どさくさに紛れ、なおざりにされる八ッ場ダムの検証

 政局がおとずれるたびに、八ッ場ダム問題は忘れ去られます。
 菅首相の退陣が取り沙汰される中、日本学術会議が「利根川の治水」について、八ッ場ダム計画に差しさわりのない方向で結論をまとめる意向であることが明らかになってきました。

 民主党は2009年の総選挙のマニフェストで八ッ場ダム中止を掲げましたが、自民党が実権を握る関係都県やダム予定地の反発を受け、政権発足の一ヵ月後には前原誠司国交大臣が全国のダム事業と共に八ッ場ダムの検証を行うという方向に舵を切りました。
 この時、前原大臣の私的諮問機関として設置された有識者会議は、これまでダムに疑問を抱いてきた有識者が排除されるという、問題の多いものでした。こうして民主党政権下のダム検証は、それまでのダム行政を踏襲するものとなってしまいました。今や民主党政権下で、全国の問題の多いダム事業が改めて承認され、推進されつつあります。

 八ッ場ダムの検証においては先ず、ダム計画の二大目的である「利水(都市用水の補給)」と「治水(利根川の洪水調節)」の妥当性が検証されるはずでした。けれども、当初から危惧された通り、これまでの八ッ場ダムの検証は、表面的な確認作業に終始しています。さる5月24日、国交省関東地方整備局は八ッ場ダムの「利水面」の検証において、現実から乖離した従来の水需要予測や水利権許可行政の問題には触れず、八ッ場ダムの「利水目的」は妥当だとの結論を導く方向性を示しました。
 そして6月1日、国交省関東地方整備局より利根川治水の検証を委ねられていた日本学術会議は、これまで八ッ場ダム計画の根拠とされてきた利根川治水の数値が概ね妥当であることを示唆する報告を行いました。

 利根川治水の数値は、全国の他の河川と同様、ダム計画にとってきわめて都合がよいとされる「貯留関数法」によって導き出されています。学会では、ダム計画に都合の悪い研究は冷遇され、この分野は政治的に歪められてきたといわれます。大学の教員が国策にとって都合の悪い研究をすると、研究費を削られ、教え子の就職に差し障るともいわれます。
 貯留関数法の問題点については、外部から要望書が提出されましたが、日本学術会議はこうした意見にまともに応えずに結論を急ごうとしているように見えます。

★昭和22 年洪水のような二山洪水にも対応できる貯留関数法の計算方法について(要望書)
http://yambasaitama.blog38.fc2.com/blog-entry-1017.html

 日本学術会議は6月8日、13日と、あと2回の会議で見解をまとめることになっています。
 ”学者”が政治的な配慮により、真実を歪める時、”学者”の権威は行政に悪用され、マスコミはそれを表面的に伝えるだけです。難しい「専門用語」が一般の人々の理解を妨げ、誤った国策が推進されるとき、その悪影響は計り知れません。

◆2011年6月2日 東京新聞群馬版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/gunma/20110602/CK2011060202000143.html

 -八ッ場ダム基本高水検証 建設是非に影響せず―

 八ッ場(やんば)ダム建設の根拠となっている利根川の最大流量(基本高水)を検証する有識者会議が一日、東京都内で開催された。国土交通省は、検証作業の最大の焦点となっている一九四七年のカスリーン台風並みの雨が降った場合の最大流量について「新たな手法で再計算して、従来の値とほとんど変わらない」との試算を提示。検証内容が、ダム建設の是非に影響しないとの立場を強くにじませた。 (中根政人)

 ダム建設推進の要因となった治水基準点・八斗(やった)島(伊勢崎市)の最大流量について、国交省は、森林の保水力を示す「飽和雨量」を、これまでの四八ミリから一三〇~二〇〇ミリに引き上げて計算しても、従来値の毎秒二万二千立方メートルとほぼ同じ毎秒約二万一千百立方メートルになるとした。

 一方、有識者会議委員長の小池俊雄東大教授も、同会議で試算した八斗島の最大流量のデータなどを基に、国交省が示した基本高水の新たな計算手法について「システム面の妥当性が理解できた」と好意的な評価を示した。同会議は、今月中旬ごろをめどに検証内容の取りまとめを行う方針。

