八ッ場ダム前橋訴訟 住民側敗訴

2009年6月27日

 昨日、前橋地方裁判所において、八ッ場ダム住民訴訟の判決がありました。
判決の要旨は、八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会のサイトにアップされています。↓
http://www.yamba.sakura.ne.jp/shiryo/gunma/gunma_maebashi_hanketsu_youshi.pdf

◆2009年6月27日 朝日新聞群馬版より転載
ー八ッ場ダム前橋訴訟 住民側敗訴 地裁「県の裁量範囲」 原告側、控訴の方針ー
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000000906270002

国が長野原町で計画中の八ツ場ダムに、県が建設費負担金を支出するのは違法だとして、市民団体が知事らに支出差し止めなどを求めた住民訴訟で、前橋地裁(松丸伸一郎裁判長)は26日、「行政の裁量の範囲だ」として原告側の主張を退ける判決を言い渡した。同様の訴えは関東の他の5都県でも起きているが、東京訴訟の判決と同じ結論だった。原告側は控訴する方針。

 前橋訴訟は、将来の水需要▽治水上の必要性▽建設予定地の地盤▽地滑りの危険性――などの観点から、負担金の支出が適当だったかが争われてきた。

 判決は、市民団体の主張に理解は示したが、いずれの争点についても「県側の判断は合理的で違法性はない」と断定した。

 例えば水需要。市民団体は県の1日の最大給水量は、97年度の111万トンを境に06年度は93万トンにまで落ち込んでいると指摘。新たな水源は不要だと訴えてきた。

 判決は「水需要の減少傾向がうかがえる」と原告側の主張に同意したが、「水源確保が必要との県の主張は裁量の範囲を逸脱していない」と結論づけた。「都の水需要予測に不合理な点はない」と認定した東京訴訟と同じだった。

 治水上の必要性については、東京訴訟が「八ツ場ダムの治水効果が乏しいとはいえない」として必要性を肯定したのと同じく、前橋訴訟でも「吾妻川流域で唯一の洪水調整ダムとして、群馬県を含めて下流域での水害防止には必要だ」と断じた。

 建設予定地の地盤については、「地盤が脆弱(ぜい・じゃく)だと認められない」、地滑りの恐れについても「国は地滑りが発生する可能性の高い場所への対策を講じている」として県の違法性を認めなかった。

 八ツ場ダムは1952年に計画された。首都圏の将来の水源確保と洪水調整などが目的。総事業費は4600億円(群馬県負担は216億円)で、今年3月末までに3215億円を使った。本体工事は今年秋に着工予定で、2015年度に完成予定。
前橋訴訟の判決について、大沢正明知事は「八ツ場ダムの必要性を認めた妥当な判決だ」と記者団に話した。

 国土交通省も「群馬県にとって治水、利水の上でダムが必要だと認められたと考えている。15年度の完成に向けて着実に事業を進めていきたい」としている。

 一方で、原告側の市民団体「八ツ場ダムをストップさせる群馬の会」は閉廷後、前橋市内で記者会見し、判決を不満として控訴する意向を明らかにした。

 高橋利明弁護士は「前橋での判決は、東京訴訟の判決の焼き直しというかコピーというか。何とも残念だ」「各争点について検討した結果を丁寧に説明してはいるが、結局はダムありきで判決が構成されている」とまくし立てた。同席した広田次男弁護士も「判決は到底納得できない」と言った。

 八ツ場ダムをめぐる訴訟は04年11月、「八ツ場ダムをストップさせる市民連絡会」が、関東6都県で一斉に訴えを起こした。今月30日には茨城が、12月22日には千葉がそれぞれ判決を迎える。「いずれか一カ所の地裁でも勝訴できれば、ダム建設は止められる」としている。

 熱を帯びた市民団体とは正反対に、ダムの建設予定地の住民の反応は冷たい。

 川原湯温泉観光協会長の樋田省三さん(44)は判決を聞いても、「(仮に原告勝訴でも)すぐ地元住民に影響がある話ではないので、何と言っていいのか分からないけど関心がない」と冷めた口ぶり。

 川原湯温泉で飲食店を経営する男性(55)は「控訴するなんて迷惑。やっと地元は生活再建の方向で建設を受け入れたのに、建設が止まったら、またおれたちは見捨てられるのか」と漏らした。

