東京地裁判決の記事

 2009年5月12日
 昨日、八ッ場ダム住民訴訟の初の判決が東京地裁でありました。
 八ッ場ダムというきわめて重い問題について、司法がどのような判断を下すかが注目されてきましたが、結果は原告敗訴。判決内容は、行政の主張を最大限に認めるものでした。
 新聞各紙は関係者の様々な声を載せ、司法の壁の厚さに言及しています。

 それにしても、「受益者」とされる下流首都圏の住民がダムの不要性を訴え、ダムにより最も大きな犠牲を蒙り、故郷を追われようとしている地元住民のみがダムを切望しているとされる八ッ場ダム計画とは、一体なんなのでしょう? 
 いずれの住民も、国家権力による巨大事業の前ではあまりにも非力です。行政が作り出してきた架空の「対立の構図」は、昔も今もピープルズパワーを押さえこんでいるかに見えますが、「公共」とは名ばかりのダム計画の矛盾は膨らむ一方です。

 判決を伝える主な記事を転載します。

◆2009年05月12日 東京新聞より転載
八ッ場ダム訴訟で原告敗訴
 国の八ッ場ダム計画(群馬県長野原町)への負担金支出の差し止めなどを求めて、首都圏一都五県で一斉に起こされた住民訴訟。東京地裁で十一日、初めて下された判決は事実上の「門前払い」だった。原告住民らは控訴して今後も争う姿勢を示す一方、「司法で止められないなら、政冶で」と焦りも強くにじませた。(関口克己)

 「本件訴えのうち、以下の部分をいずれも却下する」―。
 東京地裁一〇三号法廷に、判決文を代読した八木一洋裁判官の声が響くと、原告や支援者約九十人でびっしり埋まった傍聴席からは「エッー」という叫び声が響いた。原告の訴えが門前払いになった瞬間だった。
 五分ほどの判決言い渡し中、傍聴席は静まりかえったまま。しかし、閉廷後は、「不当判決だ」「都民に不当な支出を背負わすのか」と怨嵯の声が響き渡った。

 その後、原告らは地裁隣接の弁護士会館で報告集会。判決について「行政にフリーハンドを与えすぎている」などと批判が相次いだ。
 冶水(洪水対策)について、国や都はカスリーン台風(一九四七年)をモデルに二百年に一度の洪水時で利根川中流部の群馬県伊勢崎市八斗島町で毎秒二万二千㌧の流量を想定、このうち五千五百㌧をカットするため八ッ場ダムが必要と主張する。
 しかし、原告はカスリーン台風時と同じ雨の降り方をした場合、八斗島の流量は一万六千七百五十㌧と国が試算していることを挙げ、「国の想定は過大」と主張した。

 判決は原告の主張を一蹴。「(原告側は)八斗島上流部のすべてを調査したものでは(ない)」として、「洪水流量を増加させることはないことを認めるに足りる証拠はない」と指摘。「想定は過大」とする原告の訴えを「理由がない」と退けた。

 原告団の深沢洋子代表は「こんな判決がまかり通るなら、行政は何をしてもいいことになる、裁判所はいらない」と声を荒らげ、弁護団も「偏った判決であるからこそ、控訴審では(被告の東京都側の)主張は脆弱になる」と怪気炎を上げた。
 だが、原告らが司法の壁の厚さを思い知らされたのも確か。八ッ場ダム計画について、初めて下された司法判断は軽視できない。
 
  「司法ダメなら政治で闘う」
 それだけに、出席者からは「七月の都議選や次期衆院選で『八ッ場NO』を訴える勢力を勝利させよう」と、闘いの軸足を司法から政冶へと移す必要性も指摘された。
 だが、この集会の直後にくしくも、八ッ場ダム中止を掲げる民主党の小沢一郎代表が辞任表明。原告が望む政権交代は決して楽観視できない。

  川辺川を守る会「ダム反対の世論強めて」
 八ッ場ダムと並び「無駄な公共事業の横綱」とされた熊本県の国営川辺川ダム。その中止を訴え続け、昨年九月には蒲島郁夫知事による反対声明につなげた市民団体「川辺川を守る県民の会」の中島康代表は「選挙でダム反対派が勝つかどうかは有権者の判断」と強調した上で、原告らにこうくぎを刺す。
 「選挙に民主党か勝つことを期待するよりも、八ッ場ダム反対の世論をもっと強めることが重要だ」

