2008年7月18日
八ッ場ダム事業についての関心が高まり、ダム推進派、見直し派による議論が活発化しています。両者の主張は、「長年、犠牲となってきた水没予定地住民の生活再建を最優先に」という点では一致しています。生活再建事業の現状、今後を考える上でポイントとなるのは水源対策基金事業、水源地域整備事業ですが、これら二事業については不明な部分も多いことから、7月1日、群馬県に公開質問を行いました。
このほど群馬県より回答が届きましたので、八ッ場あしたの会のコメントと共に公表します。
なお、八ッ場あしたの会では本年3月25日、国土交通省に公開質問書を提出しました。回答期限は4月20日でしたが、3ヶ月過ぎた今も回答がありません。国交省の対応は、ダム事業の実態と同様、あまりに時代遅れです。情報公開を進める群馬県の対応に敬意を表します。
八ッ場あしたの会よりのコメント
● 水源対策基金事業の実態について
生活再建事業の一翼を担う水源対策基金事業は、八ッ場ダム計画における他の二事業(ダム建設事業、水特法事業)と比べ、位置づけが曖昧です。
基金事業の全体計画案(H4素案)は、平成4年当時、水没予定地住民がダム受け入れの条件として、下流都県に要望した事項を群馬県がとりまとめたものでした。今回の群馬県の回答により、この全体計画案は下流都県の合意を得られなかっただけでなく、この事実はごく最近まで住民に伏せられていたことが判明しました。
素案が作成された平成4年は、国、県、町で「用地補償調査に関する協定書」が締結された年です。ダム事業が実質的にスタートした時、基金事業は地元と下流都県で合意が成立していなかったことになります。この事実は、地元住民にも下流都県の住民にも知らされることはありませんでした。
当時の群馬県は、情報を伏せることによって問題を先送りしたといえます。全体計画が策定されてこなかった基金事業は、八ッ場ダム建設事業の欠陥を補うために、その場凌ぎで行われてきており、「水源地域住民の生活再建と地域振興を下流都県が支援する」というキャッチフレーズと実態とは乖離しています。
なお、質問1-4において、「下流都県は裁判を起こされているから基金事業に協力できなくなったと群馬県職員が地元で説明している」情報について真偽を尋ねましたが、責任者である特ダム課長はそのような説明はしていない、とのことでした。
● 水源地域整備事業における付替え国道の問題について
高規格四車線道路の建設は、八ッ場ダムの付帯事業の目玉といわれてきましたが、工事の実態は群馬県内でも下流都県でもあまり知られていません。
付替え国道の建設については、6月3日の内閣答弁により、実質的に四車線の計画がないことが明らかになりました。トンネルも橋も二車線分しか造っていないのですから、供用開始後、四車線化を検討するといっても、現実的な話ではありません。
国と下流都県が付替え国道の費用を負担するとのことですが、実現性の乏しい四車線道路の土地取得費用を負担することについて、納税者の理解が得られるとは考えられません。総額744億円(水特法事業分は311億円)以上にもなる国道建設事業について、行政は情報を公開し、工事の遅延、技術的な問題などを明らかにする必要があります。現国道が水没しなければ、現在の二車線の付替え国道建設だけで、国道は四車線確保でき、地元にとっても下流にとっても負担が少なくなります。
水特法事業の問題については、今年初め、長野原第一小学校の問題が大きくクローズアップされました。水源地域におけるハード面の充実を目指す水特法事業には、地域の活性化という本来の目的から逸脱していると思われる事業がいくつもあり、今後、地元にとっても下流都県にとっても大きな負担となることが懸念されます。
群馬県からの回答
平成20年7月15日
八ッ場ダムの水源対策基金事業及び水源地域整備事業に関する公開質問書に対する回答
1 八ッ場ダム基金事業(水源対策基金事業)
質問1―1 基金事業の全体計画については群馬県が当初作成した総額249億円の案があります。この案は現在どのような位置づけがされているのでしょうか。
【回答】 平成2年度に公表した地域居住計画に盛り込まれた事業の中で基金事業として事業化すると位置づけられたものを取りまとめたものが総額249億円の計画案です。通称「H4素案」と呼んでいますが、基金事業全体計画のたたき台となるものであると考えています。
質問1―2 現在までに、基金事業の全体計画は策定されたのでしょうか。もし策定されていればその内容を、もしなければ、策定されなかった理由を明らかにしてください。
【回答】 現段階では、基金事業の全体計画は策定されていません。その理由は、下流都県との間で合意が形成されなかったためです。
