八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

川原湯の地域振興めざす群馬県のワークショップ

 八ッ場ダム予定地では、「生活再建事業」と呼ばれるダムの付帯工事が延々と続いており、地元の人々はダム計画と生活が不可分の状況にあります。特に多くの問題を抱えているのが、かつて地域の核として栄えた川原湯温泉です。先頃、共同湯、王湯に隣接する大型旅館の解体作業も始まりました。この旅館は、かつて「川原湯といえば敬業館」といわれるほど有名でしたが、戦後、経営者が地元の有力者から土建会社に交代し、最近では飯場として使用されていました。
 不況の時代、ただでさえ温泉観光業はどこも苦戦を強いられているといわれていますが、解体風景が当たり前になってしまった、工事現場に取り囲まれた水没予定地で観光業を営み続ける川原湯の人々の苦労は並大抵ではありません。
 八ッ場ダム計画では、ダムによる地域振興が計画当初から国、県によってアピールされてきましたが、ダム計画の実態は「川原湯つぶし」ともいえる惨いものです。水没予定地の生活再建・地域振興には地元の群馬県が深く関与しており、リゾート法によるダム湖観光などを提唱してきましたが、実際にはまだ何一つ実現していません。

◆2010年12月2日 朝日新聞群馬版より転載
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581012020002

 住民 見直し開始 川原湯に計画の観光拠点

 八ツ場ダム建設の見返りとして、長野原町川原湯地区に計画された観光拠点が採算面の不安から白紙に戻った問題で、地元住民らによる見直し作業が始まった。何度も振興策の見直しを迫られた住民には不満がくすぶり、スポンサーの関係都県の出資にも不安を抱えたままのスタートとなった。

 「何十年やってきてこの状態なのに、4カ月で決めると言われても」「いつも住民が決めたあとに計画が変わってしまう」

 11月30日夜、同地区で開かれた「地域振興施設検討ワークショップ(WS)」の初会合。5回の議論を経て、3月末には住民らで計画をまとめる予定だが、行政への不信と不満が住民らの言葉からにじみ出た。

 背景には、地域振興と引き換えにダムを受け入れて以来、25年たっても振興策が定まらない現状がある。

 1992年に県が示した素案では、川原湯地区に公社運営の観光会館を建てるはずだった。だが全国で失敗が相次いだ公社による観光事業に関係都県が及び腰に。2008年の見直し案では、健康をテーマとしたダイエットバレー構想の中核施設「エクササイズセンター」が計画された。ところが採算面で厳しいことがわかり、計画は消えた。

 隣の川原畑地区や林地区で地域振興策が着々と進む一方で、温泉街のある川原湯地区の遅れが目立つ。

 会合で、住民からコンサルタントに対し、「下流都県の金がなくてもできるのか」との声が上がった。

 「私たちは利水、治水にメリットがあるからダムという買い物をする。品物もらわずに金払うバカがいるかね」――。11月上旬、東京都の石原慎太郎知事の発言が報じられ、町には不安が広がった。今年度のダム関連予算の負担金留保にとどまらず、ダムの中止撤回が決まらなければ出資しないという意味で受け止めた住民は少なくなかった。

 住民らは出資があるという前提で観光を軸とした計画をまとめ、12年度に施設の建設に入り、13年度には利用できるようにするのが目標だ。(菅野雄介)

◆2010年12月1日 毎日新聞群馬版より転載
http://mainichi.jp/area/gunma/news/20101201ddlk10010207000c.html

八ッ場ダム・流転の行方:川原湯地区、振興施設のWS開始 /群馬
 ◇来年3月までに結論
 八ッ場ダム問題を巡り、水没予定地の長野原町川原湯地区で30日、移転代替地に建設する地域振興施設の検討ワークショップ(WS)が開かれた。川原湯地区ダム対策委員会の常任委員約20人が参加し、建設コンサルタントを進行役に今後のWSの進め方などについて協議した。県と国土交通省八ッ場ダム工事事務所の職員もオブザーバー参加した。

 冒頭、ダム対策委員長の樋田洋二氏が「ダム問題で追いつめられているが、皆さまの声を聞いて川原湯の観光をつくっていかなければならない」とあいさつ。来年3月までにWSを5回程度開き、どのような施設にするかの結論を出すことで合意した。

 WSは、県が今年3月に見直しを決めた地域振興施設「エクササイズセンター」の代替案を考えるために開催。同センターは、フィットネスルームを柱に▽レンタル自転車▽周遊バス▽足湯▽テナントスペース--などの設置を予定したが、採算性が疑問視され、県は地元住民に必要な施設について提案を求めている。

 県はWS開催を前に7月下旬、川原湯地区の49世帯を対象に、地域振興に必要な施設を尋ねるアンケートを実施(23世帯回答)。

 振興施設を考える上で必要な視点(複数回答)について「客が何度も来たくなる」(15世帯)、「地域の資源を上手に活用できる」(13世帯)などの回答があった。自由記述欄には「(伝統行事の)湯かけ祭りをいつでも実演できる環境整備」「わっぱめしなどを作って食べる田舎料理道場」「ダム建設中止の場合、10分の1くらいの大きさのミニ八ッ場ダムを造って河川公園にする」などの意見が出た。【奥山はるな】