群馬県議会、八ッ場ダム中止派より意見聴取

2010年1月26日

 さる1月22日、群馬県議会に設置された八ッ場ダム対策特別委員会では、八ッ場ダム中止を訴える専門家からの意見聴取が行われました。
 招聘されたのは、大熊孝氏(新潟大名誉教授・八ッ場あしたの会代表世話人)、嶋津暉之氏(水源開発問題全国連絡会共同代表・八ッ場あしたの会運営委員)です。同委員会では、昨年12月に、八ッ場ダム推進の立場から、宮村忠氏、虫明功臣氏の意見聴取が行われています。
 八ッ場ダム問題においては、ダム推進派と中止派が公開討論を行ったことがありません。ダム中止派からは、市民団体、議員団体など、様々な立場からダム推進派に公開討論の申し入れが行われてきましたが、これまで回答は一切なく、議論を避けているといわれても仕方がない状況が続いています。今回の専門家聴取は、ダム推進の自民党県議らとダム中止派の論客の初顔合わせとあって、熱い論戦が期待されていました。
 けれども、質疑の時間、最大会派の自民党県議団からは、質問者は一人のみで、質問も短時間で終わりました。
 新聞の論調は、自民党県議団があえて論戦を避けたことを示唆しています。

■東京新聞群馬版 2010年1月23日
「八ッ場ダム」対話を前に<下> 『開かれた議論』ないまま
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20100123/CK2010012302000112.html

 「八ッ場(やんば)ダム(長野原町)の是非について、期待したような深い議論はできなかった」。二十二日に開かれた県議会の八ッ場ダム対策特別委員会。ダム建設中止を求める専門家として意見を述べた市民団体「水源開発問題全国連絡会」の嶋津暉之共同代表は、終了後の会見で落胆の表情を浮かべた。

 特別委では、嶋津氏が、一九九〇年代以降に顕著になった首都圏の水需要低下を根拠にダムの必要性を否定。やはり専門家の立場で意見陳述した新潟大の大熊孝名誉教授(河川工学)は「ダムを建設しても、利根川に対する洪水調節効果はほとんどない」と、建設中止の妥当性を強調した。

 ダム建設推進を訴える自民党県議が多数を占める特別委だが、二人の意見を直接批判する声はなかった。国と地元住民の意見交換会が二十四日に控えるものの、ダム推進、中止両派の見解は交わることなく終わった。

 「八ッ場ダム建設中止」をマニフェストに掲げた民主党が政権を獲得したことで、嶋津氏らが唱え続けてきた主張は現実の政策となった。だが、鳩山政権の発足から四カ月以上が経過し、ダムの再検証に向けた準備作業が始まった中で、嶋津氏ら「中止派」の関係者は、ダム問題の行く末に懸念を抱き始めている。

 不安材料として示すのが、国が昨年十二月に設置した治水政策に関する有識者会議のあり方だ。会議は非公開とされ、議事の要旨が文書で公開されるのみだ。国土交通省は「審議内容が独り歩きすれば、議論の客観性が失われる」と非公開の理由を説明する。

 嶋津氏は、今月十五日に開かれた有識者会議の第二回審議でも意見を述べた。会議を非公開とする国の手法に「治水政策を大きく転換させるための議論は、公開の場で行うのが筋道だ。前原誠司国交相の『秘密主義』は理解に苦しむ」と強く批判する。

 嶋津氏と連携してダム建設中止を訴える市民団体「八ッ場あしたの会」の渡辺洋子事務局長は「ダム計画は、下流都県の水害防止や水源確保が根拠とされた。ダム建設の可否は下流都県の住民にも直接影響する問題だ」と強調。推進、中止両派が公開討論するなどして、市民に開かれた形での検証が必要と訴える。

 だが、実際の八ッ場ダム問題は、マニフェスト実現を最重要課題とする民主党と、ダム建設を進めてきた自民党による政争の様相も色濃く、建設の賛否をめぐる「開かれた議論」が始まる気配はない。嶋津氏は、ダム問題が置かれた現状をこう嘆いた。「風通しの良い環境で、河川行政の本質を見据えた合理的な検証が進められなければ、決着点はいつまでも見えない」

■毎日新聞群馬版 2010年1月23日
ー八ッ場ダム・流転の行方:参考人2氏、必要性を否定--県議会特別委 /群馬ー
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20100123ddlk10010138000c.html

 ◇「川の敵対物」「水需要減る」

 県議会の八ッ場ダム対策特別委員会は22日、ダム建設の中止を唱える大熊孝・新潟大名誉教授と、水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之(てるゆき)・共同代表を参考人招致した。同委の開催は4回目だが、ダム中止派の招致は初めて。大熊名誉教授は「ダムは川にとって基本的に敵対物でしかない」と話し、嶋津共同代表は「首都圏の水需要はますます減少する」と八ッ場ダムの必要性を否定した。【奥山はるな】

