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日本学術会議、国交省の基本高水計算を容認

2011年9月3日
 ダム行政の見直しという、国民が民主党政権に期待した課題は、いつのまにか官僚に丸投げされ、一般の人々にはわけのわからない机上の数字の辻褄合わせで煙幕がはられてしまいました。

 まるで首相と国交大臣が交代するタイミングに合わせたかのように、利根川の「基本高水」を検証してきた日本学術会議は今月1日に開かれた幹事会の了承を得て、国交省の計算を妥当とする結論を国交省へ伝えました。
 日本学術会議の基本高水検証は、もとはといえば馬淵元大臣が八ッ場ダムの「治水」目的を検証するために指示したもので、そのきっかけを作ったのは、東京新聞特報部の記事、河野太郎衆院議員(自民党)による国会追及などでした。日本学術会議への依頼は、馬淵元大臣退任の日に国交省河川局長名で出されました。学術会議の検証は科学的・公明正大であることが期待されましたが、現地調査をすることも、実際の洪水との乖離という矛盾を説明することもなく、国交省の方針を追認する結果に終わりました。
 こうした経緯は、「治水」に関する学問が政治や行政の影響を強く受けるために、科学性を保つことが極めて困難であることを物語っているようです。

 今回の会議では、これまで同分科会が検証してきた「河川流出モデル・基本高水の検証に関する学術的な評価」の検証結果を了承し、国交省に伝えました。  今回の回答内容は6月20日の最後の会議で示された回答骨子案とほぼ同じです。

 日本学術会議のホームページには、これまでの議事や配布資料などの情報が掲載されています。↓
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/bunya/doboku/giji-kihontakamizu.html

 今回の回答と参考資料も掲載されています。http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/kohyo-21-k133.html

 回答は学術会議の幹事会の了承を得てから出すことになっていましたが、幹事会が開かれず、回答が延び延びになっていました。
 この回答が出されたので、9月5日の国土交通省の社会資本整備審議会河川分科会(第44回)で利根川の基本高水の審議についての報告が行われます。↓
http://mcaf.ee/vdgxk

 日本学術会議分科会の小池俊雄委員長(東京大学教授)は審議会河川分科会の委員でもありますので、小池氏が報告するものと思われます。
 国交省みずからによる八ッ場ダム検証は、ダム本体工事着工のための儀式と化しており、馬淵元大臣が指示した「基本高水」検証も結局は国交省に都合のよいように利用されただけで終わりました。
 なお、日本学術会議分科会はこれから、一般に対する説明会を開きますが、まだ日程は明らかにされていません。

 日本学術会議の回答の主なところは次のとおりで、国交省の基本高水の計算値を容認し、付帯意見をつけました。また、森林の生長による保水力の向上については否定的な見解を示しました。

●20ページ

5 結論

本分科会では、現行モデルについての十分な情報を得ることは難しかったが、モデルの内容の理解に努め、現行モデルに含まれる問題点を整理し、水収支に着目した有効降雨モデルに基づく貯留関数の新モデルの開発方法を推奨した。次に、新モデル、現行モデルの双方について、分科会自身でプログラムを確認し、動作をチェックし、基礎方程式、数値計算手法について誤りがないことを確認した。さらに、感度分析やシミュレーション結果の整理により、新モデルの物理的意味合いを検討した。その上で、観測データのない場合や、計画策定へ適用する場合に必要となるモデルの頑健性をチェックし、さらにそのような場合に適用したときの不確定性を評価した。これらの評価は、両モデルのみならず、分科会独自のモデルをも??!
?って実施した。その結果、国土交通省の新モデルによって計算された八斗島地点における昭和22年の既往最大洪水流量の推定値は、21,100m3/sの-0.2%~+4.5%の範囲、200年超過確率洪水流量は22,200m3/sが妥当であると判断する。

●21ページ

6 附帯意見

既往最大洪水流量の推定値は、上流より八斗島地点まで各区間で計算される流量をそれぞれの河道ですべて流しうると仮定した場合の値である。一方、昭和22年洪水時に八斗島地点を実際に流れた最大流量は17,000m3/sと推定されている[6]。この両者の差について、分科会では上流での河道貯留(もしくは河道近傍の氾濫)の効果を考えることによって、洪水波形の時間遅れが生じ、ピーク流量が低下する計算事例を示した。既往最大洪水流量の推定値、およびそれに近い値となる200年超過確率洪水流量の推定値と、実際に流れたとされる流量の推定値に大きな差があることを改めて確認したことを受けて、これらの推定値を現実の河川計画、管理の上でどのように用いるか、慎重な検討を要請する。

●18ページ

エ 洪水時の森林の保水力と流出モデルパラメータの経年変化

流出モデル解析では、解析対象とした期間内に、いずれのモデルにおいてもパラメータ値の経年変化は検出されなかった。戦後から現在まで、利根川の里山ではおおむね森林の蓄積は増加し、保水力が増加する方向に進んでいると考えられる。しかし、洪水ピークにかかわる流出場である土壌層全体の厚さが増加するにはより長期の年月が必要であり、森林を他の土地利用に変化させてきた経過や河道改修などが洪水に影響した可能性もあり、パラメータ値の経年変化としては現れなかったものと考えられる。しかしながら、人工林の間伐遅れや伐採跡地の植林放棄などの森林管理のあり方によっては、流出モデルのパラメータ値が今後変化する可能性も十分あることに留意する必要がある

 関連記事を転載します。

◆2011年9月2日 東京新聞総合面

 -国交省の再計算 学術会議「妥当」-

 日本学術会議は一日、都内で幹事会を開き、八ッ場ダム(群馬県)建設の根拠とされる利根川水系の最大流量(基本高水)について、国土交通省が再計算した数値は妥当とする同会議分科会の検証結果を妥当とし、国交省に伝えた。
 幹事会は「専門家の意見を聴いており問題ない」と説明。治水面でのダム建設の必要性を追認した形となった。
 従来の最大流量は森林の保水力を過小評価しているとの批判があったため国交省が再計算し、第三者機関の分科会が検証。六月に妥当との見解を明らかにしている。
 再計算した最大流量は、過去最大とされるカスリーン台風(一九四七年)時の同県伊勢崎市の基準地点での推定値で毎秒約二万一千百㌧、同台風を上回る二百年に一度の洪水時は毎秒約二万二千百㌧。従来の同台風の際の降雨量などから最大流量を毎秒約二万二千㌧と算出していた。

◆2011年9月2日 上毛新聞一面

 -利根川最大流量 国再計算は妥当ー

 日本学術会議は1日、都内で幹事会を開き、八ッ場ダム建設の根拠とされる利根川水系の最大流量(基本高水)について、国土交通省が再計算した数値は妥当とする同会議分科会の検証結果を了承し、国交省に伝えた。
 幹事会は「専門家の意見も聴いており問題ない」と説明した。
 従来の最大流量は森林の保水力を過小評価しているとの批判があったため国交省が再計算し、第三者機関の分科会が検証。6月に妥当との見解を明らかにしている。