「首都圏は知らんぶりですか」(朝日新聞)

2006年9月9日 朝日新聞週末beより転載
(新市民伝)首都圏は知らんぷりですか 渡辺洋子さん
 「八ツ場ダムを考える会」事務局長 渡辺洋子(わたなべようこ)さん

 首都圏の水の確保という理由で、群馬県長野原町の川原湯温泉街と農村が水没しようとしている。国が利根川水系の吾妻(あがつま)川に計画する八ツ場(やんば)ダムである。
 計画から54年。首都圏は実はすでに「水余り」なのに、ふるさとの暮らしと豊かな自然が失われる。「知らんぷりでいいのか」と首都圏の人々に問いかけている。
 10月9日には加藤登紀子さんのコンサート「八ツ場、いのちの輝き」を東京都新宿区の日本青年館で催す(問い合わせ0424・67・2861)。八ツ場問題を広く首都圏で訴えるコンサートは初めてだ。
 八ツ場に車で1時間余の前橋市に住む。東京で育ち、東京外大を卒業後、群馬大の研究者と結婚して前橋へ。3人の子育てが一段落した00年、自然食の活動から脱・ダムの運動に加わった。
 地元がダム建設を受け入れた時期。「いまさら何だ」といわれながら現地に通い続けると、何人もの住民が胸の内を語ってくれた。かつて「成田か八ツ場か」と評された反対闘争の地域を覆うあきらめと不安。親子3代がダムに翻弄(ほんろう)される過酷さを知った。
 そんな住民の気持ちをつづった詩集「ダムに沈む村」を加藤さんに送ったのがきっかけでコンサートは実現した。
 2010年の完成をめざす八ツ場の事業費は日本のダム史上最高の4600億円。地盤や水質の問題も抱える。建設が中止されても現地の生活を再建できる代替案をまちづくりの専門家らとつくる。
 「東京の都市生活は八ツ場のような犠牲の上に成り立っている。それを多くの人に知ってもらいたい」
 (編集委員・辻陽明)