八ッ場ダム関係都県知事による現地視察

 八ッ場ダム計画には長い歴史がありますが、受益都県とされる首都圏1都5県の知事が現地視察をするようになったのは、政権交代により八ッ場ダム中止が取り沙汰されるようになってからです。地元の住民が下流都県の犠牲になることに反発し、生活をかけた闘争をしていた1960~70年代、当時の知事たちはなぜ、現地を視察しなかったのでしょう? 
 当時、水没予定地の人々を犠牲にしてまでも造る必要のあるダムであるのか、真剣に検討していたなら、八ッ場ダムの悲劇は防げたはずです。なぜなら当時から、八ッ場ダムの治水効果には疑問が投げかけられ、東京都の工業用水は70年代にすでに三分の一に減少していたからです。
 

2009年10月20日 朝日新聞群馬版より転載
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000580910200001

 八ツ場(や・ん・ば)ダムの事業費を負担する1都5県の知事が19日、そろって長野原町の建設現地を訪れた。前原誠司・国土交通相の「ダム中止」発言から1カ月。中止撤回を求める共同声明を出し、12月28日までに住民の生活再建の青写真を示すよう求めた「援軍」に、推進派の住民からは期待の声が上がった。一方、「政治家は信用できない」「もっと早く声を上げてほしかった」と、冷めた声も聞かれた。(木村浩之、石田裕貴夫)

 ●「政治力」や理詰め●

 前原国交相、谷垣禎一・自民党総裁が訪れたときと同じ町山村開発センターで開かれた意見交換会。知事がひとりずつ考え方を述べた。

 「八ツ場ダムは絶対必要。政府に強く進言するつもりだ」と石原慎太郎・都知事は「政治力」を強調した。上田清司(きよ・し)・埼玉県知事は、利根川沿いで起きている堤防の漏水件数や取水制限の回数などのデータをもとに、「治水、利水のためにダムは必要」と理詰めで訴えた。「1996年には首都圏で夏冬合わせ117日の取水制限があったが、八ツ場ダムがあれば100日減らせた」

 こうした「援軍」を高山欣也・長野原町長はあえて「国との共同事業者」と呼んだ。意見交換会後、町長は「知事発言には重みがある。きょうの発言を守ってもらえれば、(前原発言の)白紙撤回の期待もできる」と語った。

 ●今後の言動注目●

 「生活再建はダム湖があってのこと」。知事側からはダム建設に向けた「力強く、頼もしい発言」(茂木(も・き)伸一・東吾妻町長)が相次いだ。

 だが、もとはといえば首都圏の水がめ、洪水対策のための八ツ場ダム。地元では、知事たちは「当事者意識」が希薄なのでは、との冷めた意見が聞かれ、「ダムの必要性を受益者の知事から強く訴えてほしい」と、意見交換会で要望が出た。

 「きょうはお見合いみたいなもの」と水没予定の川原湯地区で旅館を営む樋田洋二さん(62)。朝日新聞記者に「自民党に振り回され、前原国交相に裏切られ、政治家は信用できない。知事さんたちにダム推進と言われても、どこまで本気なのか。これからの言動をみたい」と話した。

 同じく水没予定の川原畑地区の男性(65)も「私たちがダム問題の『主役』になっているが、本来は知事さんたちが当事者。もっと早く声を上げてほしかった」と語った。

 ●「知事に説明責任」●

 「知事たちは国とダム計画を進めてきた当事者。治水、利水面でその必要性を説明する責任がある」と、計画見直し派町議の牧山明さん(52)。「ダムができるかできないかにかかわらず、知事たちには地域の再建にも責任がある。ダムができなかったら(暫定水利権の)分担金を返せ、などというのは筋違い」と記者の取材に話した。

 意見交換会、合同記者会見を通じての6知事の発言(要旨)は次の通り。

 石原慎太郎・都知事 (八ツ場ダム中止のように)「はじめに言葉(マニフェスト)ありき」ですでに決めたことだからでは、民主主義は成り立たない。八ツ場ダムに象徴される、公共事業に否定的な政権は怖い。政治は立場を超えた議論を通じて民主的に運営されるものだ。平成に入ってからでも首都圏は水で痛い思いをしている。異常気象に
よる災害も頻発している。八ツ場ダムは絶対必要だ。

 橋本昌(まさる)・茨城県知事 治水、利水の両面でお世話になる。異常気象でダムの必要性は増している。事業継続で一緒にがんばる。

 福田富一(とみ・かず)・栃木県知事 地元の生活再建、地域振興はダム湖があってのこと。地元の意見を尊重すべきだし、ダムは完成目前。八ツ場ダムの治水、利水効果への思いを新たにした。

 上田清司(きよ・し)・埼玉県知事 利根川が破堤すれば県の3分の1は水浸しになる。98年以降、利根川沿いで堤防からの漏水が29カ所で起きている。治水が第一。ゲリラ豪雨が増え、世界中で降雨量が減っている。異常気象のなか、ダムの効用は大きい。第二は利水。利根川水系では平成に入って6回の取水制限を実施した。(現地へ来て)下流都県のために協力したのに、この仕打ちは何だ、という住民の思いがよくわかった。

 森田健作・千葉県知事 地元の57年にわたるご労苦、(ダム反対から建設への)苦渋の決断、事業の進捗(しん・ちょく)状況を見て、建設しなければならない。(前原国交相は「中止発言」を)一時棚上げにして、話し合うべきだ。中止というなら、治水、利水の将来像を示してもらわなければ納得できない。

 大沢正明・群馬県知事 地元住民は、首都圏の水がめになる、洪水から守るという大義のために、ダム建設を受け入れた。あと6年で完成というときになって、(前原国交相は)生活再建の夢を一瞬にして打ち砕いた。