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国が水質調査を強化 八ッ場ダム予定地上流

2010年3月11日 朝日新聞群馬版より転載
ー国が水質調査を強化 予定地上流ヒ素問題ー
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581003110001

 八ツ場ダム(長野原町)の予定地の上流で、環境基準を超える有害物質のヒ素が検出されている問題について、国土交通省は4月から、予定地周辺のヒ素濃度などの水質を詳細に把握するため、調査地点を4カ所に増やすことを決めた。ダムを建設した場合に湖底にヒ素がたまり、渇水期の水質に深刻な影響を及ぼすとの指摘が出ているため、調査を拡充することにした。(菅野雄介)

 ダム予定地周辺には現在、貝瀬、与喜屋、ダムサイトの3カ所の調査地点がある。国交省によると、さらにダム湖の湖心になる予定の地点で調べる見通しという。

 ダムがない現状では、上流域で高濃度のヒ素が検出されても、数値の低いほかの河川の水と交わる間に薄められ、下流で取水する飲料水への問題は出ていない。

 だが、水没予定地の長野原町川原湯でダム反対運動の先頭に立った高齢の男性は、こう証言する。「地元がダムに反対したのは、故郷が沈むことへの反発だけじゃない。ダム湖に『毒水』をためたらどうなるのかという心配もあった。いまでもこの辺の吾妻川で魚は捕れない」

 2月24日の衆院国土交通委員会。「夏の渇水時に沈殿した高濃度のヒ素混じりの水を飲まされたら、都市部の住民に危険が及ぶ」。村井宗明議員(民主、富山1区)は、八ツ場ダム湖の予定地の上流約2キロにある白砂川の貝瀬地点で、今年1月に環境基準の5倍近いヒ素が検出されたデータを示しながら、国交省の対応を尋ねた。

 三日月大造政務官は「昭和50年代から水質調査を行ってきたが、風評被害を恐れて公表してこなかった。1月から数値をさかのぼって公表している」と応じた。

 国交省は八ツ場周辺の3カ所の調査地点だけではなく、さらにヒ素濃度が高い上流域のデータも公表を始めた。データは1980年以降の30年分で、昨年12月2日の調査では、八ツ場ダムの上流約20キロの湯川で環境基準の119倍のヒ素が検出されている。

 昨年4~12月のヒ素濃度の平均値は、湯川の調査地点で116倍だった。この地点では、85年ごろにヒ素濃度が急上昇。94年度以降はずっと、年平均で環境基準の100倍を超すヒ素が検出されており、採取した日によっては200倍を超すこともあった。一方、湯川下流の品木ダム湖の湖心や放水口でのヒ素濃度は、おおむね環境基準の5~15倍前後となっている。

 上智大の木川田喜一准教授らのグループの研究によると、高濃度のヒ素は草津白根山のふもとの鉱山開発に伴って70年から湧出(ゆう・しゅつ)している湯に含まれ、濃度は80年代半ばから90年代半ばに急上昇しているという。年間40トン以上放出されるヒ素の多くは湯川に流れ込むが、一方で、強酸性の湯川を中和するために石灰を投入することでできる生成物に取り込まれて湯川の河床や品木ダムに沈殿するとの研究成果を示している。

 湯川のヒ素が中和事業の際に化学反応を起こして沈殿しやすい物質となり、品木ダムに堆積(たい・せき)していることを裏付ける資料がある。非公表だった「H20ダム湖堆積物等調査分析業務 地質調査・分析結果報告書」。国交省品木ダム水質管理所などが堆積物のリサイクル調査の一環で09年3月にまとめた。同報告書によると、調査はダム湖の4地点で、深さ7メートルまでの堆積物のサンプルを採取した。成分分析で、1キロあたり28~5300ミリグラムのヒ素がみつかった。

 土壌環境基準はヒ素について、農地では土壌1キロあたり15ミリグラム未満と定めており、いずれのサンプルも基準を超えていた。最大で353倍にもなった。

 品木ダムは8割以上が中和事業で生じた堆積物や土砂で埋まり、88年から浚渫(しゅん・せつ)を続けている。ダム周辺の処分場に捨てているが、周辺土壌のヒ素汚染も懸念されている。

 この問題を今年1月、「週刊朝日」で報じた保坂展人・前衆院議員(社民党)は「ヒ素の処理はダムへの賛否にかかわらず今後考えていかないといけない問題だが、こうした情報を開示していなかった国交省の姿勢を、まず改めるべきだ」と話す。

 3月5日の衆院国土交通委員会でも熊田篤嗣議員(民主、大阪1区)が取り上げ、前原誠司国土交通相は「ヒ素の情報はしっかりと適宜公開していきたい」と述べた。

 品木ダム水質管理所は、80年度以降の8年分の堆積物調査のデータの公表を最近始めた。