八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

民主党より埼玉県知事への手紙

2009年8月18日
 昨日、民主党のホームページに、国土交通部門の大河原雅子参院議員が八ッ場ダム問題について埼玉県庁で記者会見を行ったニュースが掲載されました。
「埼玉県・上田知事からの手紙に文書で回答 国土交通部門」

 総選挙のマニフェストに八ッ場ダム中止が掲げられたことについて、埼玉県の上田知事が民主党に見直しを求めた手紙(8月5日付)はこちらにアップされています。↓
https://yamba-net.org/wp/uploads/doc/200908fromUedaToMinshuto.pdf

 上田知事からの手紙に対する回答として大河原議員が上田知事に届けた文書には、八ッ場ダム問題に関する民主党の政策が示されていますので、その全文を転載します。

平成21年8月17日
埼玉県知事 上田清司 様

民主党『次の内閣』次の内閣ネクスト国土交通大臣
長浜 博之
民主党公共事業検討小委員会事務局次長
大河原 雅子

 拝復、常日頃、民主党の政策についてご配慮をいたただき、ありがとうございます。
 今回、民主党のマニフェストに記載した「八ッ場ダム中止」に関して民主党に対してお手紙をいただきましたので、ご返事をさせていただきます。

マニフェストに八ッ場ダム中止を掲げた経緯
 まず、民主党のマニフェストに八ッ場ダム中止を掲げた経緯を説明いたします。
前回の衆議院選でも民主党のマニフェストに八ッ場ダムの中止を掲載しておりますが、今回は八ッ場ダム問題に関する質問主意書を何度も提出して政府答弁書で状況を把握し、それに基づいて八ッ場ダムの必要性と問題点について検証を進めてまいりました。その結果として八ッ場ダムは中止すべき事業と判断して、マニフェストに八ッ場ダムの中止を掲載しました。したがいまして、利水と治水についてご懸念のことはすでに検証が終っておりますので、順次、ご説明いたします。

八ッ場ダム中止で暫定水利権を失うご懸念について
 八ッ場ダムの暫定水利権のほとんどはかんがい用水転用水利権です。これは、かんがい用水を水道または工業用水道に転用した水利権に対し、非かんがい期(冬期)の水利権をいずれ八ッ場ダムで埋めるという前提で許可されたものです。
しかし、利根川では冬期はかんがい用水の取水量が激減し、水利用の面では十分な余裕がありますので、この暫定水利権による冬期の取水は今まで支障をきたしたことがほとんどありません。埼玉県でも古いものは30年以上の取水実績がありますが、今まで取水に何の問題もありませんでした。むしろ、現実に取水が十分に可能であるにもかかわらず、ダムとの絡みで暫定水利権として扱ってきた国土交通省の水利権許可行政が問題なのであると考えます。また、利根川全体の水利権には余裕があることから、利根川全体の合理的な水利権許可行政に改められれば一挙に解決される問題です。

カスリーン台風再来等による氾濫のご懸念について
 カスリーン台風によって利根川流域は大きな被害を受けておりますので、そのような大洪水への備えを十分にしなければならないことは言うまでもありません。しかし、八ッ場ダムは大洪水に対して役に立つダムではありません。
 カスリーン台風の再来に対して八ッ場ダムの治水効果がゼロであることを国土交通省自らが明らかにしています。最近の洪水についても試算してみますと、八ッ場ダムは治水効果が小さく、お手紙にあった平成13年の台風15号洪水の時に八ッ場ダムがあっても利根川の有効な治水対策にはなりませんでした。
 利根川の治水対策として今必要なことは利根川の脆弱な堤防の強化対策をすみやかに進めることです。お手紙にあった加須市などの堤防漏水はまさしく脆弱な堤防が長年放置されていることを意味しています。治水効果が希薄な八ッ場ダムを中止してその河川予算を堤防の強化工事に振り向けることが求められているのです。

八ッ場ダムを中止した場合の国費支出に関するご懸念について
 特定多目的ダム法はダム事業者がダム計画を中止する場合は想定されておらず、八ッ場ダムを中止した後の既負担金の処理の仕方は今後の検討課題でありますので、現時点で結論を出すべきものではありません。
 八ッ場ダム建設事業の事業費は現時点では4,600億円となっていますが、今後、事業費再増額の要因はいくつもあります。貯水池予定地の周辺は地質が非常に悪いため、貯水を始めれば、地すべりが頻発し、その防止対策費が膨れ上がること、関連事業の工事進捗率がまだ非常に低く、完成までにかなりの追加予算が必要となることなどです。
 これらのことも考えると、八ッ場ダムを中止した方が公会計内の支出額がはるかに小さくなるのであって、広い視点から見て無駄な公費の支出をなくすため、一刻も早く八ッ場ダムを中止すべきだと考えております。

 お手紙にあったご懸念についてのご返事は以上ですが、二点を追記させていただきます。

私たちの子孫に大きな負の遺産を残さないために八ッ場ダムの中止を
 マニフェストに八ッ場ダム中止を掲げた理由は、治水利水の両面で必要性が無いこと、巨額の無駄な公費が浪費されることだけではありません。美しい吾妻渓谷の喪失など、自然に大きな影響を与え、貯水池周辺での地すべりの発生などの災害を誘発する危険性が高い八ッ場ダムの建設は進めるべきでありません。私たちの子孫に大きな負の遺産を残さないためにも、八ッ場ダムを直ちに中止することが求められているのです。

八ッ場ダム中止後の地元の生活再建・地域振興の推進
 八ッ場ダム予定地の人たちは何十年という長い間、ダム問題に翻弄され、苦渋の日々を送ってきました。そして、ダム計画に協力すれば、現地での生活を保証するという国の約束が守られなかったために、移転が進んで人口が急減し、地元は地域社会崩壊の危機にさらされています。
 八ッ場ダムを中止した後は地元の生活再建・地域振興をすみやかに進めなければなりません。それは行政の責任で取り組まなければならないことでありますので、民主党としては、「ダム事業の廃止等に伴う特定地域の振興に関する特別措置法案(仮称)骨子案」を作り、法案化に向けての作業を進めております。
 ダム中止後の生活再建・地域振興は戸倉ダムと同様に、下流都県の協力の下に進めるべきでありますので、埼玉県のご理解もお願いしたいと存じます。

 以上長くなりましたが、お手紙へのご返事とさせていただきます。
 英明なる知事におかれましては、以上述べましたことをご理解いただき、八ッ場ダムストップに向けての民主党の方針にご協力くださるよう、切にお願いする次第です。   敬具