八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会では、八ッ場ダム問題に関する上田知事の発言について、さる11月9日に公開質問書を提出しました。これに対する埼玉県の回答と会としてのコメントが公表されました。八ッ場ダム事業について、埼玉県知事と市民団体の間で意見のどこに相違があり、何が問題なのかがよくわかる内容ですので転載します。埼玉県民だけでなく、多くの方々に読んでいただければと思います。
2009年11月27日
埼玉県知事 上田清司様
埼玉県企画財政部土地水政策課長 田 島 浩様
八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会代表 藤永知子
事務局(大高)さいたま市浦和区北浦和5-15-41-221 電話 048-831-4891
埼玉県知事への公開質問書に対する県の回答へのコメント
去る11月9日に上田清司埼玉県知事に「10月28日の知事記者会見における八ッ場ダム問題への発言に関する公開質問書」を提出しました。それに対して、11月20日付けで企画財政部土地水政策課長から回答をいただきました。その回答に対する当会のコ メントは下記のとおりです。
知事の発言は科学的な検証なしで、ダムの必要性を主張するため、単なる思い付きや極端な誇張・事実の歪曲を並べています。もとより科学論文ではなく、政治家の発言ですから、ある程度の不正確さが許容されるケースもあるでしょうが、今回の発言は許容限度を越えているといわざるを得ません。「ダムの必要性」「巨額な税金の効率的支出」という重要な政策の是非を真剣に論ずるため、事実をベースにした冷静な話し合いの場を持つことをあらためて提案いたします。
1 利根川の加須等における洪水位について
知事の発言 「大体、地元の加須とか、大利根町の皆さんに聞くと、5、6年に1回くらいは堤防すれすれに水が来ておりますと。チャポチャポといって、時々ここに水が来る場合もありますと。」
質問 利根川ではカスリーン台風、キティ台風のあとの大きな洪水(平成10年9月洪水や13年9月洪水など)ではいずれも最高水位は堤防の一番上から約4mより下にとどまっており(図1参照)、十分に余裕がある状態で洪水は流下しています。
「5、6年に1回くらいは堤防すれすれに水が来て」いるという事実はありません。知事のこの発言はいつどこで聞いたものであるのか、発言の根拠を明らかにしてください。
回答 「発言の根拠でございますが、知事が加須市及び大利根町の住民の方とお会いした時に伺ったものです。
普段は川の底部だけに穏やかに流れている利根川が、豪雨により奔流となり、高水敷に上がり、さらに堤防が浸かっていくことの怖さについて伺ったことを知事が述べたものです。」
コメント 回答は、知事が洪水時の利根川の状態がどうなっているかを確認することなく、「チャポチャポといって、時々ここに水が来る場合もあります。」と、ありえない話に膨らませて語ったことを示しています。その程度の事実確認もしないで、利根川の治水問題を語る資格があるのでしょうか。
2 平成10年洪水における群馬県庁の車の流出について
知事の発言 「それから大澤知事も言われましたが、平成10年の段階でも極めて危ない水面すれすれで、土手近くに置いてあった駐車場の車が全部流されるという、それほどスピーディーにいざ豪雨で来るときは来るという」
質問 平成10年9月洪水では、前橋地点においても最高水位は堤防の一番上から4m以上も下にありました。群馬県職員の車が流出したのは、河川敷に車があったからであって、流出の原因は河川敷を駐車場代わりに使うという無防備な行為にあります。知事がそのことをご存じなかったかどうか、お答えください。
回答 「知事からは、関東知事会において群馬県の大沢知事が説明されたパネルを念頭に、「土手の近くの駐車場」という発言をしたと聞いております。知事は河川敷の駐車場であることは承知しております。」
コメント 回答は「知事は河川敷の駐車場であることは承知しております。」とありますが、それならば「平成10年の段階でも極めて危ない水面すれすれで」という発言がどうして出てくるのでしょうか。河川敷においてあったことを承知の上で発言されたならば、それは事実をかなり歪曲した発言であるといわざるを得ません。
3 利根川堤防の漏水について
知事の発言 「平成10年からの10年間だけでも利根川流域での漏水が起きている・・・・利根川沿いで26か所、10年間で起きているんですね平成10年から20年までの間に。」
質問 利根川堤防の漏水は堤防とその地盤の強化によって防止すべきであり、わずかな水位低減効果しかない八ッ場ダムに堤防の漏水防止を期待するのは筋違いであり、非科学的でさえあります。知事は、八ッ場ダムが完成すれば、漏水をどの程度減らすことができると考えているのか、その具体的な数字を明らかにしてください。
回答 「県では、八ツ場ダムは洪水流量を調節する効果があると認識しております。ダムによる洪水流量の調節とは水位を低下させるものですが、その効果は河口まで及ぶものです。利根川は非常に長い河川であり八ツ場ダムにより下流の堤防は国管理区間だけでも両岸で約500kmもあります。仮に八ツ場ダムによる水位低下効果が10cm程度でも、利根川、江戸川全体でみた場合には、八ツ場ダムによる堤防決壊リスクの低減効果は決して小さくないと考えています。」
コメント 堤防の漏水を防ぐ対策として八ッ場ダムがどの程度有効かを聞いているのに、この回答はそれにはまともに答えていません。単に「仮に八ツ場ダムによる水位低下効果が10cm程度」あれば「堤防決壊リスクの低減効果は決して小さくない」と感覚的に答えているだけです。きちんと計算すればわかることですが、「水位低下効果10cm程度」による堤防漏水の減少はわずかですから、堤防決壊リスクの低減効果も微々たるものと考えられます。定量的に効果を判断することがどうしてできないのでしょうか。
