八ッ場あしたの会は八ッ場ダムが抱える問題を伝えるNGOです

大滝ダム地すべり裁判

 わが国にはすでに2,700基以上のダムがあります。ダムの適地とされるところは殆ど残されておらず、現在、建設中あるいは計画中のダムは、八ッ場ダム予定地に代表されるように地質条件が悪いところが多いといわれます。
 近年、ダムによる災害として注目されてきたのが、国交省近畿地方整備局が建設した大滝ダム(奈良県)周辺の地すべりです。ダム湖貯水により地すべり災害が引き起こされ、地元住民は緊急移転を余儀なくされました。プレハブの仮設住宅に押し込められた住民の中には、命を縮めるなどの悲惨なケースもあったといわれます。
 国に賠償を求めてきた住民に対して、これまで司法は行政寄りの判決を下してきましたが、このほど逆転勝訴の判決が下されました。この判決に関しては、被害者住民の生活と生業に焦点を当てたことはこれまでこの種の訴訟にはなかった新しい観点だとして、評価する声があがっています。

 大滝ダムの地すべりは以前から警告されてきたにも関わらず、国土交通省は地すべりは予見できなかったと主張してきました。裁判所は国に賠償命令を下しましたが、犠牲はお金で償えるものではなく、その金額もわずかなものです。 
 ダム湖周辺やダム本体予定地の地質のもろさが顕著な八ッ場ダムの場合、少なくとも現在の事業費の範囲内で安全性を確保するのは無理だとされています。

 今回の裁判において、災害地形学の専門家の立場から原告・弁護団をサポートした奥西一夫京都大学名誉教授が御自身のホームページで判決についてのコメントを公表しておられます。
 ↓
http://hb4.seikyou.ne.jp/home/Kazuo.Okunishi/shiraya/comment.html

 判決文も掲載されています。↓
http://hb4.seikyou.ne.jp/home/Kazuo.Okunishi/shiraya/judgment.pdf
 (1ページ目の控訴人の住所氏名は黒塗りになっています。)

 関連記事を転載します。

◆2011年7月13日 日本経済新聞より転載
http://www.nikkei.com/news/latest/article/g=96958A9C93819695E3E1E2E1E48DE3E1E2E5E0E2E3E39191E3E2E2E2

 -元住民側が逆転勝訴、国に賠償命令 奈良・大滝ダム訴訟控訴審-

 奈良県川上村の大滝ダムの試験貯水で起きた地滑りで住居移転を強いられた同村白屋地区の元住民らが、国に慰謝料など計約9千万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は13日、請求を棄却した一審・奈良地裁判決を変更し、国に計1200万円の支払いを命じた。

 判決理由で松本哲泓裁判長は「岩盤が経年変化で風化し、軟化して地滑りが起き得ることは地質学の一般的な知見」と指摘。「地滑りを予見できたのに、十分な危険防止措置をとらなかった」として、一審に続き国のダムの設置・管理に瑕疵(かし)を認めた。

 さらに一審判決が退けた慰謝料請求について「地滑りの恐怖や、仮設住宅での不自由な生活など精神的な損害が補填されたとは認められない」と述べた。

 判決によると、大滝ダムは1988年に本体工事に着手。2003年3月の試験貯水後間もなく地滑りが発生、同地区の家屋の壁や地面に亀裂などが見つかり、全37世帯が仮設住宅に一時移転し、その後、同県橿原市や県外などに移転した。

 07年に元住民30人が計約2億1千万円を求め提訴。一審敗訴の元住民のうち12人が控訴した。

 上総周平・国土交通省近畿地方整備局長の話 国の主張が認められず、誠に残念。判決内容を慎重に検討し、対処したい。

◆2011年7月13日 朝日新聞社会面より転載
http://www.asahi.com/national/update/0713/OSK201107130129.html

 -奈良のダム試験貯水で地滑り、国に賠償命令 大阪高裁-

 奈良県川上村の大滝ダムの試験貯水が原因で発生した地滑りで移転を余儀なくされたとして、同村の元住民ら12人が国に慰謝料などを求めた国家賠償請求訴訟の控訴審判決が13日、大阪高裁であった。松本哲泓(てつおう)裁判長は、一審・奈良地裁判決が退けた移転に伴う元住民の精神的損害を認定。国に対し、1人当たり100万円を賠償するよう命じる判決を言い渡した。

