八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

付替え国道の開通

 八ッ場ダム事業の最大の目玉である付替え国道が開通しました。
 現在の国道は、吾妻渓谷の川沿いの道を走り、ダム予定地の集落内ではいくつも信号があるため、付替え国道の開通で上流の草津温泉などへの交通の利便性は飛躍的にアップすることになりました。周辺町村では、ダム事業により付替え国道が完成することが期待されてきましたので、開通のニュースは明るい話題です。けれども、この付替え国道には多くの問題があり、群馬版の新聞では辛口の記事が目立ちます。
 主な問題点は以下の通りです。
 
○付替え国道の下流部1.4キロの工事の見通しが立っていない。
 下流部1.4キロ区間には現在のJR吾妻線と交差する箇所がある。JR吾妻線の用地買収(川原湯温泉の新駅周辺)のメドが立っておらず、鉄道の付替えが終了しないと、付替え国道も完成しない。

○付替え国道の予算は残りわずかとなっており、残事業費で完成するかどうか不明。
 そもそも、付替え国道は四車線を予定して国、関係都県の予算が組まれているが、完成しているのは二車線のみであり、計画が杜撰であったことは明らかである。

○付替え国道は地形地質の面から見ると悪条件の中で建設しているため、今後、災害の危険性に見舞われる可能性があり、維持管理費も莫大になることが予想される。
 現在の国道は狭い渓谷内を走っているため、災害に弱いといわれ、連続降雨120ミリになると通行停止になる。大雨の時など上流町村が陸の孤島となってしまうため、より利便性の高い道路が求められてきた。しかし、まだ周辺工事が完成していないためか、付替え国道も連続降雨120ミリで通行停止となる。
 付替え国道は今春から暫定開通が始まったが、吾妻渓谷に近い川原畑地区は地質が脆い場所を通るため、雨が降った9月、11月と二度も落石事故が発生している。
 この他、川原畑地区の代替地周辺では法面崩落が続いており、その対策工事のためにアンカーボルト工が実施されている。また、周辺の松葉沢付近では、地滑りの対策工事が未だに行われており、そのため工事現場では道路が迂回している。周辺の地質条件から見て、アンカーボルト工法、抑え盛土工法などが最終的な解決になるか疑問との専門家らの指摘がある。

○付替え国道の開通により、現国道が通っている吾妻川右岸にある川原湯温泉に立ち寄る観光客が減少する。
 これは現在の温泉街が移転する予定の川原湯地区の打越代替地にも共通する問題である。打越代替地のライフラインとなる付替え県道は未だに未完成で、現在の温泉街より更にアクセスが悪いという問題を抱えている。

○付替え国道の開通により、現国道をどうするのか、という問題が生じる。ダムに沈むのであれば仕方がないが、ダムを造らない場合、水没予定地に住み続けたい住民にとって、現国道は必要なライフラインである。また、現国道は名勝・吾妻渓谷の中を走り、国の天然記念物・川原湯岩脈を間近に見ることが出来る優れた観光道路である。八ッ場ダム計画はこれらの貴重な自然遺産を沈めることになるが、ダムができないのであれば、現国道を有効に活用することは地域の再生にとって重要なポイントとなる。
 

◆2010年12月20日 読売新聞群馬版より転載
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/gunma/news/20101219-OYT8T00725.htm

 ー付け替え国道145号開通 9割近く完成残り区間、事業に遅れー

 八ッ場ダム建設予定地の長野原町で19日、生活再建事業で建設中の付け替え国道145号のうち、雁ヶ沢ランプ(東吾妻町)と長野原めがね橋(長野原町)をつなぐ9・4キロ区間が開通した。水没予定地の住民が移転する代替地同士の交通の便が向上し、草津方面への移動時間も短縮される。八ッ場ダム関連事業による国道整備は、今回の開通で予定の87%が完了した。

 ただ、国道と交差するJR吾妻線を付け替える工事は、用地買収が難航し、「今年度中」だった完了目標の達成は絶望的。JR工事が終わらないと、国道の残り区間1・4キロも工事できないため、ドミノ倒しでの事業の遅れが懸念されている。

 国道145号の付け替え工事は、国と県が分担して施工。1996年3月に着手し、2001年1月、横壁地区と長野原地区を結ぶ長野原めがね橋部分(0・6キロ)だけが完成していたが、今年になって雁ヶ沢ランプから西側で順次、暫定供用が始まり、横壁地区の1・3キロ区間が残っていた。

 同日は、現地で開通式が開かれ、自治体関係者や地元住民の代表ら約100人が出席。記念のテープカットや渡り初めも行われた。

 大沢知事は式典で、ダム建設の可否を判断する国の再検証作業について「ダムの必要性が確認され、(凍結中の)ダム建設が早期に再開されると確信している」と呼びかけ、水没関係5地区連合対策委員長の萩原昭朗さんは「中止表明で住民は不安にさいなまれ、開通も喜び半分。ダム湖を眺める日が早く訪れることを願っている」と訴えた。

(写真)付け替え国道145号の開通を祝い、テープカットする大沢知事(中央)ら

◆2010年12月20日 朝日新聞群馬版より転載http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581012200003

 ー八ツ場バイパスが開通ー

県管理の国道として開通した八ツ場バイパス。一部区間は暫定整備のため、急カーブがある=長野原町横壁

 八ツ場ダム(長野原町)の建設で水没予定の国道145号の付け替え道路として建設されていた八ツ場バイパスのうち、東吾妻町松谷~長野原町長野原の約9・4キロが19日、開通した。吾妻郡を東西につなぐ交通軸として期待が大きい一方で、当面はバイパスのルートから外れる川原湯温泉街には懸念の声もある。

 開通区間のうち約8・1キロは町道として部分的に利用されていたが、工事が遅れていた同町横壁地区の区間が通れるようになり、国道145号として利用可能になった。

 この日、開通式に出席した大沢正明知事は「吾妻の交通軸が大幅に強化される。来年の群馬DC(デスティネーション・キャンペーン)にも大きな波及効果が期待される」などと述べた。

 祝賀ムードの一方、今回の開通でバイパスを利用する車が増えることから、当面は従来の国道145号にアクセスを頼る川原湯温泉街では「ますます客が来なくなる」と心配する声も出ている。

 八ツ場バイパスは渋川市~長野県東御市を結ぶ延長約80キロの上信自動車道の計画の一部。国は、渋川~草津間の移動時間が3分の2になり観光客が45万人増えるといった効果を試算しているが、大半の区間はまだ調査段階で建設のメドが立っていない。