八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

連載 八ッ場ダムはいまNo3(朝日新聞)

2008年6月30日 朝日新聞群馬版より転載

八ツ場ダムはいま
「国民負担は9000億円に 次期総選挙の争点にも 八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会代表 嶋津暉之氏に聞く」

 ――八ツ場ダム建設に反対する理由を。

 水余りで利水の必要はなく、利根川の治水面でも効果がないにもかかわらず、巨額の金がかかる。建設事業と関連事業で約6千億円、起債分の利息を加えると、国民の負担は9千億円近くになる計算だ。

 ダムができた後に残るのは負の遺産でしかない。ダム建設予定地やその周辺は地質が悪く、地滑りなど災害が起きる可能性も高い。吾妻渓谷の景観は損なわれ、ダム湖に水がたまれば、吾妻川の水質も悪化する。

 ――治水面で効果がないとなぜ言えるのですか。

 伊勢崎市・八斗島(やっ・た・じま)の観測地点では、過去50年間で最も多い(瞬間あたりの)最大流量を記録した98年9月の豪雨の際にも、水位は堤防の上端から約4メートル下までしか上昇しなかった。八ツ場ダムによって下流への流量を毎秒510トン削減できるとしても、八斗島の水位は13センチしか下がらない。

 国は、200年に1回の規模の大雨が降った場合、ダムによって毎秒600トンほどの流量の削減効果があると説明するが、その場合も水位の下がり具合は十数センチ程度にすぎない計算だ。

 むしろ、下流の堤防の強化が必要だが、ダムに金をかけすぎて後回しになっている。

 ――地元の住民の中には、今さらダム建設が中止になると困るという声があります。

 ダムに長年苦しめられて、代替地での生活に夢を抱いている方も多いが、現実は厳しい。分譲価格は高いし、人工的な代替地に造られた温泉地に、どれだけ客が来るだろうか。

 ダム建設を止めて、今の場所での生活再建を目指した方がいい。そのためには、公共事業の中止後も地元の振興を保障するための法律が必要で、民主党など野党に制定を働きかけている。

 ――政治的な判断で、建設が中止になる可能性はあるのでしょうか。

 民主党は05年の総選挙で八ツ場ダムの建設中止を公約した。次の総選挙で野党が勝てば、中止に向かうのではないか。都市の納税者など、世論の盛り上がりも必要だ。

 ――連絡会が6都県に、ダムへの支出の差し止めなどを求めている裁判の見通しは。

 決して明るくはないが、水需要が減少していることを訴えていく。1都県でも支出をやめれば、他県も影響を受ける。(聞き手・高重治香)=随時掲載