八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

八ッ場ダム受益者による国会質問(衆院予算委員会)

2011年2月4日
 本日、衆議院予算委員会で自民党の佐田玄一郎議員が大畠新国交大臣を相手に八ッ場ダムをテーマに59分の質疑を行いました。質疑の内容は、衆議院TVで見られます。

 衆議院TVビデオライブラリ
 http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php

 画面左側の二月のカレンダーで2月4日をクリック→予算委員会をクリック→佐田玄一郎(自由民主党・無所属の会)をクリック

 八ッ場ダムを推進する自民党は、衆議院では佐田議員ら群馬県選出の議員らがたびたび八ッ場ダム問題を取り上げ、参議院では元河川官僚の脇雅史議員が執拗にこの問題を取り上げ、馬淵前大臣の首のすげ替えに成功しました。
(参議院における馬淵前国交大臣の問責決議は、「尖閣問題」と共に八ッ場ダムの混迷の責任を問われたものです。)

 本日の国会質疑も、ダム問題の構図と推進側の意図が透けて見える内容でした。
 佐田議員は、民主党政権がダム本体工事を凍結しているために国交省が工期延長の可能性を公表したと攻め立てましたが、八ッ場ダムを再開した場合、工期が延長される可能性があるのは、ダム本体工事の凍結のためではなく、ダム関連事業が膨大で、終わる見通しが立っていないからです。工事が遅れているJR線予定地周辺で関連会社が工事を請け負っている佐田議員であれば、当然そうした事情は知っているはずです。八ッ場ダムはすでに9割完成していると言い切っていましたが、ダム本体工事にはまだ着工しておらず、ダムの関連工事が延々と続けられてきただけです。

 八ッ場ダムは関連工事費が全事業費の9割以上という、他に例のない特異なダム事業です。こうした実態は、ダムそのものの必要性がうやむやのまま、ダムの関連事業そのものが自己目的化して肥大化してきたことを示しています。杜撰なダム計画は21世紀に入ってから、工期の延長と事業費の増額を三度繰り返し、関係都県はこれ以上の計画変更を受け入れられないと、前回2008年の計画変更の際、国交省に申し入れをしました。 
 行き詰った八ッ場ダム計画を推進し続けるためには、国交省が責任逃れをしつつ、ダムの計画変更を関係都県に認めさせる仕掛けが必要です。佐田議員の質疑は、ダム建設の再開と計画変更を念頭に、すべての責任を民主党政権に押しつけてダム推進を図る国交省河川局のシナリオを自ら告白したようなものでした。

 佐田議員は、半世紀以上のダム計画で地元住民を苦しめ続けてきたと、これもあたかも民主党政権のせいのように言い募っていましたが、地元住民を犠牲にして、利益を享受してきたのは政官財の利権構造であり、佐田議員もその恩恵に浴してきたことは国会などでも明らかにされてきたことです。八ッ場ダム計画は、関係都県の住民が受益者とされ、納税者としてダム事業に支出をしてきましたが、八ッ場ダム計画によって関係都県住民は何一つ利益を得るところがありません。こうした推進側による論理のすり替えによる責任転嫁は、地元住民と関係都県住民の対立の構図という、現実から遊離した不幸な関係性を生み出す原因でもあります。
 
 佐田議員はまた、裁判で治水、利水上、八ッ場ダムの必要性は証明されていると主張していましたが、八ッ場ダムの必要性については、これまで国交省が主張してきた必要性の科学的根拠が明らかにされていない、データが不明など、まだ何一つ証明されていません。現在、データの情報公開を求める裁判が始まっています。
 ダムを造らないで洪水が起こったら、民主党政権は責任を取るのかと佐田議員は言いましたが、国交省のこれまでの説明がいい加減であることが明らかになった今、利根川の洪水を八ッ場ダムによって防ぐことができると、どうやって証明するのでしょうか? 
 佐田議員は、ダム湖ができなければ地元住民の生活再建はできないと断言しましたが、ダム湖畔の代替地で川原湯温泉街が観光地として再生するかどうかは、代替地での誘客にかかっています。たとえどれほど税金を投入しようとも、観光客が代替地の温泉に魅力を感じなければ、国交省や関係都県が描いて見せてきた温泉街の再生は実現しません。”ダム湖観光”は行政が住民に約束してきたことですから、それが実現しなければ、その責任はダムを推進してきた佐田議員らにあることは言うまでもありません。
 八ッ場ダムはダム湖に水をはれば、地滑りの危険性があると地質の専門家らは指摘していますが、将来こうした事態が起これば、これも推進側の責任です。これまで全国のダムを抱える地域が地滑りや過疎化に悩まされてきましたが、ダムを推進してきた政治家や官僚が責任をとったという話を聞いたことがありません。
 
 このように、佐田議員の質問には説得力がなく、論理のすり替えと責任転嫁が随所で見られますが、民主党政権の国交大臣が、ダム推進を目指す河川官僚らのお膳立てで動けば、こんなお粗末な質疑でも成り立ってしまいます。
 本日の予算委員会での質疑は、八ッ場ダム問題が河川官僚主導で泥沼化していることを示していました。

 マスコミの速報は以下の通りです。まるで、ダム建設の再開が規定路線のようです。↓

◆時事通信 2月4日(金)10時34分配信

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110204-00000039-jij-pol

 -八ツ場ダム、18年に完成見通し=建設再開の場合-大畠国交相―

 大畠章宏国土交通相は4日午前の衆院予算委員会で、八ツ場ダム(群馬県長野原町)建設の是非について「秋までに検証を進める。コスト、実現性、環境への影響を検証して結論を出す」との方針を示した。その上で「もし建設を進めるという判断になった場合は2018年をめどにダムを完成させたい」と述べ、建設再開の場合、完成は現行計画より3年遅れの18年になるとの見通しを明らかにした。自民党の佐田玄一郎氏への答弁。

 八ツ場ダムをめぐっては、民主党は09年衆院選マニフェスト(政権公約)に建設中止を明記。しかし、馬淵澄夫前国交相が昨年11月に中止方針の棚上げを表明し、事業の必要性について検証が行われている。

 —転載終わり— 

★1月14日、大臣交代の間隙を縫って国交省が公表した八ッ場ダムの工期延長と事業費増額の可能性については、以下に詳細情報と当会の分析を掲載しています。
 ↓
https://yamba-net.org/wp/modules/news/index.php?page=article&storyid=1126

★佐田議員の質問については、例によってジャーナリストのまさのあつこさんがブログ「ダム日記」で、本質を突いた批判を綴っています。
  ↓
http://dam-diary2.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/post-74f6.html
 「八ツ場ダム受益者 国会質問に立つ」