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「地元不在、岐路の夏 八ッ場ダム 総選挙で争点」(朝日新聞)

2009年8月24日 朝日新聞群馬版より転載
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000180908240001

ー地元不在、岐路の夏 八ッ場ダム 総選挙で争点 深層群馬ー 

 長野原町で国が建設中の八ツ場ダムは、計画が明らかになって57年。この夏、大きな岐路に立つ。計画を進めてきた自民党に対し、民主党はマニフェスト(政権公約)に八ツ場中止を明記した。推進か中止か。どちらに決まっても前途は多難だ。(菅野雄介)

 108本のろうそくに火がともされた。造成中の移転代替地に、点々と明かりが浮かぶ。

 長野原町川原畑で16日夜、江戸時代から続くとされる送り盆行事「百八灯」があった。三ツ堂観音堂や石仏群が同じ地区の水没予定地から移され、2年目の開催。親の里帰りで久しぶりに戻ってきた子どもたち約30人が、花火に歓声を上げた。

 水没予定地は同町の5地区。川原畑地区は個別補償が始まった01年末に95世帯あったが、現在は19世帯のみ。大半の世帯は代替地の完成を待たず、町外に移った。

 今年になって代替地の一部がようやく形になり、残った世帯が移り始めた。川原畑から42年間通い続けた信用組合を定年退職した中島泰さん(60)は、新しい家を代替地近くに建てた。3人の子どもを連れて盆行事に参加した八木良子さん(34)の家も建築中だ。森田英男さん(65)は、代替地を貫く国道145号の新ルートが開通すれば、経営する自動車修理工場を移すつもりだ。

 5地区の移転代替地はダム完成後の湖岸を囲むように計約34万平方メートル計画されている。国道145号の新ルートと3本の県道、JR吾妻線も通るようになる。

 これらの事業に、ダム建設事業費全体の約54%にあたる2482億円と、水源地域整備事業費997億円、水源地域対策基金事業費178億円が投じられる。建設コストは国内最高となる。大規模な水没世帯を、大がかりに山を切り開いたダム湖畔に移転させる「現地ずり上がり方式」の工事が、コストを押し上げた主因とされる。

7割以上すでに移転 進まない実際の工事

 前回05年の総選挙でも、民主党はマニフェストに八ツ場ダム中止を掲げた。だが注目されず民主党は大敗した。

 ダム建設には05年3月末時点で1908億円が支出済みだったが、その後の自公政権下の4年間で約1300億円が使われた。

 民主党は5月、大型事業中止後の地域振興に関する特別措置法の骨子案を公表した。国が事業廃止を決めたあと、地元都道府県は、国や地元住民らをメンバーに協議会をつくり、振興計画を策定。国の交付金を受けて計画を実施する、というものだ。

 民主党がモデルに挙げるのが、00年に鳥取県の片山善博知事(当時)が中止を決めた県営中部ダムだ。約30年計画が進まず「地元に迷惑をかけた」として、住民の要望を踏まえた総額168億円の振興事業に着手。県道や公民館を整備し、住宅の新築・改築に最高380万円を助成した。

 民主党政策調査会は「地域の振興計画を八ツ場ダム中止後に速やかにつくり、数年以内に実施する」と説明する。ただ、八ツ場はダム建設を前提に関連事業が進み、住民の7割以上が補償金と引き換えにすでに町内外に移転している。移転済みも含めて340戸水没予定で、22戸が水没予定だった鳥取のケースと規模も違う。

 八ツ場の水没予定地の住民らは「民主党は生活再建は続けるというが、何年も待たされるに違いない」と口々に言う。ようやく姿を現してきた代替地や道路などのこれからが見えなくなることへの不安が募る。

 国土交通省は15年度完成に向け、国道や県道計22・8キロの70%の発注を今年3月末までに済ませた。

 だが、実際の工事は遅れている。完成して通行可能になったのは国道600メートル、県道は200メートルだけ。75%が完成したというJR吾妻線も、肝心の新しい川原湯温泉駅の予定地は山林のままだ。

 川原湯地区に住む町議、冨澤吉太郎さん(69)が移転先に考えている上湯原代替地はほぼ手つかずだ。温泉旅館の多くが移転予定の打越代替地の西半分も、まだ造成が終わっていない。「国は『地権者が協力しない』なんて先延ばしの言い訳ばかりだ」

 00年度完成のはずだったダムは、10、15年度と2度延期。建設事業費も2110億円から倍増した過去がある。冨澤さんは「建設を続けても、工期はまた延びて事業費も増えるんじゃないか。結局、いつも地元はないがしろだ」と不信感を隠さない。

 進むも地獄、退(ひ)くも地獄――。地元関係者からは、そんな声も漏れる。