「荒川中流域に42年 玉淀ダム撤去を」(朝日新聞)

2006年12月20日 朝日新聞埼玉版より転載

◇長瀞町長ら要請 住民も連携
 荒川中流部の玉淀ダム(寄居町)を撤去し、自然の流れを回復するよう求める運動が、地元の寄居、長瀞両町や秩父市の住民の間で高まっている。大沢芳夫・長瀞町長らが、ダムを所有する県に撤去を要請。寄居町では住民組織も立ち上がった。ただ、県は「まだまだ使えるダムだ」と、前向きな姿勢は見せていない。

◇自然回復し「昔の川に」
 大沢町長や、長瀞、寄居町、秩父市の議員、住民ら約10人は今年9月、県庁で県幹部と会い、荒川の再生を求める陳情書を手渡した。大沢町長は「ダムを撤去し、昔の川に戻してもらいたい」と訴えた。

 同じ時期、寄居町金尾、末野、折原地区の区長や町議らが集まり、ダム撤去などで荒川の再生を求める住民組織を立ち上げた。NPO法人によるシンポジウムも開かれた。住民らは「今後、さらに連携を強める」と意気込む。

◇「生態系分断」
 住民らが求めるのは、昭和30年代のような自然環境の回復だ。玉淀ダムは荒川の中間に位置し、生態系を分断していると批判されている。ダムがなかった時にはアユは源流まで遡上(そじょう)した。現在、下流の堰(せき)は魚道を通って遡上できても、落差16メートルの玉淀ダムは越えられない。

 かつて、ダムの周辺は長瀞の岩畳のような景観が広がり、ライン下りの船も下ってきたというが、今は湖の底だ。釣り人も激減した。

 寄居町議OB会長で地権者の田島貞雄さん(80)は「すばらしい観光地になると言われ、皆、しぶしぶ応じたが、何も良いことはなかった」と、この四十数年間を振り返る。地元住民には県にだまされたとの感情が根強く残る。

◇県は慎重姿勢
 運動がここにきて本格化してきたのは、県が昨年12月、玉淀ダムを含めた電力事業から撤退することを表明したのがきっかけだ。10年度以降、年間2億円強の赤字が見込まれるため、県は水力発電施設を民間に売却する方針だ。

 もともと荒川は増水期間が長続きせず、発電効率の悪い川とされる。効率の悪い施設なら、撤去を含めた自然環境の再生策を検討すべきだというのが、住民側の考え方だ。

 一方、玉淀ダムは深谷市、寄居町に農業用水を供給しており、代替手段を確保する必要もある。

 ただ、県企業局は「老朽化で再構築の必要性が生じれば、撤去について協議する可能性はあるが、玉淀ダムは適切な維持管理をしており、まだまだ使える」と、慎重な姿勢を崩さない。

【玉淀ダム】
 東京オリンピックが開かれた1964年に完成。農林水産省と県が所有する。高さ32メートル、幅110メートル、総貯水容量約350万立方メートル。発電所の最大出力4300キロワット。深谷市と寄居町に農業用水を供給している。