「止まらぬダム計画」(朝日新聞)

2008年5月2日 朝日新聞朝刊より転載

止まらぬダム計画 岐阜・徳山ダム、完成目前 国交省「地域感情、無視できぬ」

 むだな道路建設をやめようという議論が盛り上がる一方で、巨大公共事業のダム建設の見直しは遅れたままだ。必要性に疑問符をつけられながら、3500億円が投じられた徳山ダム(岐阜県)が4日にも完成する。国土交通省が計画中のダムはまだ155ある。建設を押し進めれば国と地方の財政に大きな負担となりかねない。(伊藤智章、保坂知晃、中川史)

 ◆移転強いた手前、引けず
 現在計画が進むダムで総貯水容量が「徳山」の6億6千万トンを超す施設はない。「高さ(堤高186メートル)日本一」の黒部ダム(富山県)とともに、徳山は日本一のダムとして歴史に名を刻むことになる。

 だが、構想から52年目の完成に、地元は歓迎ムードとほど遠い。岐阜県の古田肇知事は「洪水対策で効果が期待できる」としながらも「財政的に大きな負担」と問題点を挙げる。

 巨大ダムのほとんどは高度成長期に計画され、発電や都市用水の確保が本来の目的だった。だが、低成長の時代に変わり、必要の度合いは減った。徳山はその典型だ。国交省は洪水対策の効果を強調するが、そのための水の容量はダム全体の5分の1でしかない。

 なのに400億円をすでに負担している岐阜県は、さらに都市用水分として今後23年かけ、500億円を返さなければならない。堤防改修で洪水対策はできないのか、ここまで巨大に造らなければいけないのか――。県庁内にも疑問はあった。

 だが、建設に前のめりになった梶原拓前知事(05年に退任)は旧建設省(現国交省)の元局長。歴代多くの県のダム担当の部長や河川課長も旧建設省からの出向者。「県の土木部門は国交省の出先機関みたいで、造ることが目的化していた」とある県幹部は打ち明ける。

 財政難を受け、ダム建設の元締めである国交省河川局は、この10年で108のダム計画をやめている。だが、その8割は国交省の補助金を受けて都道府県がつくる比較的小さなダムだ。国交省やその指示を受けた水資源機構の巨大ダム計画は批判を浴びながら続けている。

 道路と比べ、ダムは根が深い問題がある。土地買収などに巨額投資をしているうえ、多くは住民移転までした。徳山ダムも一村丸ごと水没し、1500人の村民を移住させた。

 4月22日、関西の淀川水系の「川上」(三重県)など四つのダムについて、国交省近畿地方整備局の諮問機関である「淀川水系流域委員会」が「ダム建設は不適切」との意見書をまとめた。青山俊行・国交省治水課長は「ダムが環境にいいわけはないし、堤防改修の重要性も認める」と委員会の論拠を半ば認めながらも、技術論だけでは片づけられない難しさを指摘する。
 「もともと予定地はダム反対。何とか説得し、協力して移ってもらったのに地域感情を無視して『もういりません』とは言えない」

 八ツ場(やんば)ダム(群馬県)は事業費が全国最高の4600億円に膨れあがり、川辺川ダム(熊本県)は3月の知事選で5人の候補者がだれも推進論を口にしなかった。だが、国交省は両ダムの予定地で300~500戸もの移転交渉のさなか。代替案の難しさもあって容易に引き下がれない。

 ◆見直し権限、求める住民
 「霞が関の役人が全責任を負い、すべてをコントロールしようとするのは無理。もっと住民にげたを預けるべきだ」
 大阪弁護士会の赤津加奈美弁護士は指摘する。昨年、日本弁護士連合会がダム建設の根拠となる河川法の改正を求める意見書を国交省に出し、そのとりまとめ役をした。建設中止を求める住民訴訟にもかかわって実感したのは「縦割りの河川行政だけで解決できない」という点だ。

 淀川水系流域委員会には、公募の住民代表も参加している。97年の河川法改正で「整備計画をつくる時、必要に応じ学識者の意見を聴く」とされたのを受け、当時の国交省近畿地方整備局が「住民」も地域に詳しい学識者として入れた。

 法改正は長良川河口堰(かこうぜき)(三重県)の建設強行で強い批判を受けた旧建設省の改革策だった。だが、どんな委員会を設置するかは国交省の裁量。メンバーが学者だけだったり、住民から公聴会式に意見を聴くだけだったりというところも多い。日弁連は住民参加の義務づけと常設化を求めた。

 赤津弁護士らが危機感を強めるのは、淀川流域委で国交省がみせたような、諮問していながらその意見書を半ば無視するという改革逆行の流れだ。「続行」と決めたダムは建設をかたくなに急ぐ姿勢が国交省に強まっているとみる関係者は多い。

 ●自治体が主導、中止の成功例
 県営ではあるが、30年がかりの計画をとりやめたダムがある。00年に中止となった鳥取県の中部ダムだ。

 水利用の計画は縮小し、洪水対策も堤防改修の方が安くつくと途中でわかった。「いまさら何だ」と反発した地元に、県は住宅新改築費助成などの名目で100億円を超す「補償金」を出して結果的に建設費の半分近い90億円の負担を浮かした。

 当時の知事の片山善博さんは「『このままでは地方財政全体がパンクする』という危機感があった。『いくらかかるのかわからないけど船出しましょう』というわけにはいかなかった」と振り返る。

 ダム事業による財政の痛みと、移転住民との摩擦に直面する「現場」だからこそ突破口が開けた事例だ。

 ◆キーワード
 <徳山ダム> 国土交通省などが所管する独立行政法人「水資源機構」が岐阜県揖斐川(いびがわ)町に建設。総貯水量約6億6千万トンは浜名湖(静岡県)の約2倍。洪水対策、発電、都市用水確保が目的だが、需要の低迷で発電と利水の施設整備はこれから。事業費は岐阜、愛知、三重3県と名古屋市、Jパワー(電源開発)も負担。国交省は「渇水対策などに有効」と愛知県などに向けた導水路建設に890億円を投じる予定。

 ■国内で進む主なダム計画
              総事業費  調査開始
 サンルダム(北海道)   530億円  66年
 八ツ場ダム(群馬)   4600億円  52年
 丹生ダム(滋賀)    1100億円  68年
 大戸川ダム(滋賀)   1000億円  68年
 山鳥坂ダム(愛媛)    850億円  82年
 川辺川ダム(熊本)   2650億円  66年
 徳山ダム(岐阜)    3500億円  57年
 設楽ダム(愛知)    2070億円  62年
 川上ダム(三重)    1220億円  67年