 控訴審判決によると、国が大滝ダムへの試験貯水を始めてから約1カ月後の2003年4月、同村白屋(しらや)地区の家屋の壁や地面などに多数の亀裂や崩壊が見つかり、全37戸(計77人)の住民が村内のプレハブの仮設住宅に一時移転。その後、村内外へ移住した。昨年3月の一審判決は「国は地滑りを予見できた」としてダムの設置・管理に瑕疵(かし)があったと指摘したが、移転で生じた財産上の損害は補償され、精神的損害は認められないと判断した。

◆2011年7月14日 毎日新聞東京朝刊より転載
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20110714ddm012040079000c.html

 -奈良・大滝ダム損賠訴訟:地滑りは国に過失、賠償命令 住民側が勝訴-大阪高裁-

 奈良県川上村の大滝ダムの試験貯水によって起きた地滑りで集団移転した同村白屋地区の元住民12人が、ダムを管理する国に約9000万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、大阪高裁は13日、請求を棄却した1審・奈良地裁判決を変更し、慰謝料など1200万円の支払いを命じた。松本哲泓(てつおう)裁判長は「ダムは通常有すべき安全性を欠き、設置または管理に瑕疵(かし)があった」と国の過失を認めた。ダム建設を巡り、国に賠償を命じる判決は初めて。【坂口雄亮】

 判決は、ダム沿岸部の事前調査で岩盤の緩みが確認され、試験貯水から約1カ月で地滑りが起きたことなどから護岸が安全性を欠いていたと認定。水位変動で周囲の地層岩盤に浮力が生じ、地盤の安定度に影響を与える可能性を把握することはできたと指摘し、予見は可能だったとした。

 また判決は「地滑りの起きる地層が特定できなくても、居住者を転居させることで安全を確保できた」と危険回避の可能性も認めた。その上で「住み慣れた住居を離れ、仮設住宅での不自由な生活を余儀なくされた」と精神的苦痛を考慮し、1人当たり100万円の支払いが相当とした。

 判決などによると、白屋地区では03年4月、家や道路に亀裂が見つかり、国の有識者委員会が地滑りは貯水が原因と断定。住民らは奈良県橿原市などに移転した。1審判決は、国の過失を認定したが「元住民らの恐怖心は生命や身体に差し迫っていない」として賠償請求を退けた。

 国土交通省近畿地方整備局の上総周平局長は「国の主張が認められず残念だ。関係機関と協議して対応したい」とコメントした。

◆2011年7月14日 毎日新聞大阪朝刊より転載
http://mainichi.jp/kansai/news/20110714ddn041040026000c.html
 -奈良・大滝ダム損賠訴訟:「古里・白屋を返して」 勝訴住民、笑顔なく

 「国は古里を返せ」。奈良県川上村の大滝ダムの試験貯水による地滑り訴訟。13日、記者会見した同村白屋地区の元住民らは、逆転勝訴の判決を評価しながらも国への怒りをあらわにした。

 地滑りで住み慣れた土地から移転を余儀なくされた無念さは今も消えない。

 原告の横谷圀晃さん(70)は「800年続いた山紫水明の白屋を追われたのが一番残念だ」と、望郷の念を吐露した。

 吉野川流域の山間にある白屋地区は、家屋が解体され、基礎の石組みや階段が残るだけだ。

 和気あいあいと暮らした山村を離れて移転した先は、廃校の校庭に建てられた仮設住宅だった。旧校舎に日差しを遮られ、なめくじも出た。

 電話が鳴れば隣家に響き、けんかに発展することもあった。

 移転後も住民票を残している井上兼治さん(67)は「人生で、古里を離れなければならないこと以上につらい思いはない。

 できることなら地区の原型に戻してほしい。国は私たちをこれ以上苦しめないでほしい」と上告断念を迫った。【苅田伸宏、高瀬浩平】