2008年08月18日 朝日新聞群馬版より転載
八ツ場ダムはいま 5
【豊田乳業社長・川原湯地区区長 豊田武夫氏】
代替地の整備まず先
――ダム本体の準備工事が始まりました。水没する川原湯地区の区長として、どう受け止めていますか。
川原湯地区からすれば、地元の住民の家は代替地に1軒も建っていない。それなのに、本体の準備工事ばかり着々と進めるというのは、全く持って不当だ。ダム本体が完成したところで、水没地区の住民が移転しないことには、水を入れるわけにはいかないのだから、まずは代替地の整備が先だ。
――その代替地の整備はかなり遅れています。
昨年の今ごろの話では、今年には家が何軒も建っているはずだったのに、いまだに道路の舗装さえできていない。現地で工事している業者の数がいつも少なすぎるように思える。資金はたくさんあるのだから、多くの業者を呼んで一気にやれば、すぐにでも完成させられるはずだ。でも、そうしないのは、何か住民に知られたくない事情が国土交通省にあるからだと勘繰らざるを得ない。
――知られたくない事情とは。
山を切り崩して平らにするだけでなく、急斜面に大量の土を盛って、宅地などを造成しようとしているだけに、地盤の安全性に問題があるのではないか。実際、国交省は「造成地の斜面が沈下している場合は、分譲できない」と言っている。
――それでも代替地は2年後にほぼ完成する、というのが国の計画です。
けれども、国は「2年後に分譲する」とは言っていない。今の様子では、2年でできるとは到底思えない。区長として、地区の人たちに「2年後に川原湯の全住民の移転先が完成し、分譲できます」などと説明することもできずにいる。ダムの完成も15年度に延期されたが、それだって無理では。何十年たってもできなかったのだから、「いつまで待っても完成しない」と思っている人も中にはいる。
――県議会では、ダム建設に賛否それぞれの立場の議員連盟ができました。
議論する前に、まず現地をよく見て、勉強してほしい。そのうえで、早期に安全に造れる方法を考え、研究してほしい。(聞き手・吉田拓史)