2008年5月16日 毎日新聞群馬版、埼玉版より転載
「八ッ場ダム、必要か 1都5県議の会発足へ 費用負担の下流都県も検証」
長野原町で建設が進む八ッ場ダムの費用を負担する群馬、東京、千葉、埼玉、茨城、栃木の都県議でつくる「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」が19日、発足する。群馬の自民、公明を除く超党派の県議が呼び掛け、約55人が参加する見込み。6都県議が連携してダムの必要性や安全性を検証するとともに、水没地区住民の生活再建を目指す。【伊澤拓也】
◇水没地区、住民の生活再建も
発起人となったのは2月に発足した「八ッ場ダムを考える群馬県議会議員の会」14人のうち6人。事業費を負担する下流都県も含めた会の発足を提起し、参加を募った。
会の目的は(1)ダムの必要性の徹底検証(2)ダム事業の実態調査(3)水没地区住民の生活再建を支援--の3点。19日に東京都内で結成会を開き、会員間で情報交換や勉強会、現地視察を重ねながら、国や県に対し要請を行っていくことを確認する。
会員の内訳は群馬13人▽東京16人▽千葉10人▽埼玉13人▽茨城2人▽栃木1人--程度になる見込み。今後は群馬以外の各都県でも考える会を発足するよう促すという。
◇見直し機運高まる
計画浮上から半世紀たった今、八ッ場ダムをめぐる議論が加熱している。「1都5県議の会」の誕生は、それを象徴する出来事だ。一つのダム建設に対して複数の都県議が連携をとる事象は極めて珍しい。費用負担する下流都県議会の動向はダム事業を左右するため、今後の活動に注目が集まりそうだ。
なぜ今、八ッ場か。一つは、公共事業見直しの機運が高まっていることが挙げられる。民主党が05年9月の衆院選で党のマニフェストに初めて八ッ場ダムの見直しを盛り込み、同党の大河原雅子氏が今年1月の参院本会議代表質問で「福田ダム」と批判。地元、群馬では昨年4月の県議選でダム反対派の当選が相次ぎ「考える会」が発足した。
「1都5県議の会」もこの流れに沿うものだ。事業は下流都県の費用負担なしに進まない。負担率は利水量に比例し、埼玉が最大で1114億円。工期5年延長に伴う計画変更は6都県議会で承認されたが、東京都は自民、公明以外が反対に回り、賛成68、反対56と競った。
会の主な目的は、下流都県が負担する支出が適切かどうかの検討だ。一つの議会ででも支出が否決されれば、ダム事業は見直しを余儀なくされる。県特定ダム対策課は「想定したくもないが(否決されれば)いろいろな不測の事態が起きる」と警戒する。
発起人の一人、角倉邦良県議(リベラル群馬)は「生活再建を優先させながら、ダムが本当に必要かどうかを検討する組織にしたい」と話している。【伊澤拓也】
◆ 八ッ場ダム事業費にかかる下流都県の負担 ◆
ダム事業費 水源地域整備計画事業費 利根川水源地域対策基金* 合計
群馬 234億円 42億円 3億円 279億円
東京 871億円 131億円 16億円 1018億円
千葉 505億円 61億円 8億円 574億円
埼玉 953億円 143億円 18億円 1114億円
茨城 269億円 26億円 3億円 298億円
栃木 10億円 - - 10億円
*基金は08年度までの支出額
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■ことば
◇水源地域整備計画事業
水源地域対策特別措置法に基づく事業で、全体の費用は997億円。うち4割にあたる403億円を下流都県が負担する。生活再建事業や道路の高規格化など総事業費4600億円で処理できないダム周辺環境の整備に使われる。利根川水源地域対策基金はそれをさらに補うための資金で、今年度までに48億円が投じられた。