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「淀川水系4ダム原案巨費 河川整備、知事主導で」(読売新聞)

2008年5月2日 読売新聞朝刊より転載

 〈要約〉   
 ◇琵琶湖・淀川水系の4ダム建設案を第三者委が拒否。改正河川法で初のケースだ。
 ◇国はなお建設推進の意向だが、分権の点からも、知事が主導的役割を果たすべきだ。
     
 住民や学識経験者らでつくる「淀川水系流域委員会」が、琵琶湖・淀川水系に4ダムを建設するとした国交省の河川整備計画原案を拒否した。(大阪社会部・阿部健記者、石井明美記者)
 整備計画への住民意見の反映を盛り込んだ河川法改正(1997年)を受けて設置された第三者委員会が、国の案に同意しなかった初のケース。同省近畿地方整備局長から諮問された淀川委は、ダム計画について環境、費用対効果、堤防強化など他に代わる方法などを考慮し、治水などのため「どうしても必要か」を検討。記録的な大雨時の効果に疑問を呈し、整備局の説明を「説得力のある内容ではない」として先月25日、ダムを認めない意見書を提出した。
 これに対し、整備局は、あくまで建設を目指す方針を表明、整備計画策定に向けた作業を進める。法改正から10年余。その精神が真正面から問われる。
 長良川河口堰(ぜき)(三重県)問題を教訓に改正された河川法は、ダム建設などを河川整備計画に位置付けるよう規定。計画策定にあたっては住民、学識経験者、知事・市町村長から意見を聞くことを河川管理者(国交相など)に義務付けた。
 意見に法的拘束力はないが、「脱ダム」の流れに歯止めをかけたい同省は、委員会運営をコントロールする傾向を強めている。
 国が管理する1級河川は全国109水系。第三者委は75水系にあるが、住民を委員に加えたのは淀川委を含め17水系にとどまる。06年以降、委員を学識経験者に限定し、住民の意見聴取の場を、要望などを聞き置く「公聴会」として分離するケースが相次ぐ。同省側が第三者委に意見集約を求めないことも多く、これまでに意見書を提出していたのは10水系だけだった。
 「公共事業ありきの国の姿勢にくさびを打ち込んだ」。八ッ場(やんば)ダム(群馬県)建設が計画される利根川水系で、第三者委への住民参加を求めて活動する市民団体の深澤洋子さんは、淀川委を評価する一方、河川行政の現状について「これまでは、国交省が反対意見を封じ込めてきたようなもの。改正法の精神が骨抜きにされつつある」と批判した。
 淀川水系で今後、注目されるのは、ダムの賛否を明らかにしていない大阪、京都、滋賀の3府県知事の意向だ。3000億円を超える総事業費のうち、自治体負担分の大半700億円以上を負担することになる3府県の同意が事実上、不可欠だからだ。
 知事は災害対策基本法で、住民の生命、財産を守る責務を負う。国から地方に権限を移譲する「地方分権」の観点からも、主導的な役割を果たすべきだろう。
 政府の地方分権改革推進委員会は5月下旬に予定される第1次勧告で、都道府県で完結する1級河川の管理移譲を盛り込む方向で検討している。4ダムの一つ、丹生ダム(滋賀県)下流は、それに該当する。全国知事会の地方分権推進特別委員長でもある京都府の山田啓二知事は「住民の安心安全を負託されているのは我々」と3知事で連携していく考えを示した。
 熊本県の川辺川ダムは計画発表から42年を迎える。3月の知事選で初当選した蒲島郁夫知事は「9月議会で建設の是非を判断する」と公約した。九州地方整備局はそれを待って整備計画原案を提示する。
 整備計画にまだ位置付けられていない国の計画・建設中のダムは全国32か所。総事業費は少なくとも3兆円を超える見込み。淀川水系の問題を、河川整備の在り方そのものを広く論議する好機としたい。
        
 〈淀川水系流域委員会〉
 01年に発足し、03年にダム建設の「原則中止」を提言。整備局が昨年8月の原案諮問時に、委員24人の半数を入れ替えた。発足当初と比べると、一般公募委員が9人から1人に。住民代表(4人)の割合も全体の15%と半減。公募委員で「淀川委の生みの親」でもある元国交省キャリア官僚の宮本博司氏が委員長に就任し、議論をリードした。原案には、いったん凍結されたダム計画も盛り込まれていた。