 
◆2009年05月12日  朝日新聞群馬版より転載
八ツ場ダム「無駄な事業を奨励」原告側反発、控訴へ

 国が計画する八ツ場(や・ん・ば)ダム(長野原町)への公金支出差し止めを求めた住民訴訟で、11日の東京地裁判決は、原告側の訴えを退けた。原告側は「無駄な公共事業を積極的に奨励するもの」と反発、控訴する意向を表明した。ダム計画が持ち上がったのは1952(昭和27)年。今年度中に始まるダムの本体工事を控えた地元は、裁判の行方を複雑な思いで見守っている。

 「でたらめだ」。原告敗訴の判決が言い渡される中、満員の傍聴席から憤りの声が漏れた。曇り空の東京地裁の正門前では、原告弁護団の女性が「不当判決」の旗を掲げた。

 04年11月の提訴以来、22回の審理を重ねてきた。原告側は過大な水需要予測や根拠の薄い国の治水計画、危険なダム予定地の地盤などを立証するため、専門家に証人として再三出廷してもらい、現地調査を繰り返した。

 閉廷後に都内で記者会見した原告側の高橋利明弁護団長は「こっちが示した証拠について、何の検証もしていない。被告側の主張を書き連ねただけの内容だ。怒りしか覚えない」と吐き捨てた。

 八ツ場ダムをめぐる住民訴訟は、今回の東京地裁のほか群馬や埼玉など5県を相手取って5地裁で続いている。会見で、今回の敗訴判決が他地裁へ及ぼす影響を問われた高橋団長は「現実的には、ないとは言えない」。

 一方、被告側の東京都水道局は「まずは妥当な判決。当然の結果だと思っている」とコメント。八ツ場ダムの事業主体である国土交通省は「利根川水系の治水、利水上必要であり、今後とも1都5県と緊密な連携を図って15年度の完成に向けて着実に事業を進めていきたい」(事業監理室)とした。今年9月下旬には本体工事の入札を実施する予定だという。

 新緑の山々に囲まれた八ツ場ダムの予定地周辺では、11日も建設工事が続いた。水没予定地の住民が移り住む代替地では、大型トラックやショベルカーなどが並び、宅地の造成が進む。山肌を切り出した付け替え道路には、「ガガガガ」という重機の乾いた音が響いた。

 午後2時半、長野原町役場で高山欣也町長は判決の一報を受けた。「若干心配していたが、ホッとした。ダム建設の推進と住民の生活再建のため、国や関係都県には、引き続き協力をお願いしたい」と述べ、今年度中に着工するダムの本体工事への期待を語った。

 地元住民らの受け止めはさまざまだ。

 「国は期日を守らずに何度も工期を延長してきた。ダム本体を2015年度に完成できるわけがない」。豊田武夫さん(57)は、住民が移転するはずの代替地で宅地造成が遅れる一方で、ダム本体の工事にようやく取りかかろうとする国の姿勢に怒りを覚える。

 ダム建設で地区の大半が水没する川原湯温泉で牛乳販売店を営む豊田さんは「原告が勝とうが負けようが、ダム建設で本当に住民が安全に暮らせるのか。国はしっかりと説明をしてほしい」と注文をつけた。

 温泉街のそばで、かやぶき屋根の郷土料理店を営んできた茂木安定さん(73)は長年にわたってダム建設に反対してきた。だが今年2月1日に閉店。店の敷地にはダム建設に伴い、付け替え道路の橋脚ができる予定で、6月には中之条町に引っ越す予定だ。

 店を構えていた川原湯地区と、川向かいの川原畑(かわら・ばた)地区をあわせ、世帯数は約60。代替地の整備が遅れた影響で住民の町外流出が止まらず、全盛期の約5分の1にまで減った。温泉街から活気が失われ、名物の土鍋飯を求めてやってくる観光客が多かった茂木さんの店でさえ、「階段を下るように、売り上げが落ち込んでいった」。

 常連客には「地元の代替地で営業を続ける」と言い続けてきたが、「代替地に新しく店を構えても、町の将来に明るい展望がない」と苦渋の決断をした。茂木さんは「地元住民はダムの計画に振り回され、反対運動にどれだけ多くの時間を奪われてきたか。町も人もダムに追いつめられてしまっている」と話す。

