八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

市民団体より利根川治水に関して国交省に再意見書提出

 2005年12月16日

 国土交通省が進めている河川整備基本方針の策定に関して、八ッ場ダム問題に取り組むNGO三団体は、連名で以下の意見書を提出しました。首都圏のダム問題を考える市民と議員の会、水源開発問題全国連絡会は去る11月15日にも要請行動をとっており、今回の意見書は再提出となります。
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社会資本整備審議会河川分科会
分科会長 西谷 剛 様  委員 各位 
河川整備基本方針検討小委員会
委員長  近藤 徹 様   委員 各位 

「利根川水系河川整備基本方針の策定」に関する再意見書

2005年12月16日

首都圏のダム問題を考える市民と議員の会
代表  藤原 信
八ッ場ダムを考える会
代表  樽谷 修
水源開発問題全国連絡会
共同代表  嶋津暉之、遠藤保男

 12月19日の社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会において「利根川水系河川整備基本方針」に関する5回目の審議が行われます。前回の12月6日の小委員会における事務局の説明には基本的な誤りがあり、さらに、基本方針事務局案は、数字の辻褄合わせをしただけの現実性のない案であると判断されますので、意見書を再度提出します。私たちの主な意見は下記の4点です。
委員会におかれましては拙速に事務局案を承認することなく、利根川水系の専門部会を設けて、委員自らが専門的な検討を行い、さらにパブリックコメントを求めて、その意見提出者と河川管理者が議論できる場を提供することを強く要望します。
一般市民の意見にも耳を傾け、根本に立ち返って利根川水系河川整備基本方針について真っ当な審議を行うことを求めます。

1 「八ッ場ダムが最後」という事務局説明の誤りを問題にすべきである。
12月6日の小委員会では資料2の3ページ「1-1-2 河川ごとの方針 (1)利根川本川上流部」の説明において、事務局は「洪水調節施設の整備は八ッ場ダムが最後である。」と言明しました。しかし、基本方針案の数字を見れば明らかなように、基本方針案の内容は八ッ場ダムだけで洪水調節施設が完了するというには程遠いものです。基本方針案では八斗島地点上流の洪水調節必要量は毎秒5,500m3となっています。河川局の計算によれば、利根川上流部にある既設6ダム+八ッ場ダムによる八斗島地点の洪水調節効果は平均で毎秒1,600m3ですから、残り3,900m3はダム等によって調節する必要があります。2で述べるように、烏川水系の下久保ダムの治水機能増強や河道内調節池の設置はさほど大きな効果はありませんので、3,900m3のほとんどは新規ダムに依存することになります。1,600m3と3,900m3から、必要な新規ダムの基数を求めると、(烏川水系も含めて)17基にもなります。
利根川上流では治水目的を含む多目的ダム計画が次々と中止されてきています。中止になったダム計画は4基で、その合計貯水容量は約2億m3にもなります。治水ダムがどうしても必要ならば、中止した4ダムを治水専用にしてダム計画を再構築し、利根川上流のダム治水容量の大幅増強を図るはずですが、国土交通省はそのような検討もすることなく、4基のダム計画をあっさりと中止しました。このことは、ダム治水容量の増強には緊急の必要性がなく、これから治水ダムを新たに計画して建設することがきわめて困難であること、事実上不可能になっていることを物語っています。
今回の基本方針案はこのように事実上不可能な多数の新規ダムの建設を前提としているのです。このことをカモフラージュするために、事務局は「利根川本川上流部では八ッ場ダムが最後である。」と説明したのでしょうが、それは方針案の内容と全く異なる説明です。委員会はこの事務局の説明における基本的な誤りをなぜ問題にしないのでしょうか。委員会は現実性が全くない基本方針案を承認しようとしていることの責任を自覚すべきです。
なお、基本方針案が現実性を全く失っているのは、3で述べるように基本高水流量がきわめて過大に設定されているからであって、基本高水流量を科学的な手法で求めれば、八ッ場ダムを含め、新たなダム建設が不要となる基本方針に改めることができます。