◆2011年6月4日 朝日新聞群馬版
http://mytown.asahi.com/gunma/news.php?k_id=10000581106040001

 -政局迷走 ダムどうなる―

 八ツ場ダムが完成すれば全戸が水没する長野原町川原湯地区で3日夜、対策委員会が開かれた。国や県の担当者が今後の生活再建策について住民らに説明したが、民主党政権のドタバタが続いているだけに、住民からは政治への不満の声が上がった。

 対策委には、地区代表約25人が参加した。地域振興施設については2014年春のオープンを目指す方針が示され、神社・墓地の移転といった関連事業の進み具合の説明もあった。

 ただ、ダム関連のトンネル工事について国交省の担当者が「本体工事と関係が深いので、今秋に検証結果が出るまで時間をいただきたい」と言うと、住民は「そんなことでは、いつになってもできない」「国交省は首相の答弁と同じで意味が分からない」と一斉に反発した。

 川原湯地区で飲食業を続けている水出耕一さん(56)によれば、川原湯温泉は今年に入り、観光客が激減しているという。大震災でガソリン不足が起き、近くを走るJR吾妻線も長期運休。さらに、国道145号の付け替え道路として八ツ場バイパスが建設されたため、観光客が地元を通過してしまうという「トリプルパンチ」だ。

 政権交代当初は姿を見せた国会議員は、現地に来なくなった。

 水出さんは取材に対し、「高齢化していく私や旅館主には時間がない」と訴え、「国政の場で八ツ場の話が出なくなった。国交省では副大臣も政局絡みで辞表を提出した。民主党政権は、住民に約束した生活再建策を速やかに実行すべきだ」と訴えた。

 八ツ場ダムの最近の動きをめぐっては、国交省はダム中止の場合の利水対策をようやく先月24日に示した。関係6都県が八ツ場ダム開発で必要とする水道水、工業用水の毎秒約22立方メートルは「妥当」とし、代替案4案と、建設続行を加えた案だ。

 代替4案の一つは、静岡県の富士川から約200キロの導水路を建設して利根川に運び、八ツ場ダムを開発した場合の約9割を確保し、残り約1割を地下水などで充当するというもの。残り3案は、発電用の既存ダムからの買い上げを中心に、ダムの再開発などで補うとした。

 群馬を含む都県側はそろって「非現実的だ」と批判。地元住民の多くも「荒唐無稽だ」と反発している。(小林誠一、泉野尚彦)

 「八ツ場」が、永田町から遠のいていく――。八ツ場ダム建設の推進派も、見直し派も、政治の混迷に焦りを募らせている。

 「菅内閣に不信任案を出した野党の思いは分かる。でも解散になったら、八ツ場がまた忘れ去られてしまう」

 長野原町の住民代表でつくる水没関係5地区連合対策委員会の篠原憲一・事務局長(69)は、政局の行方を注視してきた。

 民主党政権が誕生し、国土交通相だった前原誠司氏は2009年9月、ダム本体工事の中止を表明。次の国交相の馬淵澄夫氏が昨年11月に中止方針を棚上げし、今年秋までに検証結果を出すと軌道修正した。本来は作業の大詰めの時期だ。

 政権交代から2年もたっていないのに、国交相は今の大畠章宏氏で3人目。篠原さんは「4人目になったら、また議論のやり直し。不信任案否決にはほっとしている」と話す。

 国交省は「東日本大震災の復興とダム問題は、担当者が別なので影響ない」としているが、地元には、秋に結果が出るのか不安視する声が強い。

 ダム見直しを掲げる市民団体「八ツ場あしたの会」の渡辺洋子・事務局長も、「危機感を覚える」と今の民主党が不満だ。

 渡辺さんは政権交代時、「一度決めたら止まらない公共事業が止まるかも」と期待していた。

 だが、国土交通省と利根川流域の6都県でつくる「検討の場」は5月25日に開かれるまで4カ月近く開かれなかった。

 渡辺さんは「必要性の検証をせず、震災後もダム予定地では関連工事が続く。政治家の八ツ場への関心が薄れ、官僚の思うままになっていると感じる」と指摘する。(木村浩之、小林誠一)

(写真)生活再建策について国と話し合う対策委員会の幹部たち=長野原町川原湯