「八ッ場ダム代替地分譲交渉 長期化に不安と不満」(上毛新聞)   

2005年4月10日(日) 上毛新聞より転載

 長野原町の八ツ場ダム建設で、現地再建者が取得する代替地の分譲基準交渉は、分譲価格をめぐり国土交通省と水没五地区(川原湯、川原畑、林、横壁、長野原)の代替地分譲基準連合交渉委員会(萩原昭朗委員長)とで折り合いがつかず長期化している。温泉地の分譲価格に対する川原湯地区の反発が原因。同委員会は価格の見直しを要望したが、同省は「これ以上の価格引き下げはできない」との姿勢を示しており、本年度中に予定された代替地への移転開始が遅れる可能性も出てきた。

 川原湯地区は十三軒の旅館を持つ温泉地。温泉地の分譲価格が通常の住宅地の価格に比べ、大幅な割り増しになっている点に強く反発する。

 国土交通省が二月下旬に提示した分譲価格表で、宅地用の分譲地は一般、駅前、温泉街の三ゾーンに分かれる。温泉街の価格は一般の三割増で、温泉街以外への旅館建設にも適用される。

 旅館経営者でもある豊田治明同地区ダム対策委員長は三月十七日の分譲価格説明会で、同省職員を前に「川原湯の旅館数は約半分に、世帯数は三分の一になった。この価格では転出者が増える。再建の見通しは立たない」と苦しい現状を語った。

 ほかの旅館経営者も「多くの関係者でまちづくりを考えてきたが、温泉街が成り立たなくなる可能性も出ている」と苦悩の表情を浮かべる。

 川原湯地区は温泉地という事情もあり、借地に住む商店主、旅館経営者が多い。交渉では、地権者以外でも代替地の分譲地を購入できることになっているが、「今の価格では買えない」との声が聞かれる。

    ー温度差ー
 他の四地区は合意を了承。生活再建に向け早期妥結を望む声が強くなっている。このため、川原湯と四地区で分譲価格交渉に対する温度差が出てきており、同委員会は対応に苦慮している。

 「温泉地という特殊な事情」を抱える川原湯地区と、「早く代替地への移転を」という四地区には、それぞれの理由で別交渉を望む声がある。これに対し、萩原委員長は「別交渉には絶対にしない。力を合わせまちづくりに向け努力することが重要」と五地区の連携の意義を強調する。

 交渉の長期化は、当初予定された本年度中の代替地移転開始に影響を及ぼしかねない。分譲価格の妥結後には個別交渉と、分譲する土地の上限や分譲者の条件などの分譲基準交渉が控える。移転者が希望する分譲地の意向調査も行わなければならず、四地区では「移転開始が遅れるのでは」と心配する声が出ている。

 林地区のダム対策委員会幹部は「林地区では、代替地造成を待てずに地区内に自分で土地を購入し住宅を建設する人が多い。代替地への移転を希望する住民は高齢化し、いつまで待たせるのかと言う人もいる」と地元の意見を代弁する。

    ー周辺は下落ー
 その一方で、バブル崩壊後の地価下落が進む中、川原湯地区の豊田委員長は「周囲の地価は年々下がっているのに、なぜ八ツ場ダム建設に翻ほんろう弄されたわれわれが移転する分譲地の価格が下がらないのか」と嘆いた。

 国土交通省は近く、五度目となる分譲価格提示を行う。八ツ場の焦りや悩みに対する「解答」はどこにあるのだろうか。

 中之条支局 新井正人