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「移転できぬ川原畑住民 振動、ホコリ・・・工事と共存無理」(讀賣新聞)

2008年2月7日 讀賣新聞群馬版より転載
「ニュース断面 八ッ場ダム 移転できぬ川原畑住民 振動、ホコリ・・・工事と共存無理」

 八ッ場ダム関連工事が進む長野原町で、昨年末から水没地区の住民の代替地(*)への引越しが始まったが、5地区のうち、川原畑地区では分譲開始から半年以上経過しても移転契約が一軒も結ばれていない。周辺工事が続く劣悪な環境などがネックになっているためで、住民は老朽化した家屋での生活を余儀なくされている。(田島大志)

*代替地 水没する川原湯(移転世帯39世帯)、川原畑(同18世帯)、林(同22世帯)、横壁(同16世帯)、長野原(同39世帯)の5地区ごとに住民が移転するための土地。長野原、川原畑は昨年6月、林は同8月、横壁は同12月に第一期の造成が完了。川原湯は3月下旬に完了予定。国交省は10年度までに全地区での達成を目指している。

 きれいに区画整備されたコンクリートの擁壁、舗装道路。川原畑地区の代替地は、昨年6月に完成したが、現在も、建物の建設は始まっていない。第一期は4軒が移転を希望しているが、いずれも契約を結んでいない。「住民はほとんどが70歳以上で、早く移転したい気持ちでいっぱい。でも、道をはさんで重機が動く中、住めるわけがない。現に、近くに移転した神社は砂だらけだ」。同地区の区長を務め、第一期の移転を希望する中島藤次郎さん(68)は嘆く。

 同地区の代替地は、国道145号の付け替え工事地と隣接し、現在は山の掘削などの工事が続く。住民たちは、振動や騒音、ホコリなどを警戒し、尻込みする。他地区ではそうした工事を済ますなどして造成を終えたため、移転契約の遅れは出ておらず、ダム建設にあたる国土交通省八ッ場ダム工事事務所の藤田浩副所長も、川原畑地区の現在の状況では契約が進まないのも仕方ない」としている。

 同ダムでは、契約を結んだ年度内に移転を完了することが定められている。延長はできるが最大一年までで、それを過ぎれば現在の自宅を取り壊される。「床が落ちそうな今の家での生活は、改修のためのお金もかかるが、契約すれば、劣悪な環境でも家を建てないといけなくなる」と中島さんは話す。

 住民にとって、昨年12月に工期が5年延長されたことも大きな不安要素だ。国交省は、「付け替え道路など、生活再建の工事は予定通り10年度までに暫定的にでも終える」との方針を地元に伝えているが、川原畑地区の住民の1人は「国の予定はもう信用できない。工事が落ち着くのをこの目で見るまでは契約できない。今年の秋は過ぎるだろう」と話す。

 移転手続きが順調な地区でも、工事との共存は大きな課題だ。「ずり上がり方式」をとったため、代替地はいずれも山の中腹に位置し、移転後は従来の主要道路や鉄道から遠くなる。
 すでに2軒が引っ越しを終えた長野原地区の代替地でも、脇を通る県道の完成はまだ先。小学生の娘とともに引っ越した40代の女性は「駅までのアクセスをどうにかしてほしい。工事車両が通る子どもの通学路も心配」と不安を口にした。