八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

地元より八ッ場ダム早期完成要望書

●2008年11月27日 朝日新聞群馬版より転載
「八ッ場ダム早期完成へ要望書 地元首長と観光関係者 民主と国交省に」

 八ッ場ダムの地元、川原湯温泉(長野原町)の観光関係者が、民主党の小沢一郎代表と国土交通省の金子一義大臣らにダムの早期完成を求める要望書を送ったことがわかった。吾妻郡町村会と同町村議長会も要望書を作り、同郡の全7町村長が26日、国交省と民主党議員の元に届けた。
 民主党と国交省あての要望書は、川原湯温泉旅館組合(11軒)と川原湯温泉観光協会(24軒)が作り、25日に送付した。「ダムが中止されれば、住民生活は分断され、コミュニティーは崩壊し、川原湯温泉が滅びてしまうことになりかねない」「これ以上建設が長引けば、住民が住み続けたいと思えるような地域の再生は到底できなくなる」-などと訴える内容だ。
 同ダムの建設に反対する鳩山由紀夫幹事長ら民主党関係者や市民団体が8月に現地を視察し、中止を公約にすると表明したことなどについては「住民が不安を感じるような活動だ」と不信感を表明。そのうえで「あまりにも軽率、浅はかと思われる討議がなされ、地元の意向もよく考慮せず、反対の意をとなえている方々がいる。そういう方々に地元の意向を伝えなければと思った」と記した。
 旅館組合組合長の豊田明美さん(43)も「民主党などの主張は住民目線でない机上の空論だ」と手厳しい。
 衆議院議員会館に民主党議員を訪ねた吾妻郡の7町村長は「一刻も早いダム事業の完了と地元の生活再建のために特段の配慮をしてほしい」とつづった小沢代表あての要望書を手渡した。

●2008年11月27日 読売新聞群馬版より転載
八ッ場ダム推進要望書 住民「後戻りできぬ」

ニュース断面
 八ッ場ダム建設で全域が水没する長野原町の川原湯温泉。その住民でつくる2団体が、ダム建設に反対する民主党に送った「早期完成」を要望する文書は、次期衆院選での「政治決着」を控え、頂点に達した住民の危機感と疲弊感を表している。(田島大志)

■ほん弄半世紀

老朽化が進む施設での営業が続く川原湯温泉街。各所の案内板には「改良中」のステッカーが張られている(11月14日) 「船は出た。もう、戻れない」――。今月中旬、要望書の文案を書いた旅館「高田屋」社長で川原湯温泉旅館組合長の豊田明美さん(43)を訪ねた。豊田さんは、ダムに関する歴史を航海に例えて自身の思いを語り始めた。

 ダムの計画が浮上したのは1952年。以来、水没住民の激しい反対運動が続いたが、85年に県などが示した生活再建案をのむ形で県と町が覚書を結んだことを機に、事業は前進を始める。

 住民の「航海」もそこから始まった。工期は2度にわたり延長され、今は2015年度完成予定。その間、旅館の改修もできないまま時が流れた。川原湯地区の世帯数は98年からの10年で183世帯から、53世帯になった。旅館も18軒から7軒にまで減った。

 「私たちの港は、ずたずたに壊れていて戻れない。今は新しい島に向かうしかないんです」。豊田さんは、代替地での新生活への期待を文書に込めた。そう表明したのは、航海が大波を受けているためだ。

■シンボル的存在

 ここ1、2年、大型公共事業への批判が起こり、八ッ場ダムはそのシンボル的な存在に。賛否の論議がかつてはタブー視された県議会でも論議され、国会では民主党が質問などで再三取り上げた。同党の鳩山由紀夫幹事長は8月、現地を訪れ、反対の意向を表明した。

川原湯温泉近くにあり、八ッ場ダムのダムサイトが建設される吾妻渓谷。本体工事着手に向け、準備工事が行われている(11月8日) こうした報道に豊田さんたち住民は、自分たちの立場が理解されていないと感じていた。〈50年以上、「推進」と言い続けた国が、手のひらを返すのではないか〉。次期衆院選が迫り、民主党の政権奪取の可能性が現実味を増す中、不安と動揺が、要望書作成に向け住民の背中を押した。

 同党は先月作成した政策集で、「八ッ場ダム中止」に添えて、水没住民の感情にも配慮し、「生活再建の継続」を盛り込んだ。それでも住民が不安を募らせるのは、「中止後」の具体的なイメージが描けないからだ。

 事業中止後に、住居などの個人資産を補償するには新たな立法措置が必要とされているが、同党内の議論は進んでいない。今回の要望書でも「住民の生活再建案を提示し、何度もひざを突き合わせて会議を繰り返し、法制化という後ろ盾を整えた上で『中止』を訴えるのが順序」と訴えている。

 11月4日に川原湯を訪れた反対派と住民との間では、小競り合いも起きた。住民の緊張感はかつてない域に達している。

■次のステージ

 「私たちは、過去の経緯や苦悩をすべて超越し、もう次のステージに進み始めてしまった。ダム推進の動きを止めてしまえば、旅館営業や日常生活は不可能」とまで記した住民たち。次期衆院選に向けた各党の動向を、かたずを飲んで見守っている。

 反対派は、次期衆院選と来夏の東京都議選を、中止に向けた「最終決戦」と位置づけ、総力を結集する構えだ。

 民主党を中心にした国会議員の活動のほか、県議会でも第2会派・リベラル群馬の議員を中心に見直し論を展開。中心的存在の関口茂樹県議は「衆院選での政治決着しかない。立法措置か特例で住民の生活も守れる」と話す。

 市民団体レベルでは「八ッ場あしたの会」(事務局・前橋市)がシンポジウムを相次いで開催するなど、主に首都圏で不要論と生活再建の必要性を訴えている。

 本体着工が予定されている来年は、1都5県で起こされている公金支出差し止めを求める住民訴訟の一部で判決が見込まれており、ダム建設の行く末を大きく左右する年になりそうだ。