2 基本方針案の記述のまやかしを問題にすべきである。
基本方針案では下久保ダムの治水機能増強や烏川の河道内調節池の設置が強調され、それらが八斗島地点に対してあたかも大きな洪水調節効果を持つかのように書かれていますが、それらの効果はさほど大きなものではありません。現在の下久保ダムはダム地点において最大洪水流入量毎秒2,000m3のうち、その3/4の1,500m3をカットすることになっていますから、ダムの嵩上げや貯水容量の用途振替で下久保ダムの洪水調節容量をいくら増やしても、最大であと500m3しかカットすることができません。それによる八斗島地点への効果はせいぜい100m3前後ではないでしょうか。また、河道内調節池の効果も小さなものです。たとえば小貝川に最近設置された母子島遊水池(面積1.6平方km、洪水調節容量500万m3)の洪水調節効果はすぐ下流の黒子地点で毎秒100m3ですから、仮に同規模の遊水池を烏川の河道内に設置しても八斗島地点に対する効果は数十m3です。このように、下久保ダムの治水機能増強や烏川の河道内調節池設置の効果は小さなものなのです。
そして、不可解であるのは、基本方針案は下久保ダムの治水機能増強や烏川の河道内調節池設置が大きな効果があるように記述しておきながら、一方で、烏川が利根川に合流する洪水流量(計画高水流量)を従前の計画と同様、毎秒8,800m3にしていることです。これらがもし大きな治水効果を持つならば、計画高水流量が従前の値よりも小さくなるはずです。同じ計画高水流量が踏襲されているということはそれらがさほどの治水機能を持たないこと、単に目くらましのために、すなわち、非現実的な新規ダム建設の必要性が前面に出ないように、下久保ダムの治水機能増強や烏川の河道内調節池の設置が記述されたことを意味しています。委員会はこのような記述のまやかしをなぜ問題にしないのでしょうか。委員会はもっと真剣に基本方針案の内容を吟味すべきです。

3 従前からの過大な基本高水流量を再検証すべきである。
基本方針案が八ッ場ダムも含め、非現実的な数多くの新規ダム建設を必要するものになっているのは、従前からの基本高水流量毎秒22,000m3(八斗島地点)が過大であることにあります。この数字は、200年に1回の洪水とされる昭和22年のカスリーン台風が再来した場合の流量を洪水流出モデルで計算したものですが、その計算値には二つの面で大きな疑問があります。第一は、カスリーン台風の実績洪水流量は毎秒17,000m3であって(それも観測流量ではなく、実際値よりも過大だと指摘されている)、当時の上流部の氾濫面積から見て、氾濫流量を加算しても、22,000m3にまで膨れ上がるはずがないことです。第二は、森林の保水力の向上が全く考慮されていないことです。当時は戦後間もないころで、戦時中の森林乱伐により、利根川流域の山の保水力が著しく低下していた時代でした。その後、植林が盛んに行われ、森林が生長してきましたから、現在は当時と比べれば山の保水力が大きく向上しています。このことを指摘する意見は委員会においても出されています。
この二点を踏まえて、すなわち、カスリーン台風時の氾濫流量を正しく把握し、さらに森林の成長による山の保水力の向上を前提として科学的な計算を行えば、カスリーン台風の再来による最大洪水流量は毎秒22,000m3よりはるかに小さい値になるはずです。
12月6日の委員会資料では、使用した洪水流出モデルの妥当性を最近の洪水で検証した結果だけが示されましたが、その計算結果は最初の土壌湿潤状態などの設定条件によって大きく変わりますから、単に計算結果だけを示しても意味がありません。
委員会には河川工学の専門家が何人も入っているのですから、基本高水流量の計算を事務局まかせにするのではなく、委員自らが基本高水流量の科学的な検証を行うべきです。河川工学が専門の委員はなぜ自分の専門知識を使って基本高水流量の検証を行わないのでしょうか。
科学的な検証を行えば、基本高水流量は毎秒22,000m3よりはるかに小さい値になり、現実性がある基本方針を策定することができるようになります。

4 数字の辻褄合わせをしている基本方針を策定すべではない。
基本方針案は、基本高水流量(八斗島地点)をきわめて過大な毎秒22,000m3にしたため、数字の苦しい辻褄合わせをしているところが随所にみられます。たとえば、中川から江戸川に入る洪水流量はゼロになっていますが、それは両河川の洪水ピーク時刻が大きくずれた場合です。実際には、当然のことながら、雨の降り方によって両河川の洪水ピーク時刻が一致することがありますから、その場合は中川の洪水ピーク流量毎秒500m3が江戸川の洪水ピーク流量に加算されます。また、小貝川については毎秒1,300m3の洪水が利根川に合流したにもかかわらず、利根川への影響がゼロになっていますが、これも理解しがたい話です。
とにかく、非現実的な毎秒22,000m3からはじまって、数字を割り振っていくから、随所に説明に苦しいところが出て、辻褄合わせをしなければならなくなっているのです。
このように、辻褄合わせをしなければならないような基本方針を策定して何の意味があるのでしょうか。委員会は、事務局案を根本から見直し、現実的で意味のある基本方針の策定を事務局に求めるべきです。