「すべて終わりではない」(中日新聞ー10/9)

 わが国の巨大ダム建設は、岐阜県の徳山ダム、熊本県の川辺川ダム、そして群馬県の八ッ場ダムが象徴的な存在として、並び称されてきました。その一つ、徳山ダムが先ごろ、試験湛水を開始しました。事業の進む中、様々な問題が指摘されながら、「もうここまで造られたのだから、後戻りは現実的ではない」という理由のみが一人歩きして、とうとうここまで来てしまいましたが、難問山積、負の遺産は将来世代にゆだねられる事になります。
 さて、八ッ場と川辺は、徳山の苦い教訓を生かすことができるのでしょうか?

★徳山ダム概要↓
http://tokuyama-dam.cside.com/gaiyou.htm

2006年10月9日 中日新聞社説より転載
 貯水容量がわが国最大となる徳山ダム(岐阜県揖斐川(いびがわ)町)の試験湛水(たんすい)が、始まった。本格稼働は再来年春の予定だが、堤体がほぼ完成したとしても、課題が全部解決されたわけではない。

徳山ダム
 木曽三川の一つ揖斐川上流に設けられた徳山ダムは、“脱ダム”の立場からは「最後の巨大ダム」と皮肉られた。建設の是非論、利水も含む計画が中途で治水重点に変わり、事業費も当初の一・四倍の三千五百億円に増えたことへの批判は、今も消えていない。

 だが水没する旧徳山村の全世帯が移転し、すでに廃村となった跡に、高さ百六十一メートルの巨大なダム本体が姿を現した今、ダム事業の取り消しは現実的とはいえない。新たに大きな混乱が見込まれるからだ。

 しかし、これでダムをめぐる全部の課題が解決したのではない。筆頭は、ダムの水を揖斐川から木曽川まで送る導水路建設である。

 同ダムは揖斐川の治水安全度向上や流量の確保、岐阜県域への利水のほか、愛知県と名古屋市への水道・工業用水供給も目的だ。これには導水路が必要で、事業費はダム本体と別に約九百億円と見込まれ、国と関係自治体が拠出する。

 木曽川水系の水需要予測の下方修正、名古屋市などの徳山ダムからの水利権一部返上を根拠に、導水路事業の費用対効果を厳しく問う声は強い。逆に一九九四年夏のような異常渇水の時、木曽川に緊急水を補給して、流量の維持と安定した取水を保証するのも導水路の役割と、建設促進の意見もある。

 九七年改正の河川法により、導水路事業は木曽川水系の河川整備計画の一環として、流域住民らの意見を求める必要がある。国土交通省はすでに、沿川市町村住民との懇談会などを開いている。悔いを残す拙速を避け、議論を尽くして、事業の実施に反映させるべきであろう。

 もう一つの重要な問題は、ダム上流域の山林約一万七千七百ヘクタールの公有林化である。

 住民の移転、高齢化などで保全が難しくなる民有林を買収し、岐阜県有林にする。水没で機能を失った林道などの付け替え道路を造る代わりだ。その上で同県が人工林の広葉樹林への転換や希少種生物の保護など環境保全を図る。

 水源地域の森林荒廃が災害を激化させている今日、山林保護、防災、民有地補償の新しい形として、アイデアは優れたものといえる。だが買収を地権者が拒めば、強制収用はできない。ダムを取り巻く自然環境をどうすればよりよく守れるか、ねばり強く話し合うべきであろう。