 大熊名誉教授の専門は河川工学。川を「地球における物質循環の重要な担い手であり、ゆっくりと時間をかけて地域文化をはぐくんできた存在」と位置づけ、ダムの存在意義を「土砂や流木、落ち葉をため込み、川の物質循環を遮断する敵対物だ」と主張した。

 八ッ場ダムの治水効果にも疑問を投げ掛けた。大災害をもたらしたカスリーン台風(1947年)と同規模の洪水が起きた場合、国の利根川治水計画(06年)では、伊勢崎市の八斗島(やったじま)地点で毎秒2万2000立方メートルの水が流れると試算しているが、これを「過大だ」と指摘。戦争直後で山が荒れていた49年当時の国の計画でも毎秒約1万7000立方メートルしか想定しておらず、植林で保水機能が改善した現在では「異常に大きい洪水流量は出ない」と話した。

 また現行計画で洪水調節するには10基以上のダム建設が必要なため「八ッ場ができれば下流が助かるわけではない。越流しても破堤しない堤防を考えるべきだ」と主張した。

 一方、嶋津共同代表は主に、首都圏の水需要から八ッ場ダム不要論を展開した。水需要は節水機器の普及と人口減少により減り続け「1日当たり200万トンの余裕がある。水余りが進んでいる」と指摘した。

 ダム湖に堆積(たいせき)する土砂についても問題視した。八ッ場ダムの場合、国土交通省は100年で1750万立方メートル堆積するという「一般式」による計算結果を開示しているが「近隣ダムの実績と比べ、小さすぎる」と述べた。利根川水系の下久保ダムの場合、計画の2・2倍の速度で土砂が堆積しており、八ッ場ダムでも予想を上回るペースで堆積が進めば「80年後には利水容量がなくなる」と話した。

 嶋津共同代表は質疑応答で、ダム関係1都5県で係争中のダム負担金支出差し止め訴訟で敗訴が続いていることの見解を問われ「判決は『違法だとは言えない』ということで司法のハードルは高い。控訴審などの結果を待ちたい」と述べた。

 また、同委は▽2月16日にダム下流自治体(埼玉県大利根町と東京都江戸川区)を視察▽3月15日に八ッ場ダム建設予定地を視察▽これまで意見聴取した専門家の講演録を議会ホームページに掲載--することを決めた。

■朝日新聞群馬版 2010年01月23日
ー時間足りず議論不発 反対派の専門家意見ー
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000001001230001

 建設中止で揺れる八ツ場ダム(長野原町)について、県議会八ツ場ダム対策特別委員会は22日、ダム反対派の専門家2人を招いて意見を聴いた。推進派が委員の多数を占めるだけに、活発な議論が期待されたが、時間が不十分なこともあって議論は深まらなかった。意見を述べた専門家は閉会後、「議論にならず残念」ともらした。

 八ツ場特別委は、八ツ場ダムの必要性と住民の生活再建を審査する場として、昨年10月に設置された。15人の委員中11人が、ダム推進派の自民党・ポラリスの会、公明党。過去2回の専門家らの意見聴取では、推進を求める大学教授や自治体担当者らが招かれたため、民主系会派のリベラル群馬が提案し、建設反対の専門家の話も聴くことになった。

 この日は新潟大の大熊孝名誉教授(河川工学)と、水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表が登壇。2人は八ツ場ダム建設への6都県の公金支出差し止めを求めた住民訴訟でも、たびたび原告側の証人として八ツ場ダムの不要論を述べてきた。

 大熊氏は、現行の利根川の治水体系を完成させるには十数基のダムが新たに必要になるとして「200年たってもできない」と持論を主張。洪水時のピーク流量の設定が過大で、八ツ場ダムの治水効果が乏しい点などを説明した。

 嶋津氏は、利水面から八ツ場ダムの必要性がないことを解説した。節水機器の普及と人口減少によって水需要が減っている現状を紹介し、地下水の活用など既存水源のやりくりで対応可能だと述べた。

 各会派から1人ずつ質問した。

 自民党・ポラリスの会の萩原渉委員は「八ツ場ダムは年度末には86%が完成すると聞く。安全のためには必要ではないか」と尋ねたが、大熊氏は86%という数字はダム建設事業費4600億円をベースとした話だと指摘。「残りの金でダム本体や地滑り対策などができるのか」などと反論した。

 住民訴訟が4地裁で敗訴していることについても、萩原委員は両氏に見解を求めたが、「判決に問題がある」「違法とまでは認められなかっただけ」との回答で時間切れになった。

 3時間弱の委員会後、嶋津氏は記者会見し、「もっと質疑の時間がほしかった。議論できるような委員会にしてほしい」と運営改善を訴えた。

 一方、ある委員は「県議会で国直轄事業のダムの必要性を議論しても仕方ない。むしろ住民の生活再建について議論すべきだ」と話した。

 特別委はこの日の意見聴取に先立ち、治水面の不安を訴えている東京都江戸川区などを2月に視察し、3月にはダム予定地の現状を視察することを決めた。