「八ッ場ダム住民訴訟が山場」(朝日新聞)

2008年12月18日 朝日新聞社会面より転載
「もっと知りたい! 八ッ場ダム住民訴訟が山場 提訴4年 6地裁で結審へ」

 国土交通省が利根川上流の群馬県長野原町に計画する八ッ場ダムをめぐり、首都圏の1都5県を相手に建設負担金の支出差し止めなどを求めた住民訴訟が山場を迎えている。一斉提訴から足かけ4年。東京地裁は11月25日に結審し、ほかの5地裁も年明け以降に結審する見通し。判決次第では来年度にも本体工事に入る計画に影響しそうだ。(大井穣、菅野雄介)

 「将来にわたって必要のないダムを造らせるな!」
 11月30日、東京・新宿の日本青年館に掛け声が響いた。
「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」が開いた、住民訴訟の報告集会。東京、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬の1都5県で一斉に提訴してから4年になるのを機に原告住民ら約250人が集まった。長野県知事時代に「脱ダム」を掲げた田中康夫参院議員も講演した。

 建設に反対するのはなぜか。原告側は、①首都圏は「水余りの状態」で新たな水源は不要 ②既存のダムや堤防で洪水は防げる ③現地は軟弱地盤でダム建設は危険ーといった点を主に問題視し、各地裁で主張してきた。
「6地裁の一部でも勝訴できれば建設は止められる」。原告側は、公共事業をめぐる住民訴訟としては異例の広域訴訟をこう位置づける。

 法廷では特に「水余り」か否かが争点になった。
 東京都の場合、水道水の7割を利根川に頼り、残りは多摩川や地下水で確保している。原告側は「都が保有している水源は1日あたりの配水量ベースで701万㌧あり、配水実績を200万㌧以上も上回っている」と主張。一方、被告の都は「将来にわたって安定して取水できる水源は正味536万㌧に過ぎない。八ッ場ダムの水利権を得て計600万㌧は確保する必要がある」と反論する。
 数字に日量160万㌧以上もの隔たりがある要因は、水源への評価の違いだ。特に、多摩地区を中心に現在も日量約40万㌧を利用している地下水について、都は水質汚染や地盤沈下を理由に、いずれ取水をやめることにしている点が大きい。
 
 洪水を防ぐ治水の観点でも両者の言い分は食い違う。
 もともと、この計画は1947(昭和22)年のカスリーン台風に端を発する。1都5県で死者1100人を記録した。旧建設省は、カスリーン級の台風の再来に備え、利根川水系の治水強化を検討。その一環として52年にダム計画が持ち上がった。
 こうした治水計画をよりどころに被告側は「建設は必要不可欠だ」と訴える。しかし、原告側は「仮に国の治水計画を達成するなら、八ッ場以外に十数基のダムが必要になる」と反論する。

 ダム建設をめぐっては、川辺川(熊本県)や大戸川(滋賀県)の関係府県の知事が事業の中止を求めて、反対派に追い風が吹いている。しかし、1都5県の知事の中にそうした動きは出ていない。
 八ッ場ダム訴訟の原告は189人を数えるが、予定地で生まれ育った住民はいない。むしろ、地元住民は訴訟に複雑な思いを抱いている。
 「おれまで反対派だと思われる、迷惑だ!」
 前橋訴訟の一環で裁判官3人が現地を視察した11月4日、JR川原湯温泉駅前。水没予定地で食堂を営む男性(54)は、建設反対の横断幕を広げていた原告側の支援者らに抗議した。
 男性は目を潤ませながら心情を語る。「受け入れで地元はやっと一致しつつある。移住を望みはしないが、移住と引き換えに受け取る補償費がなければ生活の再建はままならない。地元が苦しみ続けて出した結論に水を差してほしくなかった・・・・」