「八ッ場ダム訴訟 原告勝訴なら工事に影響も」(上毛新聞)

2009年5月4日 上毛新聞一面トップニュースより転載
「八ッ場ダム訴訟 原告勝訴なら工事に影響も 11日、初の司法判断 東京地裁」
 
 国が長野原町で進めている八ッ場ダム建設事業に本県など六都県が負担金を支出するのは違法として、建設反対派の市民グループが支出の差し止めなどを求めた六つの住民訴訟のうち、東京地裁の判決が一週間後の十一日に迫った。国は十月にも本体工事に着手するとしているが、原告はダムの必要性そのものを問題視しており、訴えが認められれば事業への影響は避けられない。民主党は次期衆院選のマニフェストに八ッ場ダム建設凍結を盛り込む方針。全国各地で脱ダムの動きが広がる中、六訴訟で初となる司法判断の行方に関係者が注目している。

◇訴訟 前橋地裁では来月26日判決
 住民訴訟は二〇〇四年十一月、「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」(嶋津暉之代表)が群馬、埼玉、東京、千葉、茨城、栃木の六都県の知事らを相手に六地裁で始めた。六都県が同ダム建設のため、それぞれ負担する十億~九百五十二億円の支出差し止めを求めている。
 東京地裁の負担金は八百七十億円で、訴訟は都民ら約四十人が石原慎太郎知事らを相手に起こした。東京のほか群馬、茨城の訴訟もすでに結審し、前橋地裁では六月二十六日に判決言い渡しが予定されている。

◇論点 建設根拠と数値データ
 原告側は国が同ダム建設の根拠とする大洪水時の際の最大流量や都の水需要予測などに記された数値データを「過大な想定」と指摘。正しい数値を使えば治水、利水の両面で同ダム建設の必要はないと主張。「不必要なダムに巨額の負担金を支出することは違法」と訴える。
 これに対し、被告側は同ダム建設は国の計画で、都には法律に基づく国の負担金の納付命令を是正する権限がないことなどから「原告側の訴えは住民訴訟の範囲を超えた無効なもの」と却下や棄却を求めている。数値データも合理的な方法で算出されており、同ダムは治水、利水の両面で効果も必要性もあると反論している。

◇本県関係者 「中止に傾く」「早く完成を」
 本県の関係者も反対、推進それぞれの立場から初の判決に関心を寄せる。本県での訴訟の原告「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」の鈴木庸事務局長は「訴えが認められれば次期衆院選にも影響し、(中止の方向に)流れが傾く」と期待する。
 同ダム建設を問題視する「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」の関口茂樹・代表世話人も「利水、治水のどちらでも原告の主張が認められれば、八ッ場ダムの必要性は根本から問われることになる」と分析する。
 一方、地元の長野原町では、激しい反対闘争などを経て同ダム建設を受け入れただけに「一日も早く完成を」との思いが強く、裁判には複雑な心境だ。高山欣也町長は裁判について「やっと地元の生活再建が始まりつつあるのに」『今更何事か』という思いだ。原告側の訴えが認められるとは考えていない」と言い切る。
 八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会の萩原昭朗委員長も「”違法”という判決が出るとは思っていない。地元住民は一日も早くダムが完成し、新しい場所で安心して生活することを願っている」と語った。

◇東京地裁八ッ場ダム住民訴訟の主な争点

【原告(八ッ場ダムをストップさせる東京の会)側主張】
○基本的な主張ー都が受ける顕著な利益はなく、国の負担要請を拒否しないのは「最小の経費で最大の効果を挙げる」ことを求めた地方自治法に抵触する。
○治水上の必要性ー必要性の根拠としたカスリーン台風(1947年)時の利根川(伊勢崎市)の最大流量の推計値、毎秒2万2000立方メートルは過大で、1万7000立方メートルを超えることはない。
○利水上の必要性ーすでに都は十分な水源を確保している上、水需要は減少している。都の水需要予測は過大。
○ダム周辺の安全性ー周辺の岩盤・地質はダム建設に適さない。地すべりの危険も増す。
○環境への影響ー周辺の貴重な自然景観や生物の多様性が失われる。環境影響調査は不十分。

【被告(東京都知事など)側主張】
○基本的な主張ー原告の訴えは住民訴訟の形を借りて国のダム建設の差し止めを意図するもの。地方公共団体の適正な財務会計処理の保障を目的とした住民訴訟制度の目的を逸脱する。
○治水上の必要性ー2万2000立方メートルは将来の200年に一度の大洪水を防止軽減することを前提としたもので、原告が主張する最大流量とは算出条件も手法も異なる。
○利水上の必要性ー水需要予測は合理的な手法で実施。10年に1度の渇水時には水が不足する可能性がある。
○ダム周辺の安全性ー工事は地質調査に基づき、学識者の技術委員会にも諮って実施。地すべり対策も行う。
○環境への影響ー考慮すべき要素だが、都がダムから受ける利益に影響するものではなく、争点にならない。