質問1―3 八ッ場ダム基金事業は地元住民の生活再建に関して重要な役割を担うものです。もし全体計画が策定されていないならば、全体計画策定の今後の見通しを明らかにしてください。
【回答】 全体計画は、今年度末を目途に取りまとめる考えです。
質問1―4 八ッ場ダム基金事業については、1都5県の各地方裁判所で八ッ場ダム住民訴訟が始まってから、関係都県の協力が得られなくなったという話が群馬県によってダム予定地住民に語られていると聞きます。この話は事実でしょうか。もし事実ならば、それを裏付ける関係都県の会議録を明らかにしてください。また、基金事業のどのような項目の負担について関係都県が異論を唱えているのかも明らかにしてください。
回答 現在、下流都県とは、群馬県が提案した基金事業の素案をもとに真摯な議論を行っております。ご質問の「異論」とはどの様なものを指すのか分かりませんが、県としては提案した素案に理解をいただけるように努める所存です。
質問1―5 群馬県が打ち出しつつある地元再建支援策の財源は、この基金事業に求めるのでしょうか。あるいは県単独の負担で行うものなのでしょうか。
【回答】 財源については、基金事業、県単独事業で実施するものの外にダム事業等と連携して実施する予定の事業も有ります。
質問1―6 群馬県が当初作成した総額249億円の基金事業全体計画案の内訳は表1のとおりです。各事業項目について現在までの進捗状況と今後の見通しを明らかにして下さい。
【回答】 現在までの進捗状況は、別表の「基金事業計画に係る執行状況」のとおりです。平成20年度以降については、ダム事業等の実施状況を踏まえて進捗を図りたいと考えています。
2 八ッ場ダム水源地域整備事業
質問2―1 水源地域整備事業の実施期間は平成22年度までとなっていますが、八ッ場ダム建設事業の工期延長に伴って、平成27年度までに変更されるのでしょうか。
【回答】 八ッ場ダム建設事業の工期延期に伴い、水源地域整備事業も実施期間を延期する予定です。
質問2―2 水源地域整備事業のうち、八ッ場ダム完成まで完了しない事業が出た場合、その事業はダム完成後も続行することは可能なのでしょうか。
【回答】 水源地域整備事業のうち、八ッ場ダム完成までに完了しない事業が出た場合には、関係機関と協議の上、了解が得られれば、完成後も続行することは、可能であると考えています。
質問2―3 国道145号付替事業費については、現国道の補償分はダム建設事業で負担し、拡幅などのプラス分は水源地域整備事業で負担することになっているのでしょうか。拡幅などのプラス分には地域高規格道路としての4車線化も含まれているのでしょうか。
【回答】 国道145号付替道路の主たる区間は、地域高規格道路として整備を進めています。事業費については、機能補償分はダム事業費で、それ以外は水源地域整備事業で事業費を負担しています。
質問2―4 本年6月3日の政府答弁書(参議院議員大河原雅子君提出八ッ場ダム建設事業の今後に関する質問に対する答弁書)によれば、国道145号付替事業については4車線化の時期は2車線での供用開始後、交通の状況に応じて検討することとしていますので、4車線化の可能性は非常に小さくなり、少なくともダム完成までの4車線化は困難となりました。しかし、この政府答弁書は4車線分の用地は買収してきていると述べています。4車線分の用地買収は公費の無駄遣いになると批判されても仕方がないと思いますが、これについて群馬県はどのように考えているのでしょうか。
【回答】 国道145号付替道路は、4車線道路として整備する考えなので、買収した用地が無駄となることはありません。また、公費の無駄使いになるとも考えておりません。
質問2-5 水源地域整備事業は国費だけでなく、関係都県の負担で成り立っています。国道145号付替事業費のうち、水源地域整備事業が4車線化を前提として負担しているならば、関係都県は実現が事実上困難となった4車線化の分も負担していることになります。このことについて群馬県は関係都県にどのように説明しているのでしょうか。また、関係都県から疑問や事業費負担の見直しを求める意見は出ていないのでしょうか。
【回答】 国道145号付替道路については、4車線計画として整備を進めている状況であるので、下流都県に対してご質問のような件についての説明はしていません。
質問2-6 八ッ場ダム水源地域整備計画によれば、事業項目別の事業費の計画は表2のとおりです。各事業項目について現在までの進捗状況と今後の見通しを明らかにしてください。
【回答】 現在までの進捗状況は、別添の「水源地域整備計画に係る執行状況」のとおりです。事業については、ダムの完成までに全ての事業を完了させる予定であります。