不要性の立証責任 住民側に課すは酷 五十嵐敬喜・法政大教授(公共事業論)の話
 行政権の裁量の範囲を過分に認めた判決。将来的な水の需要や洪水の発生具合は正確に算出できず、住民側に不要性の立証責任を課すのは酷だ。なぜ必要かを立証すべきなのは行政側ではないか。
 ダム事業はあまりにも時間がかかりすぎ、地元住民は「いまさらやめても困る」と言っているのは悲劇だ。既成事実の積み重ねで、今さら止めてもしょうがないという心証を裁判官に与えてしまっているかもしれない。八ッ場ダムが不要の長物になることはほぼ確実だが、裁判官はどう責任を取るのか。

◆2009年6月27日 東京新聞群馬版朝刊より転載
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20090627/CK2009062702000122.html
ー八ッ場ダム訴訟 地元でも原告敗訴 「当然の結果」/「納得できぬ」 判決に複雑な反応

 地元裁判所の結論も「必要」だった-。国の八ッ場(やんば)ダム(長野原町)建設事業の是非をめぐる訴訟は、五月の東京地裁に続き、前橋地裁も原告敗訴の判決を下した。被告の県やダム建設を受け入れた予定地の住民は“連勝”を「当然の結果」と冷静に受け止めた一方、原告側は「残念だが、一部の主張には理解を示してくれた」と不満と評価が入り交じる複雑な反応を見せた。 (山岸隆、中根政人、加藤益丈、神野光伸、菅原洋)

 「東京地裁は木で鼻をくくった印象の判決だった。前橋地裁は個別の論点で丁寧に判断してくれた。人間味を感じた」

 判決後に地裁近くの群馬弁護士会館であった原告・弁護団の会見。訴えそのものは全面的に退けられたことから全体弁護団長の高橋利明弁護士は「法的評価は変わらない」と厳しい表情を崩さなかったが、一歩前進という手応えをにじませた。

 前橋地裁判決は、県の水需要は減少傾向にあり、ダムを建設せずに水を供給することが「おおむね可能との見解にも理由がある」と指摘し、原告の主張に寄り添った。しかし、八ッ場ダムの水源確保が必要とする県の主張は「著しく合理性を欠くとは言えず違法ではない」と結論付けた。

 原告の一人で「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」の浦野稔代表は「不要で危険で無駄な公共事業だと立証してきたが、司法は行政の主張を認め、住民の主張を認めない。到底納得できない」と怒りの声を上げた。

  ■   ■

 これに対し、激しい反対闘争の末に集落ごとダム湖畔へ移転する生活再建案を受け入れた地元住民は一様に安心した様子。長野原町の高山欣也町長は「予想通りの判決。一日も早い住民の生活再建に向け全力で取り組みたい」と語った。

 ダムで水没する川原湯温泉街も周辺の代替地に移転する。同温泉旅館組合の豊田明美組合長は「ほっとした。妥当な判決だ」と評価。八ッ場ダム水没関係五地区連合対策委員会の萩原昭朗委員長も「当然の結果で喜んでいる。一番の心配は(八ッ場ダム建設中止を訴える)民主党が政権を取った場合。これ以上、地元を混乱させないでほしい」と訴えた。

 また、大沢正明知事は「妥当な判決。ダムの必要性が認められ、評価している。この問題で地元の人々が長い間苦しんできた。一日も早く完成させ、地域の生活再建にしっかりと取り組みたい」と語った。

【解説】
 国が進める八ッ場ダム建設事業の是非が争点となった訴訟。原告の訴えを完全に退けた五月の東京地裁判決に続き、前橋地裁も県の建設負担金支出を認める判決を出したことで、ダム建設を支持する司法の姿勢が一層鮮明になったといえる。
 訴訟で原告は「国がダム建設の根拠としている水害や水需要の予測には現実性がない」と強く批判してきた。判決は「原告の主張は、建設計画の誤りや違法性につながる理由とはならない」としたものの、ダム建設の正当性を積極的に認める根拠は示さなかった。
 八ッ場ダムは、無駄な公共事業の一つとしてやり玉に挙げられてきた一方で、地元が長年の反対闘争の末に建設を受け入れた歴史的経緯もある。水没予定地区の住民の移転計画も並行して進む中、無責任な議論はすでに許されない段階にある。
 判決は、八ッ場ダムが抱えるこうした複雑な事情にも触れておらず、ダム建設への疑問を完全に解消した内容とは言い難い。計画では、ダムの完成まであと六年。国や県には、ダム建設の正当性を証明するための客観的な情報を示す責任がある。(中根政人)

◆2009年6月27日 讀賣新聞群馬版より転載
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20090626-OYT8T01158.htm
ーダムの必要性 認定 八ッ場ダム訴訟 原告敗訴 「東京判決の焼き直し」 控訴の方針 抗議声明を発表ー

