「上品な酸味 人気じわり 長野原町の豊田乳業 川原湯PRに意欲」(朝日新聞)

2008年3月23日 朝日新聞群馬版より転載

 長野原町川原湯地区にある1軒の乳業メーカーが注目を集めている。「くせがなくすっきりした味」と口コミで人気が広がり、地元だけでなく、前橋や伊勢崎などのスーパーにも牛乳やヨーグルトなどの製品が並ぶようになった。八ツ場ダムの建設で多くの旅館が移転を迫られるなか、川原湯温泉をPRしようと、都心にも進出を計画している。(鈴木健輔)

 「豊田乳業」(豊田武夫社長)は、温泉街を200メートルほど奥に入った山中にある。もともと、温泉街で旅館を営んでいたが、江戸末期に2度にわたり火災に遭ったことから、今の場所に引っ越した。
 大正時代、豊田社長(56)の祖父健造さんが数頭の乳牛を飼い、「牛乳配達人」として搾った生乳を自ら売り歩いたのが始まりという。

 現在は、同町北軽井沢の契約農家川嶋一夫さんから原乳を仕入れている。とうもろこしなど穀物飼料による余計な甘さを控えてあるため、くせがない。独特の組み合わせで乳酸菌で自家発酵するヨーグルトは、ほどよい酸味がある。
 豊田社長の長男真一さん(29)は「『甘くて濃い』がおいしい牛乳と言われるが、それとは逆のうちの製品が好きだって言ってくれる人も多いよ」と話す。

 1日の牛乳の出荷量は3千キロ(6千本)。需要にこたえるためタンクを増設してきた結果、10年前の6倍になった。
 同社の製品を扱う店の数も増えてきた。地元吾妻郡内のスーパーや農産物直売所、温泉施設など約40店舗。郡外でも、前橋、伊勢崎、渋川などの約20店舗で販売している。人気が口コミで広がった今は、店側から注文が来ることもある。

 八ツ場ダム事業により、川原湯の風景は大きく変わっている。宿泊客は減り続け、耐えられなくなった多くの旅館が閉じた。
 同社も、ダム事業に関連した新たな町道が工場の敷地を通るため、遅くとも09年度末には立ち退かなればならない。それでも、撤退はせず、場所をずらして新工場を建てる方針だ。

 「ダムへの賛否は別として、今の状況でできることはある」と真一さんは言う。
 温泉街を少しでも盛り上げようと、新工場で作るヨーグルトのカップに入れる文字はこれまでの「浅間高原」から「川原湯温泉」へ変える。都内の百貨店にも製品を卸すことを検討している。

 「地元に元気を取り戻したいのはみんなの思い。うちも川原湯のPRに少しでも役に立ちたい」と真一さんは力を込める。