 篠原学さん(75)は40年近く続けた酒屋を辞め、約5年前に渋川市内に移り住んだ。長野原町内の代替地に移り住むことを希望してきたが、「お客さんがいないところで商売を続けられなかった」。 学さんは地裁判決が出る前日の10日、妻のふくいさん(76)と2人で実家のある六合村に向かう途中、ダムの建設予定地を通りかかった。かつて住み続けることを望んでいた町を車窓に見ながら「複雑な思いがした」と、ふくいさん。判決に対し、学さんは「地元で反対運動があったのに、提訴はあまりにも遅すぎた。今さら計画を後戻りさせることに意味があるとは思えない」と話した。

◆2009年5月12日 毎日新聞群馬版より転載
八ッ場ダム住民訴訟:原告敗訴 「納得がいかない」--東京地裁 /群馬
 
◇建設推進派は歓迎の声
 
 国が長野原町に計画する八ッ場ダムの建設費用を東京都が負担するのは違法として支出差し止めなどを求めた住民訴訟で、東京地裁は11日、原告の主張を全面的に退けた。基本的な主張としていた支出差し止め請求も「門前払い」の却下で、原告にとって厳しい判決となった。建設反対派からは「残念だ」と失望が漏れた一方、建設推進派などからは歓迎の声が聞かれた。

 同様の訴訟は群馬をはじめ埼玉、茨城などダムの受益者負担金を支出する6都県で起こされており、東京地裁が初の司法判断。前橋地裁でも6月26日に判決言い渡しを予定している。各自治体の一つでも支出が止まれば、建設計画全体に影響を与えることになるだけに、関係者が注目していた。

 前橋地裁での原告「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」の浦野稔代表は「住民の主張に全く理解を示さず、判断材料も提示していない。納得のいかない判決だ」と怒りをあらわにした。

 一方、東京地裁の原告団は判決後、東京弁護士会館で集会を開き、群馬、埼玉、千葉、栃木、茨城の5県の原告団の一部も参加した。前橋訴訟の原告の一人、角田凡夫さん(71)=高崎市双葉町=は「結果は前橋訴訟にも影響を与えると思う。しかし、前橋地裁の裁判官は現場を視察している。現場を実際に見た裁判官がどう判断するか、期待したい」と話した。前橋訴訟の嶋田久夫弁護士も「今回の判決は、原告が主張していた自然環境についてほとんど触れていない。前橋訴訟ではダム周辺の吾妻渓谷などの保存を積極的に主張している」と前橋地裁での判決に希望を託した。

 また、ダム建設を疑問視する「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」の関口茂樹代表世話人(群馬県議)は「残念。原告の主張をしっかり受け止めて、判断してほしかった」と述べた。

 一方、早期のダム完成を目指し、今年4月に自民党県議らを中心に発足した「八ッ場ダム推進議連1都5県の会」の萩原渉事務局長(同)は「地元の住民も今回の判決に安心したのでは。一日も早いダム完成のために、頑張っていきたい」と話した。

 地元住民からは裁判闘争に対して冷ややかな声も聞かれる。川原湯温泉観光協会の樋田省三会長は「訴訟は地元住民は蚊帳の外。ようやく将来の展望が開けてきたのに、判決次第ではそれがおびやかされることになる。訴訟関係者はそれを分かっているのか」と訴訟自体を批判。八ッ場ダム水没関係5地区連合対策委員会の萩原昭朗委員長は「地元はもう反対していない。判決内容に安心している。今後も一刻も早い生活再建に向け、努力していきたい」と静かに話した。【杉山順平、鳥井真平】

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 ◇主な争点と東京地裁の判断◇
 (1)ダム建設の公金支出などは違法
 →住民訴訟の対象にならないとして却下
 (2)治水上、都に必要性はない
 →都は治水上の利益を受けることは全くないとは認められない
 (3)すでに都は十分な水源を確保している
 →都の行った水道需要予測と水源評価に不合理な点は無い
 (4)ダム周辺の地質などは建設に適さない。地滑りの危険性も伴う
 →ダム事業が危険な事業であると認めるに足る証拠はない
 (5)ダム周辺の貴重な自然環境が失われる
 →建設事業は都の事務でなく環境保護法令に反するか検討するまでもない
 ※(2)~(5)は棄却