「八ッ場ダム もはや不要」(朝日新聞コラム)

朝日新聞夕刊より転載

2008年4月2日
「知っ得! 八ッ場ダム もはや不要」

 草津温泉から流れ込む強酸性水を中和するため、1日に60㌧の石灰が投入されている群馬県草津町の品木ダム。その下流に、首都圏最後の巨大ダム「八ッ場ダム」計画がある。
 52年に計画ができたころは、まだ品木ダムはなかった。温泉水が八ッ場ダムのコンクリートを溶かすという理由で計画はいったん止まった。だが、品木ダムの完成で計画は息を吹き返した。八ッ場ダムを造るために、死の川をよみがえらせたとも言える。
 だが、その八ッ場ダム本体は計画立案から半世紀を経過したいまも着工できていない。10年度の完成予定を5年間延長する計画変更案が昨年末、関係する1都5県に示された。
 水利用だけでなく、治水の面からも不必要とする根強い批判がある。最近になって、群馬県議会や東京都議会でも、反対が増えてきた。民主党は、3年前の総選挙のマニフェストで計画中止を求めた。
 品木ダムは環境に手を加え始めるときりがなくなるいい例だ。この上八ッ場ダムをつくったら問題はさらに複雑になる。ダムの関連事業には道路特定財源も組み込まれている。八ッ場ダムの予定地は福田首相のおひざ元。道路特定財源だけでなく、この計画の見直しにも期待したい。(編集委員・石井徹)

2008年3月26日
「知っ得! 恩恵と副産物のいたちごっこ」

 群馬県草津町の品木ダム湖は、美しくも不気味なエメラルド色をしている。草津温泉などから流れ込む強酸性水を中和するため、日に60トンの石灰が投入されているからだ。 
 強酸性水は護岸のコンクリートを溶かし、農作物を直撃してきた。魚もすめない。ダムは中和した後の沈殿物を止めおくために1965年に建設された。中和によって下流住民が受けた恩恵は大きい。 
 だが、いいことばかりではない。ダム湖に流入した沈殿物は、すでに貯水容量の8割に達している。88年からは沈殿物を取り除く作業が行われているが、出すより入る方が多いのでたまる一方だ。 
 これまでに湖から取り除いた沈殿物約20万立方メートルが汚泥として二つの処分場に埋め立てられた。汚泥には高濃度のヒ素が含まれているが、遮水などの対策は取られていない。群馬県は「浸透した水はダム湖に戻るので大丈夫」と言う。第3処分場の容量は約33万立方メートルと大きいが、すでに湖にある分にも及ばない。 
 このためダムを管理する国交省はセメント協会に汚泥を原料にできないか試験を依頼した。協会によると、ヒ素を取り除くことは難しいので受け入れは制限され、処理コストも相当かかるという。 
 人の生活によかれと思って環境を改変すると、別の環境問題が発生し、対応するとまた新たな問題が起きる。これだから環境問題は難しい。(編集委員・石井徹)