衆議院国交委員会の議事録(奥西一夫さん意見陳述)

 2010年3月16日に衆議院国交委員会で行われた意見陳述の議事録を先に転載しましたが、スペースが足りず、最後の部分が途切れてしまいましたので、最後に意見を述べられた奥西一夫さん(京都大学名誉教授)の意見陳述の部分のみ転載します。

衆議院ホームページより↓
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm

○奥西参考人 奥西です。私は、ダム湛水域の地すべりの危険度に特化して意見を述べたいと思います。

 私は、このダムの建設差しとめに関する訴訟で、地すべり問題に関する鑑定意見書というのを提出しておりますけれども、おおむねそれに基づきまして、また、その後の資料をつけ加えた形で意見を述べたいと思います。

 私のプリントの第一ページの第一図に、湛水域の地図が示されておりますが、その中で薄い赤で示されたのが予備的な調査ともいうべきところで、検討すべき地すべりの可能性のある斜面というのを挙げてあります。結果的にこの部分の多くは地すべり地であることは間違いないと思うわけですが、対策工事が計画されておりますのは、そのうちの、上から矢印を示しておりますけれども、地点で四つ、地域で三つ、そのうち一番左端の小倉地すべりに関しては県施行でありまして、事業者の施行のは三カ所にとどまっております。ここから主要な問題が生じるわけです。

 なお、この図には、太い破線で二つの箇所を示しておりますけれども、これは過去に実質的な地すべりが起こったと考えておるものです。そのうち、川原湯地区についてはだれが見ても間違いないと思いますが、林地区については、実際にこういう破線に沿って過去に地すべりが起こったかどうか、私も完全に確信が持てないところがあります。

 マスコミの取材に応じまして、私は、この地域は地すべりのデパートのようなものだというぐあいに申し上げましたが、その意味するところは、いろいろな種類の地すべりがあって、また、数が多いということです。

 その第一原因は地質にありまして、三の地質概要にありますが、いろいろな時期の火山活動の影響を受けているために、場所によっていろいろな地すべりの態様があらわれているということです。きょうは時間が限られておりますので、主な類型の地すべりについて、それぞれから一つずつ選んで述べたいと思います。

 二ページ目の第二図は、二社平地区の地すべりの地質断面図を示したものです。ここの地すべりは小規模なものではありますけれども、地すべりが起こりますと大きな岩塊がダム湖に転落する、そのために貯水池で津波が起こるという心配がありますので、非常に重要視されているものです。

 この図でピンク色の部分がこれまで地すべりとされてきたものであるけれども、ちょっとわかりにくいですが、真ん中や左側に青色で直線の斜線が示されておりますが、そこまで含めて考えるべきだというのが平成十九年度の調査による結果です。実際に対策が検討されているのは、ピンク色の中のまた多少限られた部分にすぎません。この調査の報告書では、この青い線で区切られた部分を絶対に対策しないといけないとまでは言っておりません。

 次に、その下の第三図、林地区の地すべり危険度です。対策が予定されておりますのは、この図で赤で示した範囲、これは地すべりのすべり面の深さをあらわす線ですけれども、それに限られておりますが、平成十九年度の調査で、この青い線で示された部分も検討の対象にすべきだと言っております。

 その根拠の一つは、次のページに、長野原町で出されております資料で、過去に地すべりが起こったところの滑落崖が生じているというわけです。ですから、もうここは地すべり地であるということは間違いないわけですね。しかし、いろいろ理由をつけて対策工事の対象にしなかった。この報告書では、この時点において、これから調査をする必要があるというぐあいに述べております。この時点ではダムの着工が既に決まっておって、もう着々と工事が進められていた段階のことなんですね。

 次に、三ページ目の下の白岩地区の地すべり危険度ですが、初期のころの調査でこのような地質模式図がつくられております。不動岩という大きな岩壁があるんですが、この図ではその高さが正確に示されておりませんが、その岩壁が崩れて、この下の平たんなところにたまっております。この平たんなところの下の岩盤が、この不動岩が盛り上がってくるときの力学的な作用、それから地熱による風化作用を受けて脆弱化しておりまして、もたなくなっている。そういう状況が初期のころから報告されております。

 次のページに移りまして、上の写真が、そういう岩壁が崩れてできた岩塊がつくる小山の例です。左端に人物が写っておりますので、大体の大きさがわかると思います。左側の図に、そういう小山の分布が示されて、ちょっとわかりにくいんですけれども、青で区切った部分は地すべり地の疑いがあるというぐあいに報告書で書かれています。

 ところが、その報告書の中を見ますと、そのページの下の図のような地質断面図が示されておりまして、各所で地すべりの変位が既に生じているというデータが出ております。また、地表でも道路が変形しているとかの報告がありまして、間違いなくこれはもう既に地すべりが起こっておるわけです。まだ実害が生じる程度の変位にはなっておりませんけれども、間違いなく地すべりであるにもかかわらず、報告書では、地すべりである可能性があるから、そういう観点に立って調査をする必要があるという、非常に煮え切らない表現になっております。

 五ページ目の七番、横壁地区の小倉地すべり。これは非常に小さいものですが、かつて地すべりを起こした履歴のないところで起こっております。これは非常に重要視すべきだと思われます。というのは、ダムをつくった場合に、これまで検討されたことのない斜面で地すべりが起こる可能性があるんだということを示唆しているものですが、そういう観点に立った調査がここでは行われていないということが問題です。

 それについて、次のところにちょっと書いておりますけれども、国交省は、こういうタイプ、初生地すべりというぐあいに言いますが、これについては予測が難しいので予測並びに対策を行わないんだというぐあいに言っております。また、別のダム、これは奈良県の大滝ダムというところですが、実際に試験湛水をして地すべりが起こって補償問題が起こっておりますけれども、これについて国交省は、初生地すべりは予見できないのだから補償する義務が生じないということを主張しておられます。

 そうしますと、ダムをつくるときにもし初生地すべりが起こったらだれの責任なのか。それは、結局、被害者自身がかぶらざるを得ない。そういう構造をダムそのものが持っているということに、そういう解釈をせざるを得ないようになります。

 あとのことをまとめますが、先ほど、地すべりが現実に起こっている、あるいは地すべりの危険度がはっきりしているにもかかわらず、これから調査しなければいけないというような書き方をされているのはなぜか。これは多分に憶測の問題でありますけれども、地すべりの科学技術的な調査というのは、ダムをつくろうというサイドの人の依頼によってなされるものですから、調査した結果、ダムはつくれませんという結論を出せるのか、非常に疑わしい。私の憶測するところ、そういう技術者の苦悩がこういう煮え切らない表現になってあらわれているんではなかろうかというぐあいに考えております。

 それから、ちょっとはしょりますが、初生地すべりに限らず、地すべり、あるいはもっと一般的に自然災害というのは、人知を超えたところがあります。したがって、すべての災害、すべての地すべりについて完璧な調査をやってからダムをつくるということは、もともと不可能であろうというぐあいに思われます。

 ですから、仕方がない、つくってしまえという議論もあるわけですが、やはりダム事業者は結果責任をとるべきであろうというぐあいに考えます。不確定なことがたくさんあるわけですが、不確定なことに対してどう考えるかという問題を突き詰めないと、被害者に責任をとらせるというようなことは適当ではないというぐあいに思います。

 以上です。(拍手)

○川内委員長 奥西参考人、ありがとうございました。

 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。