八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

湖面一号橋についての記事

 八ッ場ダム湖を前提に基礎工事が始まった湖面一号橋の建設。巨大な橋脚が立つ予定地がJR川原湯温泉駅前の温泉街入り口ということもあり、ダム湖ができないのであれば観光地を破壊しないでほしいと、橋脚建設に疑問の声があがっています。一方、地元の川原湯温泉組合などは、代替地での生活の利便性、代替地での温泉街の再建に必要と訴えています。観光客と地元住民との意見が対立している現状は、ダム計画を受け入れた川原湯温泉の悲劇といえましょう。
 湖面一号橋問題について、東京新聞に詳しい特集記事が掲載されましたので転載します。

*湖面一号橋の情報はこちらに掲載しています。↓
https://yamba-net.org/wp/modules/genchi/index.php?content_id=17

◆2010年1月8日 東京新聞【特報】 中止でも1号橋<事業費52億>必要?
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2010010802000049.html

 ◇八ッ場ダム 国交相と24日意見交換会◇

 前原誠司国土交通相が建設の中止を打ち出した八ッ場ダム。新年度予算でダム本体工事費の計上は見送られたが、生活関連事業費約154億円が盛り込まれた。24日には前原国交相と地元住民の意見交換会も実現する。それに先立ち、どこまでが生活関連事業なのかが、「湖面1号橋」建設の是非も絡んで新たな焦点となっている。(秦淳哉)

 JR吾妻線の川原湯温泉駅北側にある川原畑地区。ダムが完成すれば湖底に沈むが、その代替地近くで別の工事も進む。
吾妻川を見下ろす雪の斜面にへばりつくようにして作業する重機。湖面1号橋と呼ばれる橋を支える四本の橋脚のひとつ 「P2」を設置する基礎工事が始まっていた。

 1号橋は長さ494メートルで片側一車線の県道と歩道を整備する。川原畑地区と、川原湯地区の両代替地は、ダム湖が出来れば対岸同士で、この橋で結ばれることになる。
 「川原畑と川原湯の両地区を行き来するには、今はJR吾妻線の踏み切りと吾妻川を越える必要があるが、この上を1本の橋が結べば移動時間は格段に早くなる」。地元のタクシー運転手は橋のメリットをこう話す。

 実は、ダム湖の上を通る橋として「湖面2号橋」と「湖面3号橋」の建設も進む。2号橋は付け替え県道の、3号橋も付け替え国道145号の一部となる。ダム建設の中止表明後、有名になった十字架のような構造物は2号橋の橋脚部分だ。

 1号橋の事業費は52億円。大半は国が負担するが、2014年度の完成を目ざし群馬県が発注する。県はホームページで「ダム事業に伴う生活再建を支援する基幹施設。(代替地に移転予定の)新川原湯温泉を中心とした観光を支援する道路」と説明する。県は、他の橋脚「P3」「P4」の入札を来月に行う予定。約117メートルと最も高いP3は吾妻川とJR線の間に、P4は川原湯温泉の入り口アーケード付近にそれぞれ建設される。

 だが、この1号橋建設に異論が出ている。2、3号橋は建設途中で完成させたとしても、ダムが中止なら1号橋は不要ではないかというのだ。

 ダムの見直しを求める市民団体「八ッ場あしたの会」(前橋市)は、1号橋は国道145号の付け替え道路から新川原湯温泉へ抜けるアクセス道路。ダムが中止になれば役割が見直される可能性が高い」と指摘する。
 それは1号橋を作るとダムの中止後、川原湯温泉を今の場所で再生させるのが困難になると見るからだ。「川原湯温泉の入り口などに巨大な橋脚が4本も立てば、周囲の景観が台無しで、温泉地の生活や営業に大きな障害がある」と主張する。

 八ッ場ダムの生活再建は、代替地計画を基本にしている。水没地区のコミュニティー維持を目的に採用した再建事業は、V字形の谷川に位置する水没予定の各地区を上の山側にそのまま移転させる手法だ。地元はこの方式の導入を条件にダム建設を受け入れた。
 しかし、国がダムの中止を打ち出した今、移転計画の実現も不透明だ。生活再建の議論も進まない中、県が1号橋建設を進めていいのか。

 「八ッ場ダムをストップさせる市民連絡会」の嶋津暉之さんは「ダム本体以外の付帯工事は全て生活再建事業と位置づけられているが、1号橋のように、このまま造れば、水没予定地の利活用に大きなダメージとなる事業も含まれる。生活再建として真に必要な事業のみを予算化する仕分けが必要」とし、入札の中止を訴える。

 ◇ダムの決着 まずは早く◇

 1号橋が生活再建のひとつなのかは、地元でも議論は分かれる。

 川原湯温泉近くで「豊田乳業」を経営する豊田武夫さん(58)は不要との立場だ。「橋を必要とするのは一部で、その金を水没地域の生活再建策に使うべきだ。ダム推進派は既成事実を積み上げ、ダム本体の工事継続の材料にしているだけでは」
 生活再建のあり方についても「かすかにでも『ダムが出来るのでは』との期待があるうちは、本当の生活再建は出来ない。早く問題を決着させ、どうすれば温泉街にお客さんを呼べるのかを議論した方がいい」と、建設中止後の対応に重点を置くよう主張する。

