八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム事業中止後の費用負担に関する公開質問書

2009年7月10日
 八ッ場あしたの会と八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会では、昨日7月9日、八ッ場ダム事業中止後の費用負担に関する公開質問書を国土交通省関東地方整備局の金尾憲司河川部長宛に提出しました。これは7月7日の新聞で報道された金尾憲司河川部長による発言の内容を確認するために提出したものです。

 金尾河川部長の発言についての新聞報道は、こちらに転載しています。↓
 https://yamba-net.org/wp/modules/news/article.php?storyid=832
 2009年7月9日
 国土交通省関東地方整備局  河川部長 金尾 健司 様
             
        八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑ほか 
        八ッ場ダムを考える1都5県議会議員の会 代表世話人 関口茂樹

      八ッ場ダム事業中止後の費用負担に関する公開質問書

 昨日の報道によれば、金尾部長が、八ッ場ダム事業費のうち、「1460億円は5都県などが負担しており、事業を中止した場合、特定多目的ダム法の規定によって全額を還付する必要がある」と発言したとされています。しかし、特定多目的ダム法および施行令を読む限りではそのようなことが書いてある条項が見当たりません。
つきましては、どのようなケースを想定して、どのような根拠に基づいて発言されたのかをお聞きしたいと思いますので、下記の質問にお答えくださるよう、お願いいたします。
 今回の発言は今後の八ッ場ダム問題を考える上で非常に重要な事柄ですので、真摯にお答えください。
 ご回答を7月17日(金)までにお送りくださるようお願いします。

1 一般にダム事業が中止される場合、治水面および利水面の必要の度合いを考慮して中止の判断がされていますが、今回の発言で想定したケースはそのような中止ではないのでしょうか。

2 今回の発言は特定多目的ダム法および施行令のどの条項に基づくものなのかを詳しく説明してください。

3 聞くところによれば、ダム事業者の判断のみでダムを中止する場合は、特ダム法施行令14条2項の1が該当すると解釈したからだとのことですが、特定多目的ダム法第4条4項では、国土交通大臣がダムの基本計画を廃止しようとするときは、計画変更の際と同様、関係行政機関の長などに協議することが定められています。ダム事業者の判断のみでダムを中止する場合は特ダム法では想定されておらず、施行令14条2項の1が該当すると言うのは無理があります。特ダム法施行令14条2項は特ダム法第12条に関する規定です。法第12条では「申請が却下され、又は取り下げられたとき」と書かれているのですから、施行令14条2項の2が取り下げられた場合、14条2項の1は申請が却下された場合に当り、ダム事業者の判断のみでダムを中止する場合は別のケースではないでしょうか。
 ダム事業者の判断のみでダムを中止する場合は特ダム法で決めていないことであるのに、拡大解釈をして全額返還が必要だと言っているのではないでしょうか。

4 一般に特定多目的ダム法によるダムが中止される場合、その費用負担は特定多目的ダム法施行令では次のように読むことができます。
同施行令第十四条の二の二で、利水予定者(ダム使用権の設定予定者)は既負担額(A)から、ダム中止で生じる不要支出額(B)を差し引いたものが還付されますが、このBは同施行令第六条の二の2により、ダム中止時の事業費の既支出額(C)から、ダム中止後に治水関係用途に供することができる分(D)を除いた額になります。
したがって、利水予定者への還付額は次のようになります。
A-B =A-(C-D)
このうち、ダムを中止した場合のDは治水関係の調査費用程度ですから、小さな金額です。また、既負担額(A)は事業費の既支出額(C)の一部ですから、A<Cの関係にあります。そうすると、還付額A-Bは確実にマイナスとなります。マイナスの場合は還付されませんので、結局、利水予定者への還付額はゼロとなります。
上記の考え方に何か問題があるでしょうか。

5 実際にダムを中止する場合は利水予定者の合意を得た上で行われますから、上記のとおり、施行令14条2項の2と6条の2の2が適用され、還付額はマイナスになって、ゼロになります。その考え方に問題があるでしょうか。

6 以上のように 一般に特定多目的ダム法によるダムが中止される場合は利水予定者への還付額がゼロとなるにもかかわらず、金尾部長は「事業を中止した場合、特定多目的ダム法の規定によって(利水予定者の既負担額の)全額を還付する必要がある」と発言しました。その発言に間違いはないのでしょうか。

7 今まで特定多目的ダム法のダム事業および、特ダム法と同様の水資源機構法のダム事業においていくつかのダム事業が中止されてきました。その中で、金尾部長の発言のように、利水予定者に既負担額の全額を還付した事例は聞いたことがありません。そのような例があるのでしょうか。

8 たとえば、水資源機構法の戸倉ダムは平成15年度に中止されましたが、利水予定者への既負担額の還付はなかったと聞いています。還付はあったのでしょうか。

9 特定多目的ダム法のダムとしては、熊本県の川辺川ダム、滋賀県の大戸川ダムが中止の方向にあると報じられていますが、この二つのダムについて中止に伴って利水予定者(発電予定者を含む)に既負担額を還付しなければならないということが話題になったことはありません。八ッ場ダム事業に関する金尾部長の発言となぜ違うのでしょうか。

10 金尾部長は約10年前に川辺川ダム工事事務所長の役職にありました。その川辺川ダムに関して中止に伴う既負担額の還付が問題になったことがあるのでしょうか。

                                               以上

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 上記の公開質問書に対して、金尾氏は回答しませんでした。
 金尾氏の発言は、2009年総選挙の政権公約(マニフェスト)に八ッ場ダムの中止を掲げた民主党に対して、「ダムを中止すれば、国費がもっと膨れ上がる」と脅しをかけ、政権交代によって八ッ場ダムが中止されることを阻止するための発言であったと考えられます。

 特定多目的ダム法および施行令では、ダム事業者自らがダムをストップすることは想定されておらず、金尾河川部長の発言はあくまで拡大解釈によるものです。
 これまでに、特ダム法と同様の水資源機構法のダム事業である戸倉ダムが中止されていますが、利水予定者への還付はありませんでした。また、中止される方向にある川辺川ダムや大戸川ダムについても中止に伴う利水予定者等への還付の話は話題になったことがありません。