国土交通省が長野原町で進める八ッ場ダム建設事業への県の負担金支出について、市民団体のメンバーら19人が前橋地裁に支出差し止めなどを求めていた住民訴訟は、26日、原告の訴えを退ける判決が下された。利水・治水の両面でダム建設は不要として6都県で同時に起こされた住民訴訟は、5月の東京地裁判決に続き、原告の全面敗訴となった。原告は「不当判決」として控訴する方針を明らかにしたが、計画浮上から半世紀以上の月日が経過し、早期推進を求める地元住民からは安堵(あんど)の声が聞かれた。

 5年近くにわたった裁判で、原告側は、ダムが利水、治水両面で不要な上、ダムサイト予定地の岩盤が脆弱(ぜいじゃく)な恐れや、周辺の地滑りの可能性などから安全上の問題もあると主張してきた。

 特に利水面では、県が県全体の長期的な水需要計画を策定していないにもかかわらず、ダムに参画することを違法と主張した。判決では、「県における全体的な水需要予測が不要とは言えない」「現時点で水需要が減少傾向にあり、新たにダムを建設せずに必要な水を供給することは可能との見解にも理由があるとは思われる」などと原告の主張にも一定の理解を示したものの、県が企業誘致を重要方針としていて工業団地への新たな配水が見込まれることや、地下水から川の水への水源の転換が必要であること、渇水に慎重に備える必要があることなどについて県の主張を認め、「ダムによる水源確保が必要とする県の主張は違法ということはできない」と結論付けた。

 また、治水面で判決は、洪水予測が過大などとした原告の主張を、「県として起こり得る大規模洪水に万全の備えをするという判断を、著しく不合理で違法とは言えない」と退け、安全性については、原告の主張は「せいぜいあり得る危険性を指摘するにとどまる」とした。

 判決を受け、原告の市民団体「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」のメンバーや弁護団は前橋市内で記者会見し、控訴する方針を明らかにするとともに、「判決は無駄な公共事業を積極的に奨励するものにほかならない」との抗議声明を発表した。

 弁護団の高橋利明弁護士は、「東京地裁判決の焼き直しと思えるほど表現が酷似していた。地盤や地滑りの危険性は若干丁寧に説明されていたが、基本的に東京判決と構造は同じ」と批判。6都県で訴訟を起こした市民団体連絡会の島津暉之代表は、「残念な結果」としつつ、判決が利水面でダムが不要との見解を一定評価したことを挙げ、「我々の主張も一定程度認めざるを得なかったということだ」と述べた。

知事「妥当な判決」 判決を受けて大沢知事は記者会見で、「ダムの必要性が認められた妥当な判決。1日も早いダム完成と地域の生活再建に向けてしっかりと取り組んでいきたい」と述べた。

 八ッ場ダムの事業費は4600億円で、このうち利水や治水で恩恵を受ける1都5県が10~952億円を負担、群馬県は約216億円を負担することになっている。

 地元長野原町では関係者から安堵の声が聞こえた。

 高山欣也町長は「ほっとしている。すでに東京地裁の判決もあり、予想通りの結果だが、地元での判決だけに重みがある」と語った。町内では人口流出が進んでおり、「ダムを造らないと町はもう立ち行かない。国には早く事業を進めてもらいたい」とした。

 水没地区にある川原湯温泉街でも、ダム事業による生活再建を待ち望む声は大きい。樋田洋二・川原湯地区ダム対策委員長(62)は、「負担金を差し止められれば、我々は生活できなくなる。判決は当然の結果だ」と喜んだ。水没地区住民の代替地への移転も始まっており、「長い年月を経て、新生活がようやく現実になりつつある。ここでダムを止めるなんて論外」と反対運動への反発も漏らした。

紙面には「ダム訴訟判決の要旨」あり。

◆2009年6月27日 毎日新聞群馬版朝刊より転載
ー八ッ場ダム「水害防止、適法な事業」 地裁判決 支出差し止め認めず 「不当判決」原告ら抗議 推進派「地元生活再建図りたいー
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20090627ddlk10040214000c.html

国が長野原町に計画を進める八ッ場(やんば)ダムについて、利水・治水上の必要性がないのに建設事業負担金を県が支出するのは違法として、市民団体が大澤正明知事らに支出差し止めなどを求めた住民訴訟の判決で、前橋地裁(松丸伸一郎裁判長)は26日、「水害防止のためにダムの必要性を肯定することができ、(ダム建設は)適法な事業と認められる」として原告の請求を全面的に退けた。

