「ダム建設費膨張9兆円」(日本経済新聞)

2007年8月30日 日経新聞一面より転載
「ダム建設費膨張9兆円・149基調査、当初計画比1.4倍」

 国土交通省が全国で建設中のダム149基の建設費が約9兆1000億円と当初見積もりの約1.4倍に膨らんでいることが日本経済新聞の調べで明らかになった。工期の延長や設計変更などが主因で、見積もりの約16倍の建設費を計上しているダムもある。無駄な公共事業の見直しで、いったん建設を凍結したダムでも建設再開の動きがあり、さらに建設費が膨らむ可能性が大きい。

主なダムの建設費の当初見積もりと実際の費用

○八ッ場(群馬)
当初見積もり2,110億円
実際の建設費4,600億円(2.1倍)
計画策定時期 1986年

○大 滝(奈良)
当初見積もり230億円
実際の建設費3,640億円(15.8倍)
計画策定時期 1972年

○徳 山(岐阜)
当初見積もり330億円
実際の建設費3,500億円(10.6倍)
計画策定時期 1976年

○川辺川(熊本)
当初見積もり350億円
実際の建設費2,650億円(7.5倍)
計画策定時期 1976年

○滝 沢(埼玉)
当初見積もり610億円
実際の建設費2,320億円(3.8倍)
計画策定時期 1976年

○湯西川(栃木)
当初見積もり880億円
実際の建設費1,849(2.0倍)
計画策定時期 1986年

○志津見(島根)
当初見積もり660億円
実際の建設費1,450(2.1倍)
計画策定時期 1988年

 国交省から入手した資料によると、149基のダムが完成するまでに必要な建設費は総額で約9兆1000億円。当初の見積もりから2兆8000億円増えた。すでに約4兆5000億円は支出済みで、残りも今後10年以上かけて支出する。これとは別に新たに18基のダムも建設準備に入っている。

 建設費増大の要因の一つが工期の延長だ。奈良県の大滝ダムは当初計画を1972年に策定し77年度に完成する予定だったが、35年たった今でも出来上がっていない。途中で設計を変更したり、再工事を迫られたためで、2012年度には完成する予定という。この過程で、当初は230億円の見積もりが、3640億円(現時点の見込み)と約16倍に膨らんだ。

 1986年に建設計画を策定し00年度に完成予定だった八ッ場ダムも、完成予定は10年度にずれ込んでいる。当初の建設費見積もりは2110億円だったが、周辺の道路整備や用地交渉で建設費は4600億円とに2倍以上に膨らんだ。

 当初計画より工期が遅れているダムは90基と全体の6割にのぼり、そのうち18基が当初の完成予定から10年以上経ってもまだ建設中だ。

 00年に無駄な公共事業への批判から全国でダム中止・凍結などの動きが出たが、最近は国交省が一時凍結の方針を示していた建設を復活させる動きも出てきた。

 淀川水系の大戸川ダム(滋賀県)は、国交省が05年7月にいったん凍結したが、今年8月28日に設計を変更して建設する方針に転換した。長野県では田中康夫前知事が01年に脱ダムを宣言したが、06年9月に就任した現職の村井仁知事は方針転換に踏み切った。

 工期の遅れや建設費の膨張にについて、国交省は「ダムは設計変更や用地交渉などで予定より時間と費用がかかる場合が多い」(河川局)と説明している。

 公共事業に詳しい五十嵐敬喜法大教授は、「公共事業は小さく産んで大きく育てる構造で、いったん始めると止めにくい。建設費膨張は道路や橋でも起きており、厳格な管理が必要」と指摘している。

2007年8月30日 日経新聞5面より転載
「ダムなどの公共事業 延命監視に課題 再評価制度は形骸化も」

 ダムをはじめとする大規模な公共事業は、土地の買収や地元調整に時間を要するうえ、いったん着手すると投資が無駄になることを恐れ、国や自治体が事業継続にこだわる傾向が強い。政府は歳出改革で年度ごとの公共事業関係費の削減を進めているが、細く長く続く公共事業の構造に踏み込んだ改革は遅れている。

 群馬県吾妻郡ー。自然豊かな渓谷と川原湯温泉を目当てに観光客が訪れるこの町で、ひとたび山道に入ると様相は一変する。削り取られた山の斜面でトンネル工事、住宅の代替地造成。あちこちで高度成長期の日本のような大規模建設工事の風景が広がる。

 現在建設中のダムでは最大規模の八ッ場ダム。国交省は総額4600億円を投じる予定だ。当初計画では2000年度に完成する予定だったが、周辺工事などに手間取り、工期を10年度に延ばした。本体工事はまだこれからで「あと3年で完成させるのはとても無理」という声が専門家の間でも多い。生活道路の敷設など周辺事業や国債の利払いなどで国民負担は総額で8800億円という試算もある。

 公共事業の「ばらまき」批判が強まった1990年代、ダムは無駄な公共事業の象徴として批判を集め、全国各地で建設反対運動が起こった。00年6月の衆院選で惨敗した自民党も、亀井静香政調会長が約200の公共事業の凍結や中止を勧告し、公共事業見直しに踏み切った。

 無駄な公共事業の延命や事業の膨張を防ぐために、全国で導入が相次いだのが、公共事業の「再評価」制度。事業着手から一定期間を過ぎても完成のメドがたたない事業の必要性などを再評価し、中止や継続を判断する仕組みだ。

 97年に北海道が「時のアセスメント」を導入したのに続き、98年度からは旧建設省が導入。現在では全国各地の自治体で、第三者機関による公共事業の再評価制度を実施している。

 ただ実態は形骸化しているとの指摘も多い。再評価の判断に使うデータの提供をはじめ、行政主導で審議が進む場合が多いためだ。国交省の再評価制度でも、中止された公共事業が00年度には190件あったのが、06年度には10件にとどまった。

 政府は現在は公共事業を削減する数値目標を掲げているが、単年度の事業費を抑え込んでも、ダムのように長く続く事業の抜本見直しには踏み込めていない。