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「基本高水」高まる関心(朝日新聞)

2006年1月20日 朝日新聞群馬版より転載

「『基本高水』高まる関心 月刊誌で論争、国でも議論」

 関東一都五県で八ッ場ダム建設への負担金支出を違法とする住民訴訟が起きるなど、利根川水系のダム問題が注目されるなか、治水のキーワードである「基本高水」へ関心が高まっている。総合誌『世界』では1年にわたる論争がつづき、河川計画を審議する国交省の小委員会でも議論が重ねられている。

○利根川 伊勢崎が最重要地点
 基本高水とは、洪水時の河川の流量を表す専門用語。6都県にまたがり国内最大の流域面積をもつ利根川では、伊勢崎市八斗島が、基本高水をみる最重要地点だ。

 岩波書店の月刊誌『世界』で、04年10月号に大熊孝・新潟大教授の論文「脱ダム阻む『基本高水』-さまよい続ける日本の治水計画」が掲載されると、05年4月号で福岡捷一・中央大教授が批判を展開。これに大熊教授が6月号で反論し、福岡教授も12月号で再反論するなど、一年越しの論争になっている。

 最大の争点が、八斗島の基本高水だ。現在の治水計画では、200年に1度の洪水ピーク流量を毎秒2万2千㌧と設定。このうち6千㌧をダム群で調節する計画だが、いまあるダムでは1千㌧分の能力しかない。

 大熊教授は、根拠のあいまいな基本高水の過大さがダムを中止できない障害であると主張。過大な設定が日本をダムだらけにしたと批判する。

 これに対し、福岡教授は「日本の河川が目指す治水安全度は決して高くない」と主張。利根川の基本高水は1947年に大災害をもたらしたカスリーン台風がベースだと反論する。
 一般誌で展開されたこの論争は、基本高水に対する関心を高めた。

 利根川の治水計画を審議する国交省の小委員会に対し、関東弁護士会連合会は「八斗島地点の基本高水流量は過大だ」とする意見書を提出。過去半世紀に流量が1万㌧を超えた例はないと批判する。八ッ場ダム訴訟の原告らも「合理的な算出を」と求めた。

 ダム見直しを求めている水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表らは「過大な基本高水を設定し、いつまでも完了しないダム計画に税金を投入するのは行政の無責任だ」という。

 小委員会では批判を意識し、近藤徹委員長が流域1都5県に意見を求めたところ、「水系全体のバランスのなかで妥当」(東京)などと、全知事が支持した。

 委員の池淵周一・京都大教授は、基本高水について「降雨データの扱いによっては、2万2千㌧より大きい可能性もある」とする。

 国交省の渡辺知足・河川局長は「実現できないままの計画はいつまでも抱えてはいられない。整備計画に移す」としている。(伊藤隆太郎)

【キーワード】基本高水
 洪水時に河川を流れる1秒間の水量。治水計画では「基本高水のピーク流量」が重視され、この値が大きいほど多くのダムなどが必要になるため、数値の妥当性がしばしば議論になる。
 河川用語としての読み方は「きほんこうすい」だが、「降水」「洪水」との混同をさけるため、多くの専門家は「きほんたかみず」と読む。
 算出には、洪水の発生確率や降雨の時間・空間分布などさまざまなデータが用いられるほか、流量解析の算出式がいくつもあり、用いる係数にも選択や判断が入ることから、計算結果への異論が多い。