 同様の訴訟は利根川流域の6都県で起こされており、前橋地裁判決は、東京地裁が5月に市民団体の訴えを退けた判決に続き2例目。原告側は近く東京高裁に控訴する方針。

 原告は「八ッ場ダムをストップさせる群馬の会」(浦野稔代表)の会員19人。治水上、利根川流域の各県にダムの必要性はない▽すでに各県は十分な水源を確保している▽ダム周辺の地質などは建設に適さず、地滑りの危険性を伴う▽ダム周辺の吾妻渓谷などの貴重な自然環境が失われる--などと主張していた。支出差し止めに加え、03~08年度の負担金のうち約51億円の返還を求めていた。

 一方、県側は「近年の少雨化を考慮した水需給バランスから、ダムは水源確保に必要不可欠」とし、危険性についても「国交省が精度の高い調査を実施しており、これを基にさらに検討を行っている。安全性は確保できていて問題ない」などと反論していた。【鳥井真平】=一部地域既報

 ◇「不当判決」原告ら抗議 推進派「地元生活再建図りたい」
 「不当判決」。法廷を飛び出した原告らは、地裁前で垂れ幕を掲げ、判決に抗議した。

 八ッ場ダムをストップさせる群馬の会は裁判後、前橋市内で記者会見。浦野代表は「行政側の主張ばかり認められてしまった」と無念さをのぞかせながらも「裁判は続く。(6都県の訴訟の)1カ所でも公金支出を差し止められれば、ダム建設は止まる」と語った。

 太田市から支援に駆け付けた教員、川口正昭さん(49)は「八ッ場ダムは民主党がストップを(県版マニフェストで)公約に挙げている。次の衆院選の結果次第で流れは変わる」と期待をつないだ。

 ダム建設を疑問視する「八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会」の関口茂樹代表世話人(群馬県議)は「遺憾な判決。八ッ場について裁判で論議を尽くしたが、認められなかった」と話した。

 一方、推進派は判決を歓迎。大澤知事は「八ッ場ダムの必要性が認められ評価している。長い間、地元の人が苦しんでいる。一日も早い完成を願うとともに、地元の生活再建にしっかりと取り組んでいきたい」と語った。裁判を傍聴した「八ッ場ダム推進議連1都5県の会」の幹事長を務める中沢丈一氏(同)も「妥当な判決。治水・利水の面でも適切に判断してもらった」。同会の萩原渉事務局長(同)は「ダムの早期完成を目指し、地元住民の一刻も早い生活再建を図りたい」と話した。

 地元住民の思いは複雑だ。地区全体がダムに沈む川原湯温泉観光協会の樋田省三会長は「住民は誰一人ダム建設に反対していない。地元ではなく周りの人間だけが騒いで迷惑」と訴訟自体を批判。八ッ場ダム水没関係5地区連合対策委員会の萩原昭朗委員長は「八ッ場のことは地元に任せてほしい。原告は訴訟より、地元住民の早期生活再建に力を貸してほしい」と話した。【杉山順平、奥山はるな、喜屋武真之介】

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 ■解説

 ◇連敗も政局動向にも注目
 前橋地裁判決は「群馬県を含め、利根川流域で生じる水害防止のために必要性を肯定できる適法な事業」と、ダム建設の必要性に言及した。原告側は「敗訴となった東京地裁判決のコピーだ」と批判したが、2回続けて原告側が「完敗」する内容となった。

 松丸裁判長は治水上の観点から「将来起こりうる大規模な洪水に、県として万全な備えをするという判断は妥当」と指摘、「利根川上流、特に吾妻川流域で大規模な降雨があった場合、唯一の洪水調節機能を有するダムとして必要」とした。

 原告側は、利水面からもダムは不必要と主張したが、判決は「県が水道事業を安定かつ適正に運営するよう努力する義務を負っていることは明らかで、ダムを必要とする県の主張は違法であるといえない」とした。

 原告の主張は「治水」と「利水」の2本柱を退けられ、「地質が建設に適さず危険」など、その他の主張も「的確な証拠がない」などとされた。

 同様の住民訴訟は今後、水戸地裁などで相次ぎ判決を迎える。八ッ場ダムを巡っては、民主党の鳩山由紀夫代表が昨年8月、現地視察の際に「無駄な事業」と批判、次期衆院選で争点化する可能性もある。裁判の結果とあわせ政局の動向も注目される。【鳥井真平】