫することになります。1/100の雨に対応するために、安威川ダムが必要とされていながら、実際には安威川ダムができても、下図のとおり、流域の大半で氾濫することになります。1536億円という巨額の公費を使ってダムを建設しても、目的とする1/100の降雨への対応ができないのですから、何のためにダムをつくるのか、わかりません。
シンポジウム報告スライド「安威川ダムは役に立つのか」(嶋津暉之)より
さらに、治水に関して次のような問題もあります。
〇 ダム推進のために、来る可能性がほとんどない、極めて過大な 洪水目標流量1,850㎥/秒(相川基準点)が机上の計算で設定されており、実際の1/100流量は河道整備で対応できる1,250㎥/秒を下回る可能性が高い。
〇 耐越水堤防工法を導入すれば、安威川・神崎川の流下能力が飛躍的に大きくなり、大洪水への対応が可能となるだけでなく、仮にそれを超える洪水が来ても、壊滅的な被害を防ぐことができるようになる。しかし、有効な治水対策である耐越水堤防工法がダム事業の推進のために表舞台から消されている。
〇 安威川・神崎川流域の実際の水害被害額(水害統計)の166倍という被害額の架空計算から安威川ダムの費用便益比が求められ、それが安威川ダム推進の根拠となっている。
〇 大阪府は治水効果が乏しい安威川ダムの建設ばかりに力を入れ、流域住民の安全を守るために必要な河川管理を疎かにし、河床堆積土砂の撤去に取り組んでいない。
このように無意味で愚かなダム事業は中止されなければなりません。安威川ダムの建設を中止させ、流域住民の安全を真に守ることができる治水対策の実施と河川管理を大阪府に求めていくことが必要です。
安威川ダムへの公金支出差し止めを求める裁判が2014年から進められています。
裁判の争点は、①ダムサイトの岩盤がぜい弱でダムの安全性が保証できないのではないか、②治水上の必要性が本当にあるのか、ダムが役に立つのかです。
後者の治水問題に関して、水源開発問題全国連絡会共同代表の嶋津さんがが原告弁護団への技術的な支援を担ってきており、今回のシンポジウムでもその報告を行いました。
報告スライドが同会サイトに掲載されています。
http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2017/11/ab15336ac427c8466b025be452b8a39d.pdf
シンポジウム報告スライド「安威川ダムは役に立つのか」(嶋津暉之)