ダム計画を正当化してきた「基本高水」の虚構

2010年10月16日
 昨日の会見における馬淵国交大臣の発言が大きな波紋を呼んでいます。

国交省ホームページより一部転載
http://www.mlit.go.jp/page/kanbo01_hy_001129.html↓
 「今後、八ッ場ダムの検証を進める中で予断を持たずに、また情報公開を図りながらできる限り最新のデータ、あるいは科学的、技術的知見、こういったものを用いたものを徹底的に点検を行うということで開示をしてまいりたい」

 八ッ場ダムの是非に関わるこの発言の背景は、以下のブログを読むとよくわかります。

 まず、衆議院予算委員会(10月12日)での質問により、大臣発言の直接のきっかけとなった自民党の河野太郎衆院議員のブログ「ごまめの歯ぎしり」より。

★ 2010年10月15日 「拝啓 馬淵国土交通大臣殿」より一部転載
http://www.taro.org/2010/10/post-822.php
―つまり、道路もダムも、国土交通省の役人がこれまでやってきたことは、全く信用がおけません。その中で予断を持たずに再検証するためには、様々な意見や立場を持つ人間を入れての検証が必要です。御用学者と役所のOBに偏らない再検証が必要ですし、きちんと公開された場での検証が不可欠です。

★ 2010年10月14日 「河川局の犯罪」より一部転載
http://www.taro.org/2010/10/post-821.php
―問題は、今まで押し通してきた論理の一つを苦し紛れに全く変えてしまったことで、今度は他のつじつまが合わなくなってくる。それを隠すために、国土交通省は徹底的に資料隠しにくるだろう。馬淵大臣がいかにこれを是正するか、民主党の政治主導が問われる。

★ 2010年10月1日 「隠される八ッ場ダム情報」より一部転載
http://www.taro.org/2010/10/post-815.php
―本会議で、馬淵新大臣に直接、データ開示のお願いをしたから、データは出てくると思うが、大臣の判断を課長がひっくり返したりするのが政治主導の内閣で平気で行われるということに、びっくり。
よっぽど自民党時代にでたらめな数字を作ったのか(でも、それならば民主党は喜んで出すはずだ)、八ッ場ダムの建設中止にとって著しく不利な数字なのか(それならば民主党政権は必死で隠すだろう)、どちらかのはずだ。
—転載おわり—

 ダム計画を正当化してきた「基本高水」が揺らぎだしています。国交省河川局はこれまで、ダムの必要性を主張する際、必ず「基本高水」を理由にしてきました。「基本高水」こそ、一般の人々がダム問題を理解する上で大きな壁になってきた治水工学の専門用語です。

 河野太郎氏は昨日15日のブログで、この「基本高水」に関する馬淵大臣の発言について、重要な指摘をしています。
 「河川局長がどんな説明をしたかわかりませんが、八斗島の基本高水毎秒22000トンは観測値ではありません。計算値です。」
 国交省は利根川の治水基準点(群馬県伊勢崎市八斗島(やったじま))における想定洪水流量を毎秒2万2,000立方mと定め、河道整備で毎秒1万6,500立方m、上流のダム群で5,500立方m対応という机上の治水計画を立てました。すでにある利根川上流のダムでは、毎秒1,000立方㍍しか調節できないので、毎秒600立方㍍もの調節効果がある八ッ場ダムを建設する必要がある、というのが国交省の主張です。
これに対して、そもそも最初の2万2,000立方mという数字―つまり「基本高水」そのものが過大に設定されているのではないかという疑問が投げかけられてきました。

 疑問が起こる理由は、主に以下の二点です。
① 計算根拠となる資料(流域分割図、流出モデル図)を国交省が非開示。
② 過去の洪水流量がこの数値よりはるかに少ない。

これまで国交省は情報公開を拒むことで、「基本高水」という聖域に一般の人々が踏み込むことを許しませんでした。どのような計算によるものなのかわからないまま、「基本高水」という数字が絶対のものとして、一人歩きしてきたのがこれまでのダム行政です。

衆院予算委員会における河野太郎議員の質問は、この「基本高水」の数字を導き出す定数の一つである「飽和雨量」に関するものでした。
この「飽和雨量」が過大に(48㎜)、そして「一次流出率」が過少に(0,5)設定されていることにより、「基本高水」が過大な数字となっていることを専門家の立場から最初に指摘したのが関良基拓殖大学准教授(森林政策学)です。

「通常、森林土壌の飽和雨量は平均すれば130㎜程度あり、一次流出率は0.3程度であるから、(国交省が設定している飽和雨量と一次流出率は)森林の機能を全く無視したパラメータなのだ。」(関良基、『林業経済』Vol.63.No.3、2010年6月)

関氏の見解は、森林水文学の立場で国交省の『今後の治水対策のあり方に関する有識者会議』の委員になっている鈴木雅一氏(東京大学大学院農学生命科学研究科教授)にも支持されました。

「この事例の一次流出率、飽和雨量は、鈴木の知るハゲ山の裸地斜面の流出より大きい出水をもたらす。一般性をもつ定数ではないと思われる」(第四回「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」配布資料、2010年2月8日)

国交省の設定した飽和雨量と一次流出率の数値では、利根川上流の森林がはげ山より荒れた状態であることが想定されているというわけです。10月12日の予算委員会で河野太郎議員が馬淵大臣から引き出した正確な飽和雨量の数値は次のようなものでした。

1957年 31.77ミリメートル
1959年 65ミリメートル
1982年 115ミリメートル
1998年 125ミリメートル

関良基さんは下記のブログで、利根川上流の森林の保水力がこの数十年の間に飛躍的に向上し、ダムよりはるかに大きな治水効果を発揮していることを立証しています。

★ 関良基さんのブログより
八ツ場ダム建設: 国交省による審議会資料捏造問題 その1
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/7f66a9a9ad8f05e3eaa33ecfe147d39c
「その2」、「その3」、「その4」と続きます。
 
 これら一連の流れを、ブログの連載記事でわかり易く解説しているのがジャーナリストのまさのあつこさんです。

ダム日記2
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-1a8a.html
「国交省か河川局の操作・捏造を疑っていたら、別の扉の次の扉が開いた」

 15日現在、連載記事が15までアップされており、このあとも続きそうな勢いです。

 「専門家」による数字の説明は、一見説得力がありますが、一旦信頼を失えば、その数字は何の意味も持ちません。河川局が繰り出す数字は、今後、厳しい国民の視線にさらされることになるでしょう。