水があるのに「渇水とは」(東京新聞)

2007年7月4日 東京新聞「私説 論説室から」より転載。

 関東が梅雨入りする前の先月十三日、ヘリコプターで利根川の上流域を見て回った。またぞろ「渇水の恐れ」が一人歩きしだしたのが気になった時、上空から首都圏の水がめを視察する機会を得た。
 まず神流川・下久保ダムの満水を確認し、ヘリは群馬県内を北上。雪渓が残る分水嶺の越後山脈を望めばダム銀座だ。相俣、藤原、須田貝、奈良俣も水をたたえていた。
 その中で最も大きい矢木沢は少し様相が違った。水位が低下し、上流域は土底がのぞく。貯水率は54%。今年は雪解け水や春からの降雨量がやや少なかったためという。 
 ダムは洪水調節の治水と飲み水や農業用水の利水など多目的機能を持つ。梅雨時には多雨に備えて、流入量が多い矢木沢などは少し空にするのが通例で、「むしろ水はたっぷりある」と安心した。
 なのに渇水報道は続いた。ダム群の貯水が梅雨明けに半分以下だったら、まだ分かるが、矢木沢の上流域だけを見せて空梅雨予報から不安をあおるのは、考えさせられる。
 東京が存立するのは、ダム群のおかげでもある。「暑い夏が増えると渇水も増す」と地球温暖化の気候変動を案じる声もあるが、ダムがこれ以上必要かとなると話は別だ。
 節水キャンペーンはますます重要になるが、役所の足元が定まらない。各都県はダム建設費の回収に迫られる中、水道料金は上げられず、水使用量が減って水道企業は悪化。建設中のダム事業費ものしかかる。そんなジレンマを抱え、「もっと水を使って」というのが本音だからだ。 矢木沢の三日の貯水率は87%と満水に近い。
 渇水はどこに? 「水物」の予測記事から脱したい。 (野呂法夫)