 ◇建設後は「今の場所で温泉再生困難」◇

 一方、川原湯温泉旅館組合の豊田明美組合長(44)は「組合員全員が代替地に移転する点で一致している。川原畑と川原湯の両地区は消防団や子供育成会でも一緒に活動し、繋がりは深い。1本の橋で両地区の代替地をつなぐことは、防災や安全の面からも必要」と、1号橋建設の必要性を強調する。
 その上で、国が成立を目指すとしていた生活再建・地域再生法案の通常国会への提出が見送られた点に不安をもらす。
「われわれも無駄な道路など公共工事は減らすべきだと思う。しかし、住民に約束したライフライン整備や代替地移転は無駄な工事とは違う。生活のベースをきちんと作ってもらわないと。今の場所での生活再建となれば更に十年以上はかかるだろう。それまで待つことは出来ない」

 民主党群馬県連は昨年11月、温泉街を今の場所で再建することや、1号橋の凍結を前原国交大臣に提言。これに猛反発した長野原町が抗議文を提出する事態となった。
 町の担当者は「新たな町道や国道を建設する為、ダム湖に沈む現在の国道などは廃道となる予定。両方の道路を使うとなれば、除雪などの維持管理費用も2倍になる。従来の計画にある移転などの生活再建策は全て実施すると思っており、凍結後の対応は議論したこともない」と話す。

 こうした中、「ダム本体は中止するが生活再建は行う」とした前原国交大臣の言い回しも、微妙に変化し始めた。1号橋について問われて「公共事業は全国的に抑制傾向にある中、出来る事業と出来ない事業も当然ある」と含みを持たせた。

 ダム建設の前提が崩れた後、どこまでを生活再建と見なすのか。前原国交相と地元住民の意見交換をきっかけに、実りある議論が始まるか、注目される。

【デスクメモ】
 吾妻渓谷の静かな温泉が売りの川原湯。旅館主は代替え地で「ダム湖が見える温泉」のイメージを希望に再建の絵を描く。だがコンクリートのダム湖を観光にというのは魅力に欠ける。夏場は水位が大幅に下がり、見るべきものはない。やはり下駄を突っかけ浴衣姿で散策の湯治場で…は都会の身勝手か。(呂)

—上記記事へのコメント—
*記事中、地元のタクシー運転手の言葉として、「川原畑と川原湯の両地区を行き来するには、今はJR吾妻線の踏み切りと吾妻川を越える必要があるが、この上を1本の橋が結べば移動時間は格段に早くなる」とありますが、湖面一号橋の建設予定地の上流側と下流側には、吾妻川を跨ぐ現国道の橋が一本ずつ架かっており、JRの鉄橋も並行して架かっていますので、吾妻川の両岸を往来するのに踏切を使う必要はありません。

*記事では、付け替え国道、町道などが建設されるため、いずれ現国道は廃道となる、という町当局の説明が紹介されています。付け替え国道は、トンネル、橋の延長距離が現国道よりはるかに長く、地上部も現国道より地質が脆い場所に設定されており、ライフラインとしては脆弱といわざるをえません。付け替え国道は四車線の予定ですが、現在のところ、二車線しかつくられていません。現在の国道を廃止すれば、付け替え国道で事故や災害が起こった場合、人口の多い上流側(草津町、嬬恋村、六合村、長野原町)は陸の孤島になってしまいます。現国道は景観の優れた吾妻渓谷を縫うように走っており、現国道の廃止は住民にとっても観光客にとっても大きなマイナスとなります。

*代替地移転を目指し、湖面一号橋建設を求めている水没予定地の方の意見として、「今の場所での生活再建となれば更に十年以上はかかるだろう。それまで待つことは出来ない」との言葉が紹介されています。
 国土交通省はダム湖完成を2015年度としてきましたので、ダム事業を受け入れた地元の人々の多くは2015年度には代替地での生活がスタートしていることを念頭に生活設計を立ててきました。ダム事業の行方が不透明となる中、生活再建が遅れるとの不安を抱く住民は少なくありません。けれども、ダム事業を前提とした代替地計画は、旧政権下でも大幅に遅れてきました。行政には、政権交代によりダム建設の遅れを民主党のせいにできて助かったという声さえあるといわれ、たとえこのまま順調にダム事業が進んだとしても、ダム湖完成は予定の2015年度よりさらに遅れる可能性が高いとされています。また、代替地の地質の安全性、造成によってつくられた代替地での集客など、代替地での生活再建は問題も多く抱えています。いずれにしても、長年犠牲を強いられてきた水没予定地住民の早急な生活再建は待ったなしの課題です。