堤防の決壊をなくすためには堤防の強化対策を進めるしかありません。この本来の対策ではなく、微々たる効果しかない八ッ場ダムの建設を求めるのは、県民の生命と財産を守る立場にある知事としてあってはならないことです。
4 暫定水利権について
知事の発言 「そういう暫定水利権ではなくて、我々は安定水利権を得るために八ッ場ダムに参加しているわけでありまして、」
4-1 暫定水利権による取水の状況
質問 埼玉県の暫定水利権は農業用水転用水利権の冬期の取水に関してのものですが、私たちの調査ではこの冬期の暫定水利権は今まで取水に支障をきたしたことがありません。冬期の渇水はきわめてまれであって、過去にあったのは平成8年、9年の軽微な渇水だけですが、このときも安定水利権と比べて不利な扱いはありませんでした。もし取水に支障をきたしたことがあるならば、その期間とその程度を明らかにしてください。
回答(一部) 「取水制限に当たっては、暫定水利権の利水者は、安定水利権の利水者から水資源開発施設の建設による水源確保に取り組んでいることや暫定水利権の対象となっている水道用水や工業用水の重要性を御理解いただき、制限に配慮していただいております。暫定水利権は豊水時のみ取水可能として許可されているにもかかわらず、渇水時においても取水停止の措置はとられず、さらに、安定水利権の利水者も一緒に取水制限に加わるといった制限方法が取られてきました。」
コメント 回答は、過去の渇水において埼玉県の暫定水利権が安定水利権と同じ扱いを受けたと語っており、暫定水利権といっても、実際には安定水利権と変わらないものであることがあらためて確認されました。
4-2 県民の過重負担
質問 埼玉県水道は農業用水転用水利権を得るため、巨額の費用を負担し、一方でその冬期分の水利権を得るという理由で、八ッ場ダムのためにさらに巨額の費用を負担しています。そのため、表1のとおり、その合計の負担額は通年の水利権を得る場合と比べると、1.5倍以上にもなっています。いわば、私たち県民は二重の負担をさせられているのです。本来は不要な八ッ場ダムに参加しているために県民に過重な負担を強いていることについて知事の見解を明らかにしてください。
回答(一部) 「このため、県では一刻も早く安定水源を確保することが求められ、短期間で事業が完了する農業用水合理化事業による水資源開発を推進したものです。なお、農業用水合理化事業は、貴重な水資源を有効利用する事業であり、また、その水源手当てがあることにより、県がその後に必要とするダム等の貯水容量を減じることができたものと考えております。」
コメント 農業用水転用水利権を得るためと八ッ場ダムへの参加のために県民が過重な負担を強いられていることに関して見解を求めましたが、それへの直接の回答はありませんでした。
5 付替国道等の工事進捗率と完成割合について
知事の発言 「実際70パーセント、80パーセント出来てる所も、共用開始の部分が2パーセント、6パーセントにもかかわらず、それが進ちょく率と言ったり」 「それを言っている人がインチキまがいだということです。」
質問 私たちがマスコミに発表した資料では図3のとおり、付替国道等の工事進捗率と完成区間の割合を分けて示しています。ただし、この工事進捗率は契約締結しただけのものも含まれており、実際の工事進捗状況を表すものではありません。
そして、この図の数字は今年6月9日の政府答弁書(内閣参質171第186号)によるものです。
それにもかかわらず、知事は「それを言っている人がインチキまがいだ」と発言しています。これは知事が勝手に誤解して個人を非難しているものであって、看過できる発言ではありません。知事はどのような資料に基づいてこのような発言をしたのかを明らかにしてください。
回答 「県では、国が作成した工事の説明資料やそれに基づく県職員による現地での確認により、工事の進捗状況を把握しております。
なお、貴会ブログの2009年9月18日付け「八ツ場情報」では、「工事の進捗は大幅に遅れている」や「7割が平成20年度までに使われたということであって、工事の進捗率とは全く別物である。」、「事業が継続されても、ダムの完成は平成27年度末より大分先になることは確実である。」等との説明が掲載されており、これらは現地の実態とは異なったものであると考えております。」
コメント 当会が政府答弁書に基づく数字を使っているにもかかわらず、知事がそれを誤解して、「インチキまがいだ」と発言したことについては何の謝罪も釈明もありませんでした。
なお書きで、当会のブログについて「現地の実態とは異なったものである」と述べていますが、実際にどのように異なっているかについては具体的には何も語っていません。具体的に反論することができないから、そのように中身なしの異論をとなえるだけで終わっているのです。
その後、11月17日に群馬県議会で9月末での付替国道等の進捗状況の報告がありました。それによれば、付替国道は供用済みが6%、舗装などの仕上げ以外が完成した概成が41%、発注済みが41%でした。供用済み・概成が半分にも行っていないのですから、完成までの道のりがまだ遠いことがあらためて分かりました。
*八ッ場ダムをストップさせる会から埼玉県知事への公開質問書の全文と資料はこちらに掲載しています。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=742
*八ッ場ダムをストップさせる埼玉の会ブログ↓
http://yambasaitama.blog38.fc2.com/